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たぁの遭遇-皆野アルプスを行く破風山ハイキング⑰

急だった下りは次第に緩やかになり道幅も広くなる。木々に覆われ、再び太陽の日差しから守られる。13時32分、休憩舎に到着。

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思ったよりも大きい舎には既に小さな子供連れた家族が昼食をとっている。軽く挨拶を済ませ邪魔にならぬよう反対側に腰を下ろす。

「はぁ。」

つい声が漏れる。

ゆっくりと腰を下ろしたのはバス以来。お腹もぐーっと音を鳴らす。待ちに待ったランチ、食べ物を取り出す手は早い。おにぎりにパクっと噛みつけば幸福感が広がる。豊かな緑に囲まれ、涼しい風が熱を帯びた体を冷やしてくれる。

これぞまさに休憩処。

ゆで卵にたぁとはんぶんこサンドイッチもお腹に入れば満腹。欲求が満たされ、一息つけばなんだか寒さを感じる。汗をかいた体はすっかり風で冷やされたようだ。

「そろそろ出発する?寒くなっちゃった。」

「うんっ、いいよ。」

休憩舎には道を示すいくつかのサインがある。二人が目指す大渕登山口は皆野駅近郊の登山口。ある標識には皆野駅とあるがコース名は破風山桜ケ谷コース。

これ違うよなっ?

標識の前で悩めるのん。地図とにらめっこしながら周辺の標識を確認し、関東ふれあいの道・猿岩と看板を見つける。

「この標識で合っているかな?」

「うんっ、ナビもこっちになっているよ。」

ふぅ、危なく違う方向に行くところだった。リュックを背負い、休憩舎を出るとすぐにたぉから声がかかる。

「ぶつからないで。」

????何に????

のんは周辺にぶつかりそうなものが見つからず、四方を見渡す。

「前に虫がぶら下がっているよ。」

目の焦点を変え、正面に意識すると緑芋虫がほっそい線でぶら下がりミッションインポッシブルをお楽しみ中だった。何もない空間にただ浮いているこの子、一体どこに行きたいのかしら?

 しばらく道は広く歩きやすい。今までの道を思えばなんと快適なことだろうか。

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多くの落葉樹に日が当たり明るさを増している。ここから先、大きな上りはなく徐々に標高下げていくはずだ。尾根道といえど傾斜がきつい上りか下り道ばかりだったので、なだらかな道は憩いのタイム。2つの幹が隣同士でまっすぐ伸びて丈夫で交差し、なんだかハグしているみたい。

「これのんとたぁ。」

仲良し対象物を見つければいつも二人に例える。ずっと仲良しでいたいから、ずっと仲良しでいられるように努めたいから。

「うん。」

たぁはいつも微笑んで聞いてくれる。互いのリズムで歩みを進め、再びのんはたぁの前を行く。

「ちょっと待って。」

後ろから聞こえるたぁの声。

へっ、なんか周りで不審な音した?そういえば熊避けの手叩きすっかり忘れていた。パンパンと二回ほど大きな音を立ててみる。

「だめだよ、鳥がいなくなる。」

鳥???

たぁへと視線を送れば彼は森の中をじっと目を凝らして観ている。

「さっきまで傍で見られたのに。」

のんの手叩きで逃げてしまったようだ。なんだか自分のせいかと気を落とすが、たぁの言葉足らずも1つの要因であると、すぐに気を取り直す。しばらくすると彼の目は再びその鳥をとらえたようで、指をさしてその場所をのんに伝える。

「長い尾が3つにわかれているよ。体は茶色で顔はオレンジ。」

顔がオレンジともなれば目立って見えるはずだろうとのんも目を凝らしてみるが、眩しい木緑以外目に入ることはなかった。ググっと力を入れた目は疲れ、見えぬものへの興味を失くし、森の写真撮影へと切り替える。

「あっ、キツツキ。」

「えっ?」

のんの興味はまた鳥へと向かい、急いで目を向けるも

「もう見えない。」

二兎追うものは一兎も得ず。根気ないよくばりのんの不覚。

「どうやって見つけたの?」

「音でわかったよ。」

音なんかしたかなぁ。注意散漫者にご褒美は与えられない。

「たぁはたくさんのご褒美ゲットだね。」

彼は小さくほほ笑む。恥ずかしがり屋の照れ笑いは見ているこっちが幸せになる。

たぁは森の生き物を見つけるのがうまい。鳥の他にも小さなキノコをいくつか見つけている。のんは渋いサルノコシカケだけ。見つけ下手ののんだけど良いパートナーと一緒だから幸せを分けてもらえる。

たぁはちゃんと幸せを分けてくれるから、のんも空想のおすそ分け。ほらっ未知の生物みたいな顔している子。

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