見出し画像

なんで人はネガティブなの?を脳科学的に説明してみた

はるか昔、数百万年前、私たちの祖先はアフリカのサバンナで暮らしていました。彼らは日々ライオンなどの獰猛な野生動物との生存競争を強いられていました。自分が動物園でライオンと同じ檻の中にいることを想像してみてください。2メートルのライオンがこちらを見ながらゆっくりと歩いて回っています。とんでもない緊張感と恐怖に襲われませんか?彼らはそんな環境で生活していたと考えられます。しかも、採取されたDNAから、彼らの視覚、聴覚、嗅覚は今の私たちほどは発達しておらず、またあまり早く走ることができなかったことがわかっています。ではどうやって私たちの祖先は生きのびることができたのでしょうか?

要因はいくつかあると考えられていますが、最も重要だったのは「考える能力」です。彼らは、過去に経験したことを振り返り、何が起こったのか分析し、未来に備えることができました。しかし、ただすべてのことを中立で公平に考えていたわけではありませんでした。


Negativity bias(ネガティビティバイアス)

脳のことで私たちが知っておくべきことが1つあります。

それは、脳はもともと私たちを幸せにするようには作られていない、ということです。

思わず「んなばかな!」と叫びたくなる話ですよね。でも少なくとも生物学的な、また脳科学的な見地からすると本当のことです。では脳の一番の目的は何なんでしょうか?

それは、私たちをできる限り長く生き延びさせることです。

脳はサバイバルツールなんですね。これは人間だけでなく、あらゆる生物に言えます。

では生物が長く生き延びるために最も大切なこと何でしょうか?それは何が危険で、何がそうでないのか見分け、危険をできるだけ避けることです。なので、脳は生存を脅かす可能性のあるものにより注意を向けるように進化してきました。

簡単にいうと、脳はもともとポジティブなことよりもネガティブなことにフォーカスしやすい構造なんです。

これを「Nagativity bias(ネガティビティバイアス)」と呼びます。
日本語に訳すと「ネガティブな傾向、癖」という意味です。私たちの祖先は、「考える能力」がネガティビティバイアスの影響を受けていたために、より効率良く生き残ることができたと考えられています。

急にネガティブなんたらが〜と言われてもピンときませんよね。
実際にどういう感じだったのか、例を使って説明します。

例えば私たちの祖先が森の中を歩いているとします。
ある時、20メートルほど先にある藪の後ろに大きな陰が見えます。
すると、彼らの脳は過去の経験をもとに「あれは何だ?」と瞬時に推測します。
そして彼らの脳は多くの場合次のうちどちらかのエラーを犯します。
1、 ライオンだと推測したが、本当はただの岩
2、 ただの岩だと推測したが、本当はライオン

さて、どちらが彼らを長生きさせる推測でしょうか?
明らかに1ですよね。DNAの解析から、彼らの脳は1のエラーを頻繁に起こしていたことが分かっています。つまり、彼らの脳は考えうる最悪のケースを想定することで、多くの危険を避け、生き残ることに成功したんです。


さて、それから数百万年後、令和元年の私たちの脳はどうなのか。
より複雑な思考ができるようになり、また想像力を身につけたので様々なものを作り出すことができるようになりました。しかし、ジャングルにいようが、サバンナにいようが、コンクリートに囲まれていようが、脳には関係ありません。私たちの「思考」や「想像」は、サバンナを生き延びた祖先と同じようにネガティビティバイアスの影響を常に受けています。

例えば友達や会社の上司に自分の良い所を5個褒められ、直したほうが良い所を1つ注意されるとします。するとそのあと、その5個について喜ぶのではなく、注意されたことが頭の中をぐるぐる駆け巡るという経験はありませんか?

また、何か新しいこと、例えば語学学校に通い英語を勉強しようと考えたとします。すると始める前に、英語のメリットよりも、クラスで自分だけ下手で恥ずかしい思いをする場面を想像したり、思ったより能力が伸びない自分を想像して、始めるのが億劫になった経験はありませんか?

これは私たちの思考や想像がネガティブ方向に引っ張られ、精神にもその影響が及んでいるからです。ある研究によると、1つのネガティブなことに対抗するにはその3〜5倍のポジティブなことが必要という話もあります。また脳科学の実験結果から、ネガティブな感情の方が記憶に長く残ることもわかっています。

長くだらだら説明しましたが、今回はこのへんで簡単にまとめて締めたいと思います。

1、 ネガティブは大切

進化の過程で、脳は危険を避けるためにネガティブなことに敏感になる必要がありました。かつてはネガティブに考えることが人類にとって大きなプラスだったんです。というか今も大事です。そのおかげで私たちは無事に毎日生きることができています。なので、ネガティブをむやみに否定するのではなく、「自分の一部なんだな」「そういうもんなんだな」と客観的にありのまま受け入れましょう感謝できればなお良いです。

2、 思考=自分ではない

思考とあなた自身の関係を理解することはすごく大事です。本を読んでるときや人の話を聞いてるとき、気がつくとまったく違うことを考えていた経験はありませんか?それは自分の意思とは別に脳が勝手に生み出す思考の嵐にさらわれているからです。実際、人間の脳は1日に約60000の思考を生み出すと言われています。そしてその大半が自分の意図しない無意味でネガティブなものです。しかしたくさんの人がその無作為な思考をあたかも自分の本心のように錯覚してしまいます。このような思考の嵐から抜け出すには、まず自分の思考を客観視する必要があります。「思考」に関しては近々話していくつもりです。ここでは「思考」と「自分」が別物なんだということ理解しておいてください。

3、 思考は変えることができる

神経科学の観点からいうと、思考とは脳内の神経回路の活動です。何万回も同じ思考を繰り返すと、それに関連する回路が太くなり、情報がより通りやすくなります。ある場所で特定のものを見たり、特定の音楽を聞くと、必ず元彼や友達のことを思い出したりしませんか?それは脳内に「あるもの、ある音楽→元彼」という神経回路が出来上がっているからです。ネガティブな思考も同じく一種の回路です。子どものころから特定のマイナス思考を繰り返していると、脳はそれが上手になってしまいます。思考を変えるには、脳を訓練して新しい回路を作る必要があります。英語ではこれをコンピューターになぞらえて「リプログラミング(reprograming)」と表現します。プログラムし直すという意味です。その方法も今後シェアしていきたいと思っています。


ということで、今回は祖先の話から「脳はもともとネガティブ寄り」ということを説明しました。

私たち人類は「生き延びる」という段階から「幸せに生きる」というステージに移りました。しかし、私たちの脳は放っておけばずっと「サバイバルモード」のままです。どれだけ生活が便利になっても、脳は必ず物理的にも精神的にもネガティブなことを見つけてきます。なぜなら世の中に完璧なものは存在しないからです。そしてそれは怒りや不満、不安、ストレスに姿を変えてあなたにやってきます。より幸せに生きるには、私たちの脳に「危険なことや足りないことじゃなくて、嬉しいことや楽しいこと、ありがたいことにもっとフォーカスしよう」と伝えないといけません。アマゾンで頼んだ荷物が1日遅れて届いた時、「予定と違うじゃないか!」と怒るのではなく、欲しいものがクリック一つで手に入る便利さや、現物を届けてくれる宅配のお兄さんの存在に自然に感謝できる思考や姿勢こそ、これからの私たちには必要だと思います。


最後までお読み下さりありがとうございました。

サポートして下さるととても大きな励みなります!より良いものシェアしよう!というモチベーションに繋がります! 頂いたサポートは知識と経験を深めるために使わせて頂きます!