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【シリアス】救世主

殺人を犯したという少年が児童相談所に送致されてきた。
担当した児童福祉司の千夏は、
人を殺したと言い切る少年が何かを隠していると直感する。
そして彼と対峙し、本心を聞き出そうとする。

千夏は真実に辿り着くことができるのか?
そして救世主とは?
今回は、どっしりとした人間ドラマをお送りします。

緊張感あふれる二人の丁々発止の舌戦をお楽しみください!

*************
▶ジャンル:シリアス

▶出演

  • 千夏:岡田陽子(スターチャンネル)

  • 祥吾:佐藤恵子(東北新社)

▶スタッフ

  • 作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロジェクトマネージャー:大屋光子(東北新社)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 収録協力:映像テクノアカデミア

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『救世主』シナリオ

登場人物
 千夏ちなつ(45)児童福祉司
 祥吾しょうご(11)小学五年生

千夏M「部屋に入るとその少年は顔を上げて私を真っ直ぐに見た。こんなに澄んだ目をした子が人を殺めたとはとても思えなかった」
千夏「西山祥吾しょうご君ね。私、倉品千夏くらしなちなつと言います。よろしく」
祥吾「よろしくお願いします。倉品さんは……弁護士なんですか?」
千夏「私はこの児童相談所の児童福祉司。あなたの味方よ。なんでも話してね」
祥吾「はい。あの……」
千夏「何?」
祥吾「僕……死刑になるんですか?」
千夏「死刑? うふふ、ならないよ」
祥吾「何かおかしいですか?」
千夏「ごめんなさい。あなたのことを笑ったわけじゃないの。死刑なんてそう簡単になるわけじゃないの。人が人を裁くって大変なことなの」
祥吾「はあ……」
千夏「それに、あなたは十一歳。そもそもあなたを法律的に罪に問うことはできないの」
祥吾「人を殺してもですか?」
千夏「祥吾君は罪を犯したことを悔いて償いたいって思ってるのね。いいと思う。でも気持ちの話と法律の話は別。少年法上、あなたは刑務所に入ったり死刑になったりすることはないの」
祥吾「そうなんですか」
千夏「祥吾君。単刀直入に聞くね。あなたは同級生の佐々木真桜まおさんのお父さんを殺したんですか?」
祥吾「……はい」
千夏「そんな簡単に答えないで!」
祥吾「え?」
千夏「死刑にならないとは言った。でも、人を殺したとなったら、その罪は一生償っていかなきゃいけなくなるのよ」
祥吾「わかってます」
千夏「あなたは、人を殺したの?」
祥吾「はい。そうです。殺しました」
千夏「本当に?」
祥吾「だから本当です」
千夏「言葉は慎重に選んで」
祥吾「だから殺したって言ってます」
千夏「祥吾君、あなたもしかして自暴自棄になったりしてない?」
祥吾「ジボージキ?」
千夏「生きることに対してやけくそになってないかってこと。あなたのご家庭のこと、一通り調べさせてもらいました。お母さん、去年再婚されて、とっても若いお父さんが新しく来られて……大変だったね」
祥吾「それが何か」
千夏「ご近所に聞いたんだけど、あなた何度も家出してるんですってね。お父さんとうまく行ってなかったんじゃない?」
祥吾「だったらどうだって言うんですか」
千夏「話したくない気持ちもわかるよ」
祥吾「関係ないです」
千夏「じゃあどうしてあなたは自分の罪を認めるの!」
祥吾「だから、僕がやったからですって!」
千夏「あなた、大人を信じられないの? 私のこと、信じられない? 私はあなたを救ってあげたいと思っているの。だから本当のことを言ってちょうだい!」
祥吾「ぼくは佐々木真桜の父親を殺しました」
千夏「じゃあ動機は?」
祥吾「動機……」
千夏「動機を教えて」
祥吾「それは……」
千夏「動機もなく人を殺したりしないよね?」
祥吾「……ただ人を殺したいって思うことだってあるかもしれないでしょ」
千夏「一般論じゃないの。あなたの本心を聞かせてと言ってるの」
祥吾「動機なんかないです。ただ、学校を休んだ佐々木真桜にノートを届けに行ったらお父さんがいて……それで殺したいと思ったから殺しただけです」
千夏「そんな話、信じると思う?」
祥吾「ほんとです」
千夏「ノートを届けに行ったらたまたま包丁見つけてそれで殺したって言うの?」
祥吾「そうです」
千夏「なんでそうなるのよ」
祥吾「なんでって、そうだから」
千夏「そんな嘘を言って何か得でもあるの?」
祥吾「ないと思います」
千夏「そうよね。あるとしたら、別のものね」
祥吾「何を言いたいんですか」
千夏「はっきり言うけど、あなた、誰かをかばってるんじゃない?」
祥吾「かばってる……?」
千夏「あなたは本当は殺して──」
祥吾「佐々木真桜は」
千夏「何?」
祥吾「佐々木真桜はなんて言ってるんですか」
千夏「気になるのね」
祥吾「そりゃ……」
千夏「聞きたい?」
祥吾「いえ……いいです」
千夏「真桜さんのことが気になるのは、お父さんのこと殺してしまったからじゃないんでしょ。真桜さんの口から真実が語られるのをあなたは恐れているんじゃない?」
祥吾「どういう意味ですか」
千夏「真桜さんは、お父さんから……言えないようなひどいことをされてたらしいの。あなた、そのこと知ってたんじゃない?」
祥吾「だとしたら?」
千夏「(ため息)いえ……いいわもう」
祥吾「途中まで言ってやめるなんて卑怯です」
千夏「私の推理なんか言いたくないの」
祥吾「言えばいいじゃないですか」
千夏「あなたの口から聞きたいの!」
祥吾「だから何を!」
千夏「あなたが誰かのために、嘘をついてるってこと!」
祥吾「ふっ……(笑う)」
千夏「どうして笑ったの?」
祥吾「倉品さん、旦那さんいます?」
千夏「いるけど」
祥吾「喧嘩とかならないですか? お前は思い込みが激しいとか言われて」
千夏「え……?(うろたえ)」
祥吾「やっぱりそうだ」
千夏「生意気なこと言わないで」
祥吾「子供のくせにって? そういうとこですよ」
千夏「……」
祥吾「なんか、言いたくなってきました」
千夏「え?」
祥吾「本当のことを言いたくなってきました」
千夏「そうなの? やっと言ってくれる気になった?」
祥吾「でも、倉品さん次第ですよ。信じるか信じないかは」
千夏「わかった。私嬉しいよ。はっきり言うけど、私、あなたの無実を信じてるの」
祥吾「僕は」
千夏「うん」
祥吾「殺したんです。本当に」
千夏「……え?」
祥吾「ただし──」
千夏「殺した?」
祥吾「ただし、たまたまじゃないです」
千夏「ど、どういうこと?」
祥吾「佐々木真桜が父親から小さい頃からひどいことをされてたなんて裏サイトで噂回ってたからみんな知ってますよ。でも誰も何もしなかった。だから、殺した」
千夏「なんであなたが殺さなきゃいけないの」
祥吾「もちろん、佐々木真桜を手に入れたかったからですよ」
千夏「手に入れる?」
祥吾「学校一かわいくて、成績も学年で一位二位の佐々木真桜に、僕みたいな最底辺のやつなんか絶対相手にされない。でも、父親から開放してやれば僕はあいつの救世主ですよ。あいつを手に入れる、これ以上手っ取り早い方法ないでしょ? 誰かのため? 違いますよ。僕のためですよ」
千夏「祥吾君……?」
祥吾「そうそう。ぼくが人殺しになって、ウチの親、マスコミからボコボコにされるでしょ。いい気味。めっちゃ叩かれたらいいんです。あいつらなんてどうなってもいい。でも自暴自棄とかじゃないんですよ。だってぼくには佐々木真桜がいるんだから。ね。そうでしょ?」
千夏「嘘だよね……祥吾君」
祥吾「信じても信じなくてもいいですよ。倉品さん次第ですよ(笑う)」
千夏M「私は笑っている祥吾君の目を見てゾッとした。ビー玉のように澄んだ目。そう思っていたものは、よく見るとただぽっかりと空いた穴だった。その奥にあるのが希望なのか絶望なのか、私にはわからなかった」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
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ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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