さようなら、三月
花のかげにすわりこむ
ひとのいる大学通り
足もとをみつめるこども
そぞろ歩くひとたちの声がきえていく
風がまだ冷たい三月に
あまりにたいせつなものを失った
声が見えなくなった
空を見ても
なくなったものの
影がきえてしまった
しろく
あかく
きいろく
春の咳が
ひとつ
ふたつ
みっつと響いている
ベンチに読みさしの本を置いて
すこし歩いてみようか
樹に咲く花は淋しい
ここにいないひとを思い出させるから
いないひとの本を
読むぼくたちの淋しい三月
たいせつなひとを失ってしまった
三月がきえる
ひとりは
ひとりでしか
歩いて行くことができない
きみも、ぼくも
この町で
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