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「そと」と「うち」の区別はどこに? [アリの住みかの話]

鈴木真梧

アリを飼育するにあたって、アリの住みかは人間と同様に重要なことです。自然界ではアリの多くは主に土の中や、朽ちた木の中などに巣をつくることが多いようです。飼育用のアリの巣といえば、よく夏休みの自由研究などで見かけるアリの観察キットのように、透明なゼリー状のものをアリに掘らせて巣づくりさせるものを思い描く人も多いかと思いますが、アリの飼育でよく使われているのは石膏巣と呼ばれるものが代表的なものです。簡単なものではプラスチックのケースに石膏を敷いたものや、凝ったものでは本物の巣のように複数の部屋からなるものまで様々です。

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ではなぜ巣に石膏を使うのか? 一番の理由は湿度を保つためです。アリが巣を作る土中は水分を含んでいて適度な湿度があるため、その場所と同じように石膏に水分を含ませて保湿するためです。その他、脱脂綿などに水分を含ませたものや、フラワーアレンジメントで使われる吸水スポンジで保湿する方法などもあります。

アリを飼育する巣としてもう一つ重要なのが餌場と呼ばれる場所の設置です。読んで字のごとく餌を捕獲して食べたりするスペースです。石膏巣からビニールチューブで繋がっている右側のクリアーなケースの方がそれにあたります。

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アリは餌を見つけると巣に直接持ち込む場合と、腹部にある素嚢(そのう)という袋にためて巣に持ち帰る場合があります。多くのアリは胃の他にこの素嚢という器官を持ち、水分の多い餌などをここに溜めて巣に戻り、他のアリたちに吐き戻して与えます。よくインコやオウムなどの種子食類の親鳥がヒナに餌を与えるような感じですね。アリたちも同じように口移しで餌を与える姿をよく見ることができます。卵や幼虫を世話しているアリたちや女王アリは、基本的に自ら餌を探しに行かないので、働きアリたちから口移しで餌をもらっています。

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また餌場のスペースは餌を捕獲する他に、ゴミを捨てに来る目的としても使われます。面白いことに巣から持ってきたゴミを、口に合わなかった残りの餌に捨てて行くことがたまにあります。まるで「不味かったからもっと美味しいものをくださいな」と言わんばかりに。好き嫌いは別としてもゴミは決まった曜日に出してほしいのですけれどね。左がゴミを捨てられた餌。

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ようするに女王が率いる一つのコロニーをファミリーと捉えれば、餌場というスペースは彼女たちにとって「そと(公の場)」になるんですね。そして巣の方が「うち(私の場)」ということになります。つまりアリたちは外と内の空間を明確に分けて暮らしているのです。

ではアリたちはどのようにして「そと」と「うち」を区別しているのでしょうか? それは空間の湿度の違いによって判別しているようです。湿度の高い「うち」と、湿度の低い「そと」の場です。餌場の方にも石膏を敷いて空間の湿度が同じになってしまうと、「そと」と「うち」を区別できなくなり、餌場で卵や幼虫を育ててしまうこともあるそうです。

そして「そと」と「うち」をきちんと区別できている空間では、アリは巣と餌場の境界に見張り役を配置しています。下にある写真でいうと、巣の左下あたりにある巣穴の周辺に見える4匹のアリたちが見張り役です。何か危険を察知すると仲間に知らせたり、脅威に対して攻撃をしかけてくるアリもいます。ちゃんと役割分担があるんですね。

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さて、それはそうと私たち人間の方は、どのようにして「そと(公の場)」と「うち(私の場)」を区別しているのでしょうね? 玄関を境とした内側と外側でしょうか? 家族の待つ愛情指数の高い場所とそうでない場所でしょうか? もしくはプライベートな空間の有無? もちろん湿度の高い低いではないと思いますが、泥酔して街中で寝転んでいる人や、電車内でお化粧をしている人を見かけると、私たちの「そと」と「うち」の境はいったいどこにあるのか色々と考えさせられます。

今やコロナ禍の影響のため、自宅が仕事場となるリモートワークが続くと、「そと」と「うち」の区別がますます曖昧になり判別しづらくなってきてしまいますね。今の時期、アリたちは越冬中なので巣から出てくることがめっきり少なくなり、私たちと同じく春までじっと我慢なステイホームな状態が続いています。早く春よ来い!

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