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受け手となる我々のことをもっと想像して「政策名」を考えて欲しい。

マンボウ

こう聴くと、今の私たちは「二つのマンボウ」を思い浮かべるようになったのではないだろうか。


一つは「ユーモラスな姿で泳ぐ水族館の人気者」。


もう一つは「まん延防止等重点措置」だ。

「まん延防止等重点措置」の方の「マンボウ」は、ご存知のとおり「知事が飲食店への時短要請を命令できる」ものである。


しかし、この「マンボウ」には大きな問題がある。


そのネーミングから「まったく緊張感が伝わってこない」のだ。


問題視しているのは私だけに限らず、軽くTwitterで検索しただけでこのあり様である。

そして、

感染拡大期に措置を使うのが「上がりマンボウ」。

ステージ2相当まで抑えるときに使うのが「下がりマンボウ」。


まるで業界用語のようだが、こうなると余計上がったり下がったりして泳いでいる水族館の方の「マンボウ」を想起して腑抜けてしまう。


3月31日。

政府のコロナ対策分科会の尾身会長が、新型コロナウイルスの感染が再拡大している大阪府に対して、

「人々はどういうふうにしたらさらなる行動変容に協力して頂けるか。十分、考慮したうえで私はもうマンボウ(まん延防止等重点措置)を発令することを検討する時期にきていると思います」

と発言している

もうマンボウ・・

こういう公の場で、こういう立場の人が、分かりにくいと思う配慮なのか真意は分かりかねるが、個人的には不適切な発言だったと思う他ない。


「名前」が人に与える影響をあまりに軽く考えていないだろうか。


当然「マンボウ」よりも遥かに前から要因は積み重なっているわけだが、この政策はほとんど効果を発揮せず、三度「緊急事態宣言」は発令された。


東大の養老孟司氏は「自分の壁」という本の中で、

政治で何かいいことはあったのか。

このことは自分の生活を振り返ったうえで考えてみたほうがいいのではないでしょうか。

私は、政治は私たちの生活とは基本的に無関係なところで動いているという感じがして仕方がありません。

と述べている。


政治とは端的に言えば、「市民が払った税金をどのように分けたら、みんなが豊かに暮らせるかを考えること」であると思うのだが、養老氏のおっしゃるように私も、基本的には生活とは無関係なところで動いているものだと感じてきた。


政治で何かいい思いをしたことがほとんどないのだ。

したがって、ここまで複雑化した仕組みを無にすることは不可能なレベルで、決して無政府主義を訴えるつもりもないが、今までは政治と生活のかかわりはそこまで大きなものだとは考えてこなかった。


がしかし。

新型感染症の発生以後、自分の中で、政治と生活との関わりがこれまでよりも確実に大きくなってきているのを感じている。


養老氏は、

政治が問題になってくるのは、社会に問題があるということです。

と述べているが、まさにこれだ。


私も含め、政治的無関心というものが広がっているとすれば、結局切羽詰まっていないと感じている人が多い、ということに過ぎないのだろう。


私の「マンボウ」に対しての厳しい目線は、こういう心境の変化が間違いなく育んでいる。

そして、政治と生活との関わりが強くなればそれを黙って見逃すわけにはいかない。

故にこうして書いている。


私は仕事で「政策のネーミング」をしたことはない。


がしかし、これまでの経験則もふまえて思うに、

狙い」が受け手にも明瞭に分かるもので「思い出しやすい」ものはいい政策名と言っていいのではないだろうか。


例えば、今一挙手一投足が注目される現都知事の小池百合子氏が、昔環境大臣だったころに打ち出した「クールビズ」は、政策の狙いが分かりやすく、覚えやすくもあり「いいネーミング」だったと私は思う。

しかしこれは、公募で集まったネーミングの中から決まったものだ。

私が具体的に恩恵を受けた数少ない政策と言ってもいいかもしれない。


お隣の国、中国では「グレート・ファイアウォール(金盾)」というネット検閲システムが、全土に敷かれておりインターネットの閲覧や通信が制限されている。

内容の良し悪しやその影響はさておき、狙いが分かり易く、覚えやすい政策名とは言っていいのではないだろうか。


カタカナや英語を用いればオールオッケーという訳ではもちろんない。

大事なことは、「狙い」が受け手にも明瞭に分かり、思い出しやすいということである。


今回の「まん延防止等重点措置」について個人的な意見を言えば「まん延」はむしろ余計で、簡潔明瞭に「防止重点措置」で十分だっただろう。


この方が「緊急事態宣言」と同じく「漢字6文字」で認識しやすく、「マンボウ」といった腑抜けてしまうような略称も生まれなかった。


手を抜いているとは思わない。

でも、受け手となる我々のことをもっと想像して、実効性のある中身はもちろんのこと、その「政策名」も考えることはできるのではないだろうか。

今はこんな風なことを強く思う。



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