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詩の場所

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小山伸二の詩の置き場所です。
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2016年4月の記事一覧

鉛筆で詩を書くひとは

鉛筆で詩を書くひとは

鉛筆で詩を書くひとはどんなひと
中央線で西にむかって
麦畑につづく道に迷ってしまい
途方にくれて四月の雲を眺めるひとだ

鉛筆で詩を書くひとはどんなひと
死んだ恋人が忘れられなくて
来る日も来る日も
記憶を茶筅でかき混ぜるひとだ

遠い故郷の防波堤のうえを
ぼくは全速力で走った
潮風を全身であびるために
居なくなったひとに会えるかもしれない

子犬たちを連れて散歩に出たまま
それっきり帰って来ない

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花過ぎる、四月

花過ぎる、四月

その町に住んでいるひとから
写真が届く
帰る場所が見えない
映り込んでいるひとの気配
もう居なくなった影もあるんだね
アンサーはいらないよ
クエスチョンも見えない世界だから

里山から届いた
きちんと箱に収まった山菜の香りのように
律儀なこの月も
果てていくんだ

樹に咲く花が好き
文庫本においた枝折のように
胸いっぱいになって
同じところで
ちがう風に揺れている

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さようなら、三月

さようなら、三月

花のかげにすわりこむ
ひとのいる大学通り
足もとをみつめるこども
そぞろ歩くひとたちの声がきえていく
風がまだ冷たい三月に
あまりにたいせつなものを失った
声が見えなくなった
空を見ても
なくなったものの
影がきえてしまった

しろく
あかく
きいろく
春の咳が
ひとつ
ふたつ
みっつと響いている

ベンチに読みさしの本を置いて
すこし歩いてみようか
樹に咲く花は淋しい
ここにいないひとを思い出さ

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