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【シリアス】名前をなくした天使

繁華街の暗がりに立つ美乃莉みのりは、たちんぼとして生活を送る10代のギャル。
そんな彼女の前に現れる冴えない中年男性、和弘。
和弘はしつこく美乃莉に付きまとい交渉を持ちかけますが、美乃莉はその執拗な態度に不快感を隠せません。
「一体何が目的なんだよ!」心を閉ざし、拒絶する美乃莉。
彼の背後に隠された意図とは? そして、美乃莉が抱える過去とは?
絡み合う運命と謎が浮かび上がる中、二人の対決はついにクライマックスへ──
禁断のゲームが今、幕を開けます!

*************

ジャンル:シリアス

出演

  • 美乃莉:吉田千恵

  • 和弘:青木弘和

  • 亜里沙:村木芳

スタッフ

  • 作・演出:山本憲司

  • プロデュース:田中見希子


『名前をなくした天使』シナリオ

登場人物
 美乃莉みのり(19)
 和弘 (55)
 亜里沙ありさ(21)

美乃莉「またおめえかよ」
和弘「やあ」
美乃莉「帰れよ」
和弘「何時から立ってるんだ」
美乃莉「関係ねえだろ。ほっとけよ」
和弘「こんなとこにいてもいいことないぞ」
美乃莉「だからおめえには関係ねえだろ」
和弘「ここでお客を取ってるんだろ?」
美乃莉「そうだけど? 悪りぃかよ」
和弘「いくらで」
美乃莉「しつけえなー! だから関係ねえだろ?」
和弘「どうして私から逃げるんだ」
美乃莉「はあ? おめ、昨日腕引っ張ってどっか連れて行こうとしたの忘れたのかよ。酔っ払ってんのかよ」
和弘「酔っ払ってなんかないよ。しらふだよ」
美乃莉「まだアザになってんだよ、ほら」
和弘「あ……痛くしたのは悪かった。ちゃんと払うから」
美乃莉「は?」
和弘「だから払うと言ってるんだ」
美乃莉「はあ? おめえなんか客に取るかよ」
和弘「お金を払えば買えるんじゃないのか」
美乃莉「客かどうかはあたしが決めんだよ」
和弘「いくらだ」
美乃莉「は? だから取らねえっつってんだろ。あたしはオヤジは取らねえの! 30代以下しか!」
和弘「仮にだよ。仮に」
美乃莉「うっせえな! じゃあこれでいいよ」
和弘「二……万?」
美乃莉「二万なわけねえだろ!」
和弘「まさか二千円?」
美乃莉「バッカじゃねえの。二千万だよ。てめえなんか二千万だよ!」
和弘「え……」
美乃莉「払うのかよ」
和弘「それは……」
美乃莉「じゃ帰れ、もう来んな!」
和弘「……払う! 払うよ!」
美乃莉「はあ?」
和弘「払えばいいのか?」
美乃莉「マジ頭イカれてんじゃねえのこのオヤジ。二千万っつってんだぞ」
和弘「わかったから。二千万で」
美乃莉「じゃ出せよ今」
和弘「今すぐには出せないんだ。いや、でも出す気はあるぞ。ほんとだぞ」
美乃莉「それじゃ金もってこいよ。そしたら相手してやるよ」
和弘「ほんとか?」
美乃莉「戻ってきた時いなかったら知らねえけど!」
和弘「わかった。人に持って来させる」
美乃莉「は?」
和弘「それでいいだろ?」
美乃莉「おめえさあ、マジ頭おかしいんじゃねえの? クソ気持ち悪いんだけど。二千万なんて誰が払うんだよ」
和弘「だから私が払うって言ってるじゃないか。私の相手してくれるんだろ?」
美乃莉「誰が信じんだよ。そんな大金持ってくるなんて」
和弘「持ってくる」
美乃莉「お前……(突然何かに気づき)やべっ! あっぶねー!」
和弘「何が」
美乃莉「なんか客っぽくねえと思ったんだよ、おめえ警察だろ!」
和弘「はあ?」
美乃莉「あぶねー! さっきまで言ってたこと嘘だかんな。冗談冗談。冗談ですー」
和弘「私は警察なんかじゃないぞ」
美乃莉「先週三人ぐらい引っ張られていったばっかしなんだよ。あたしはここでぶらぶらしてるだけですからー」
和弘「だから警察じゃないって!」
美乃莉「ふーん、じゃああれか? 世直し隊みたいなやつか! ふざけんなよ。マジうぜえんだよ。余計なお世話なんだよ。ったく」
和弘「違うよ」
美乃莉「なんであたしがここでこんなことしてるか知りもしねえくせに余計な世話ばっかし焼きやがってよ。自分の心配だけしてろ酔っ払いが!」
和弘「どうしてだ!」
美乃莉「は?」
和弘「どうしてこんなことに身をやつしてるんだ」
美乃莉「なんでおめえにそんなこと話さなきゃいけねえんだよ。なんだっていいだろ理由なんか!」
和弘「話せない理由があるんじゃないのか?」
美乃莉「あたしは好きでやってんだよ!」
和弘「好きでやってるなんて嘘だろ。ほんとはこんな……たちんぼ・・・・なんかやってて楽しくなんかないだろ?」
美乃莉「楽しいんだよ! おめえみてえなオヤジにわかるわけねえだろ!」
和弘「君は自分のことがわからないんだろ?」
美乃莉「(意表を突かれ)えっ……?」
和弘「聞いたんだ。その……記憶を……」
美乃莉「なんだよ、うっせえよ!」
和弘「記憶を、なくしてるんだろ!」
美乃莉「なんだよ、マジなんなんだよ!」
和弘「どういう経緯でそうなったのかわからないけど、いつからか記憶がなくなってるんだろ?」
美乃莉「亜里沙さんか……ペラペラ喋りやがって」
和弘「もっと自分のこと大事にしなきゃだめだよ!」
美乃莉「なんだかんだうるせえと思ったら説教しに来たのかよ、このオヤジ」
和弘「説教じゃないんだ。お前に思い出してほしいんだ!」
美乃莉「何だよそれ。医者かなんかかよ。つかお前・・? いまお前・・っつった?」
和弘「(ハッとして)いや……」
美乃莉「お前なんて言われる筋合いねえけど! マジなんなんだよ!」
和弘「その……」
美乃莉「つかてめえ一体何者なんだよ。何が目的なんだよこのハゲ! きったねえ顔してさあ。くせえし。こっち見んなよ!」
和弘「(突如、嗚咽)うっ……くくっ……くっ……」
美乃莉「は……?」
和弘「(激しく泣く)どうして……どうしてこんなことに……」
美乃莉「なんだよ。なに泣き出してんのー。え、今のあたしの言葉で傷ついた? クソきもいんだけど! 帰れよ!」
和弘「信じて……くれないかもしれないけど……いや、言えない……」
美乃莉「はあ? マジ気持ち悪りぃ。勘弁してくれよー。もうこっちが帰るわ」
和弘「待ってくれ!」
美乃莉「なんだよ!」
和弘「美乃莉!」
美乃莉「ミノリ?……って誰」
和弘「とりあえず、聞いてくれないか。とりあえず。とりあえず聞いてくれ!」
美乃莉「なななんだよ、こっち来くんなって! マジうぜえ」
和弘「お前は……お前は私の……私の娘なんだ……」
美乃莉「え……」
和弘「記憶がないんだろ? わからなくてもしょうがない」
美乃莉「な、なに急に言い出すんだよ」
和弘「大学から連絡が取れなくなったと聞いて出てきたら、お前のマンションは空っぽで……」
美乃莉「え……」
和弘「もう何日も帰った形跡がなくて……警察にも探してもらったけど結局行方がわからず……」
美乃莉「え……?」
和弘「大学やマンションの周りだけでなく、ほうぼう探して……」
美乃莉「え、ちょっ待てよ」
和弘「……もうこんなところにはいないだろうと思って昨日ここにたどり着いて……そしたら……」
美乃莉「うそだろ……」
和弘「いつからなんだ! いつから記憶がないんだ!」
美乃莉「そ、それはマジ覚えてねんだよ」
和弘「お前にはわからなくても、私には娘だということはわかる。でも、いきなり父親を名乗っても怪しまれるだろ? だから、どうやって近づこうかといろいろ考えて」
美乃莉「マジか……」
和弘「私は悔しいよ。ようやくお前を探し出したと思ったら、こんなことやってて……」
美乃莉「それは……それは仕方ねんだよ」
和弘「仕方なくはないだろ。仕事なんかほかにあるだろ」
美乃莉「そんなの差別だろ? あたしはあたしでプライド持ってやってんの!」
和弘「こんな仕事にプライドなんかあるか!」
美乃莉「あたしがなにやったって自由だろ!」
和弘「お前はいつもそうだ。昔っからそうだった。どうしてだ!」
美乃莉「え?」
和弘「最初に家出したのは、小5の時だったな」
美乃莉「は?」
和弘「近所のコンビニの店員かなんかの男の家に上がり込んで……父さん、警察と一緒にアパートに乗り込んだよな!」
美乃莉「覚えてねえって」
和弘「中学に入ったらすぐに悪い仲間と入れ墨してきたな」
美乃莉「タトゥーなんていっぱい入れてるよ」
和弘「しょっちゅう夜中に家を抜け出しては不良の高校生たちと、酒飲んで補導されて……」
美乃莉「まあ……やってるかもね」
和弘「どうしてお前はいつもいつも私を困らせるんだ!」
美乃莉「だからそうかも知んないけど覚えてないの!」
和弘「男手ひとつで私なりに努力してきたつもりだ。でも、広告代理店の営業ってな、深夜になることもしょっちゅうなんだ……だから、お前に寂しい思いをさせてきたのは、そうかもしれない」
美乃莉「そんなことだろうと思ったよ」
和弘「でもな、私は、私は頑張ってきたんだ! すべてお前のためなんだぞ! お前に不自由させないようにと思って一生懸命働いてきたんだぞ! なのになんでいつも私の前からいなくなる! どうしていつも迷子になる! 私はずーっとお前を探してばっかりだ!」
美乃莉「それは!」
和弘「どうして……どうして!」
美乃莉「それは! それは……見つけてほしいからじゃないの?」
和弘「何?」
美乃莉「あたしがそうしないと、あんたが見てくんなかったからじゃねえの? そうやっていっつも仕事を言い訳にしてさ!」
和弘「それは……」
美乃莉「あたしのためにって言いながらさ、結局あんたは自分が自分がって言ってるだけであたしのこと見てなかったんだよ! そうじゃねえのかよ?」
和弘「そんなことは……」
美乃莉「きっと死のうとしたことだってあったはずだよ」
和弘「ああそうだ。思い出したのか!」
美乃莉「ちげえよ、見ろよこれ、ほら!」
和弘「こ、このためらい傷……」
美乃莉「この腕のいっぱいあるやつてそういうことだろ?」
和弘「ああ……」
美乃莉「あたしはわかるよ。きっと……きっとあたしは自分でクソみたいな記憶を消したかったんだよ。あたし自身で!」
和弘「何だって?」
美乃莉「あんたが今度こそマジで見つけてくれるかどうか試したんだよ。だから記憶も自分から失くしたじゃねえの!」
和弘「……そうか……そうなのかもしれない……」
美乃莉「ほら、全然あたしのことわかってなかったんじゃね? 未だに。あんたが探してんのは誰なの? あたしなの?」
和弘「美乃莉……」
美乃莉「そうだよ。あたしを探してんじゃないんだよ。あんたが探してのはあたしじゃなくて亡霊かなんかなんじゃねえの!」
和弘「そんなこと言わないでくれ美乃莉!」
美乃莉「死んじゃえよもう、親なんかいらねえよ!」
和弘「そんなこと言わないでくれ!」
美乃莉「あたし大学行ってんだろ? もう未成年じゃねんだろ? ならマジでほっといてくれよ!」
和弘「悪かった。きっとお前の言うとおりだ。ほんとにごめん! この通りだ!」
美乃莉「今頃謝ったって遅せえんだよ、手遅れなんだよ!」
和弘「(涙声)ごめん! 今度こそお前のことをちゃんと見る。だから、一緒に帰ってくれ! ごめん! 父さんを許してくれ!」
美乃莉「(涙声)バッカじゃねえの? ごめんって言われて許すと思ってんのかよ!」
和弘「(泣く)うっうっ……」
美乃莉「(泣く)うっせえだよ! バカ親父!」
和弘・美乃莉「(しばし嗚咽)……」
   別の足音が近づく。
亜里沙「え、なに泣いてんの?」
美乃莉「亜里沙さん……」
亜里沙「どしたの?」
美乃莉「う、うん……」
亜里沙「誰この人」
美乃莉「ああ、うん……つか亜里沙さんでしょ、あたしが記憶ないことぺらぺら人に話したの」
亜里沙「みんな知ってんじゃん、ここら界隈。あたしが喋んなくても」
美乃莉「そっか……」
亜里沙「つか誰」
和弘「友達か?」
美乃莉「うん? うん……(亜里沙に)この人、父親」
亜里沙「えーっ! 見つかったの?」
美乃莉「そうみたい……」
亜里沙「身元わかってよかったじゃん!」
美乃莉「どうも……」
和弘「亜里沙さん? 世話をかけたね」
亜里沙「あれ? どっかで会いましたっけ」
和弘「いや、人違いじゃないか?(美乃莉に)とりあえず今日は帰ろう。な、美乃莉」
亜里沙「美乃莉?」
美乃莉「そう」
亜里沙「マジ受ける! ユカリじゃなかったんだ!」
美乃莉「タトゥーね……」
亜里沙「そっか。自分の名前なんか彫んないか首に」
美乃莉「そだね……」
和弘「いいから帰ろう」
亜里沙「たしかに美乃莉……さんなんですよね」
和弘「そうだよ」
美乃莉「ありがとうございました、亜里沙さん。いろいろ」
亜里沙「うん。じゃまたね。でいいんだっけ」
美乃莉「もちろん!」
   二人の足音去っていく。
亜里沙「(つぶやく)え、待って……(呼ぶ)ユカリ!」
美乃莉「じゃ!」
亜里沙「ユカリ! 待って!」
美乃莉「え?」
亜里沙「逃げて!」
美乃莉「は?」
亜里沙「スマホ! 今送った! 見て! ネットニュースで見た人!」
美乃莉「は?」
和弘「な、なんだ」
美乃莉「(読む)娘を自殺で失った失意の父……って?」
亜里沙「誰でもかれでも娘だって言って回ってる頭おかしいオヤジだよ!」
美乃莉「え、誰あんた! 父親じゃないの?」
和弘「お前は私の娘だよ美乃莉!」
美乃莉「キャーーーッ!」
和弘「どうした! 美乃莉!」
亜里沙「逃げてユカリ!」
美乃莉「離して!」
和弘「美乃莉! どこに行くんだ!」
美乃莉「あたしはあんたの娘じゃないんだろ!」
和弘「何を言ってるんだ美乃莉、記憶が戻ったじゃないか」
美乃莉「それはあんたの娘の思い出だろ!」
和弘「腕に傷だってあったじゃないかほらっ!」
美乃莉「離せって!」
和弘「死のうとしたんだろ?」
美乃莉「ちげえよ! ためらってんだろ! 本気で死のうとはしてねんだよ! あんたの娘とは違うんだよ!」
和弘「うそだ! 私が守ってやるから!」
美乃莉「あたしは……あたしは、生きるんだよ!」
和弘「美乃莉ーッ!」
美乃莉「あたしは誰だかわかんないけど、あたしの人生を生きるんだ!」
                               〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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*番組紹介*
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