伊豆天城山でハイキング-10
ゆっくりのんびり。
あとのことなど考えず新鮮な海鮮丼を堪能していたから気づけば13時を回っていた。
これからここから一時間以上かかる河津七滝に行って約一時間のハイキングをしてから、ここ周辺にある宿へと戻って来る。
ささと立てた予定では16時には宿に着くつもりだけど厳しそうだな。
それをわかってから知らずか、その後もトイレに行く順番や買いもしないお土産を見たりと時間は過ぎていく。
みんなが自由に動くから
団体行動って時間があっという間に過ぎていく。
まぁ、それも予想内の出来事とイライラせずに彼らとの旅を楽しもう。
車のドアを開けて熱さを解放してから乗り込む。
「おいしかったね」
「ここで良かったね」
「本当にお天気がいいね」
美しい海を見ながら笑顔は絶えずポジティブな話題が続いて車内は和気あいあい。
笑顔を絶やさないららは今年、ソフトウエア会社に就職して働き始めている。コロナ渦で始まった仕事は入社式こそ他の新入社員と顔を合わしたけどその後はリモートワーク。
「家でどんな仕事しているの」
「お客さんが使っているソフトがちゃんと動いているか点検するの」
パンデミックも落ち着いてきた今、週三回は会社に行くようになったらしい。
「会社に行った時は何してるの」
「うーん、お客さんのソフトがちゃんと動いているか点検するの」
「えっ、それって家でやっていることと同じじゃん」
「うん」
「それって会社に行く理由あるの?」
「そうなんだよ」
コロナを機に完全リモートワークになって会社に行く機会が滅多になくなったれんは私と同意見。
「うーん?」
それにお客さんの会社に行ってもやることは同じらしい。
「お客さんのパソコンを使って状況を確認するの」
「ううん。私が持ってきたパソコンを使うの」
「それは会社や家でやることと同じ?」
「うん」
「お客さんとの契約で定期的に訪問することになっているの」
「そういうわけじゃないんだけど・・・・・・」
「ねぇ、それって訪問する意味あるの?」
「うーん?」
どうやら本人もわからないようだ。
とりあえず社員の身、不思議があっても会社の方針に則らないといけないんだよね。それもまだ「新」だし。
会社というものに慣れず二年しか務めずに自営を始めた私に会社のイロハが理解出来なくて当たり前だ。もしそれを理解出来たらもっと長く勤められたはずなんだから。
ららは大学で一度は寮に入ったけどこれまたコロナのせいで集団感染を避けるため海外からの生徒など限られた人たちだけが利用を許され、彼女は一旦家に戻ってきてリモート授業を受け、卒業前の数カ月だけ寮に戻って今はまた家に住んでいる。
「就職したんだからちゃんとお家にお金入れているの」
「入れてるよ」
ちょっと自慢げに即答してきた。
えらいっ、いい姪っ子だ。
「今回の旅も自分の分は自分で出したの?」
間が空く。
「えっとぉ」
口を濁す。
「さっきの即答とは全然違うじゃん。出してないってすぐにわかるよ」
わっと車内に笑い声が響く。
それにしてもこの世に生を授かってすぐに対面して、小さな頃から面倒を見てきたららが自分でお金を稼ぐようになったと思うと本当に感慨深い。
時間の流れは決して早すぎるわけじゃないしその間に私もたくさんの経験をしてきたけど、内面ではいつまでも若いと思っているから、第三者の成長を見た時に改めて時の流れを知り、自分もそれだけ年を取ったことを痛感する。
ちなみに外資系企業に勤めた彼女の初任給は良いらしい。
今年入社してまだ七か月ほどしか務めていないのに彼女の口から転職の話が出てきた。転職を考えている、いない先輩からいろんな話を聞かせてもらえるチャンスがあったらしい。
確かに今は外資系企業の働き方が入ってきて、一つの会社にずっと務める人は少なくなってきていると思う。だけど一年も働いていない彼女がそれを説くように私たちに話していることに違和感を覚える。
その話はすべて彼女の体験ではなく先輩からの受け売りだと思うけど、話を聞きすぎて頭でっかっちになっていざという時に自分の判断で動けない人にはなってほしくない。
「一度くらいは自分の実力をつけて給与アップのために転職してもいいよね」
大学を卒業してからずっと同じ会社に勤めているれんは言う。
「でもヘッドハンティングしてくる外資は使い捨ても多いでしょ」
「そうしたら日本の企業に入ればいいんだよ」
日本の企業は何かあった時の待遇が厚い。れんはそれを経験したことがあるからこそ今の会社を辞めずにいるのだろう。そしてそんな自分の経験があるからこそ転職に夢を持っているのかもしれない。
それにしても若いうちはやる気をお金に換えてそれがなくなれば日本企業って。それじゃ、母国の会社が可哀そうすぎる。
頑張れ、ニッポン。
頑張れ、ニッポンの侍、侍女っ!
「まぁ、まだ働き始めたばかりだから与えられた仕事をきっちりやろうと思うんだけど」
「そうだよ。今すぐに転職の事を考えていないなら先輩たちの話は軽くだけ聞いておいて、実際にどうするか悩んだ時にしっかりと聞いてみるのがいいんじゃない」
その時はまたいろいろと情勢は変わっているかもしれないんだから。
自分の道を切り開くのは自分しかいない。選択は多数あっても引ける道は一つしかない。道は平だって険しくたっていい。ただ彼女らしい生き方を彼女なりに見つけてもらいたい。
主な登場人物:
私-のん、夫-たぁ、
姉-ささ、姉の夫-れん
姪っ子-らら、甥っ子-ぼう
これまでのお話
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