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【経営に活かす読書メモ】シン・ニホン 安宅和人

エンタメ系事業会社サイバードでCOOをやっている私が、読書から得られた示唆を経営にどのように活かすかという視点でまとめる読書メモです。このため、本の骨子をまとめたものではありません。

今回は、名著「イシューからはじめよ」の著者でもある安宅和人さんの「シン・二ホン」が対象です。
本文章のアジェンダは、産業構造、戦略、生産性、スキル育成となります。

産業構造

「国富を生む方程式の変容」という言い方で、Old GameからNew Gameの変化点を挙げています。

Old Game ⇒ New Game
・市場でのプレゼンス・寡占
⇒未来への期待感、寄与
・既存の枠組みの中での規模と効率の追求
⇒既存の枠組みを超え、ICT、技術革新をテコに世の中をアップデート
・既存のルールでのサバイバル
⇒ジャングルを切り開きサバイバル

これを見たときに、株価とファンダメンタルズの関係が頭に浮かびました。私が20年ほど前に経済学を勉強していたころは、株価はランダムに推移するが、企業が持つファンダメンタルズに収斂していく考え方が主流だったかと思います(いまもそうかもしれないですが)。しかし、近年は株価が企業への期待値として表現され、その期待値に引き付けられて優秀な人材が入ったり、優良企業とのアライアンスが成立したりなどし、ファンダメンタルズがあがるケースがあると思います。つまり、ファンダメンタルズで株価が決まるという一方向の因果関係から、株価がファンダメンタルズを決めるという因果関係も生まれていると思います。(株価は上場企業に限らず、非上場企業の資金調達時のものも含みます。ユニコーン企業と呼ばれるような時価総額10億ドル以上の未上場の会社が典型)

この点から、自社事業で収益をあげ、そこから投資余力を作って事業拡大を図るだけでなく、自社の期待値をあげ、ジョイントベンチャーのような形で資金を調達したりすることも必要であると感じました。
また、人材市場に対しても、この事業をやっているからではなく、こんな事業をやりたいから、という魅力付けも必要だと感じました。

戦略

戦略立案のアプローチとして「イニシアチブ・ポートフォリオ」を説明されています。

完全な予測は不可能という前提の下に、何を仕掛けるか(取り組み)を考える。戦略的に好ましい結果をもたらす状況を作り上げるためにどういう仕掛け(イニシアチブ:課題解決プロジェクト)を打ち込むかをポートフォリオとして考えるということだ。
仕掛けのバランスは刈り取りの時間軸と、事業側の馴染みやすさ(familiarity)によって判断する。仕掛けはすべて環境変化に応じて行う。大きく4種類でコアスキルの展開、新事業の構築、事業ポートフォリオの改変、組織全体としてのインフラづくり、だ。

当社でも既存と新規、現在と未来のバランスは考えなければという意識はあり、実行していますが、
・事業のポートフォリオとして考えていて、「仕掛け」のバランスまで思考がまわっていなかった
・それぞれの時間軸・馴染みやすさにどれだけ配置するのが良いのかという度合いまでを考えられていなかった
という点は気づきがありました。

生産性

日本のGDPが伸びていない理由として、人口の問題以前に生産性が伸びていないことが挙げられています。また、ICTセクターだけの問題でないことを挙げ、日本の産業全体として生産性があがっておらず、膨大な伸びしろがあることを指摘されています。

これは意外な指摘でした。日本の高度成長期は人口増加と都市への人口移動、そしてソニーやホンダなどの素晴らしいベンチャー企業が生まれたことが重なって実現したもので、人口増加と都市への人口移動が収まった現在はベンチャー企業の成否が国の成長の成否も分け、GAFAなどを生んだ(ICTセクターが成功した)米国とは差をつけられたと解釈してました。ところが、ICTセクターだけの問題ではなく、日本の産業全体の問題という分析でした。

そして、日本だけが「伸びしろだらけ」の状態に甘んじている要因として、若者、女性、シニア層の伸びしろが挙げられています。

当社は創業20数年なので、30歳前後が中心層で、また、女性向け恋愛ゲームが主力事業なので女性比率も高い状況です。このため、若者、女性の伸びしろを最大限発揮できる環境を作らなければという使命感を改めて持ちました。また、現状ではシニア層が社内にあまりいないので、社外にいるシニア層とのリレーションを構築して、スキル・経験を活かせるような場を作るべきかなとも思いました。

スキル育成

スキル育成の必要性を説く中で、国語の刷新が挙げられています。

Not this ⇒ But this
・小説、随筆の書き手の理解、言いたいことの推測 
⇒分析的、構造的に文章や話を理解し課題を洗い出す(理解・解題)
・感想文。感じたことの書き連ね。建設性のない批判
⇒論理的かつ建設的にモノを考え、組み上げる(構成)
・複雑な敬語。ソフトで角の立たない表現。古文・漢文
⇒明確かつ力強く考えを口頭及び文章で伝える(表現・伝達)

この指摘はハッとさせられました。確かに学生時代に勉強していた”国語”は、慮り、空気を読み能力を鍛えるものであり、思考・コミュニケーションを鍛えるものになっていません。
私個人は新卒でコンサル会社に入り、ロジカルシンキングを身につけなければならない環境に置かれたので半強制的に学ぶことができましたが、そうでない場合は十分に学ぶ機会がないと改めて認識しました。
これまでもロジカルシンキングを身に着けるための施策は社内でも検討し、実施してきましたが、日本の国語教育ではこの点が欠落していることをきちんと認識した上での対応が必要と強く感じました。

最後に

「シン・二ホン」は膨大なデータに基づいた分析、そして提言がなされているので、読む人が置かれた環境・問題意識によって、様々な学びがある一冊だと思います。
新型コロナの影響もあり外出自粛で読書時間が取りやすい環境だと思うので、読みごたえがあるこの本を是非読んでみてください。

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