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短編小説

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2021年1月の記事一覧

深夜2時に

深夜2時に

━━今からは?
「えっ? 今からって。今どこにいるの?」
━━多分あやさんとこから、近いと思うんだけれど……
 LINE電話ってなんでこんなに声が大きく聞こえるのだろう。と思いつつスマホの横にある音量を絞り、えっと、どこどこにいますね。といやに明るくいうひかるくんに、ヤダァ! 全然近くないじゃんといい大きな声で笑う。
 休憩時間に電話をしてきたのはいいけれど遠くにいるし休憩時間も1時間しかなく、全

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個室・固執・孤独

個室・固執・孤独

 ヘルスに来るお客さんってなんでこうも個性的なのだろう。と誰かに出会うたびに思う。大体お腹が出ている。イボがすご〜いたくさんある。性器がいやにデカいか小さすぎる。背中が汚い。とかもうあげたらキリがない。
 それでもヘルスの仕事をしているわたしがいちばん個性的かもしれない。個室にいてそれでいて固執しており孤独である。孤独とは長い付き合いなので親友の域を超えていて同化しわたし自身が孤独の塊みたいなもの

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場合によっちゃあ

場合によっちゃあ

 男がわたしの股を舐めているようだ。いま何時なのだろう。眠たい。カーテンから光は透けて見えない。雨の気配。雨だから暗いのだろうか。男は無言で舐めて無言で割り箸のように脚を割り断りもなく入ってくる。わたしは無意識に声を出す。いかにも出さないといけないかのように。感じているのかどうなのかよくわからない。男の性器はパンパンに膨張しているように思う。わたしの中がいやに窮屈に感じる。濡らしてくれたはずなのに

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ゆれる

ゆれる

「あ、今、揺れた?」
 男はギクリとした声を出し、わたしに同意を求めるかのように聞いてきた。揺れた形跡などはなくただ唯一考えられるのはわたしの若干な貧乏揺すりだった。
「そういわれてみると、揺れたような......」
 またいつものホテルにいる。またいつもの部屋でいつものニトリにでもあるような普通過ぎる茶色のソファー。無駄に広いダブルベット。糊のきいているパリッと音がしそうな真っ白なシーツ。
 ど

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うわ・き

「……これって、浮気?」
 彼はあはははと小声で笑い、まあ浮気だよとまた小声でささやいた。
「……悪いお父さんだね」
 部屋に明かりなどはない。窓から細く入ってくる自然光だけが唯一の心許ない明かり。細い光の線の中はたくさんの埃が見える。
 また同じホテル同じ部屋で同じベッドにいる。偶然なのか彼が意図してそうしているのかいつも同じ部屋でポイントがもう80ポイントくらい溜まっているし無料ドリンクもたま

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1月5日

1月5日

『今日から仕事だ』
 男からメールが届く。年末年始は家族で過ごし優良な夫、優秀なお父さんに徹した男が仕事というたち位置に戻ると自動的にわたしのところに連絡が来ることなどわかってはいた。
『そっか』
 ものすごく適当で短いメールを打ち返す。ものすごくあいたいとかものすごく嬉しいとかそうゆう浮きだった感情があまりなくなっている。気力がないのもあるけれどなんだかもうこういう曖昧な関係に疲れたのだ。いや疲

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