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場合によっちゃあ

 男がわたしの股を舐めているようだ。いま何時なのだろう。眠たい。カーテンから光は透けて見えない。雨の気配。雨だから暗いのだろうか。男は無言で舐めて無言で割り箸のように脚を割り断りもなく入ってくる。わたしは無意識に声を出す。いかにも出さないといけないかのように。感じているのかどうなのかよくわからない。男の性器はパンパンに膨張しているように思う。わたしの中がいやに窮屈に感じる。濡らしてくれたはずなのに。引っかかる感じが即物的だと思う。
 男が横向きになりわたしも横向きにされる。声が出てしょうがない。なんでこんなに声がもれるのだろう。ただ棒を穴に突っ込んで抜き差しを繰り返しているだけなのに。うっ、という決壊の声がし強く腰を振ったあと男はわたしの中で射精をした。時間にして約10分。キスもないままことが済みさみしさよりも早くイってくれてよかったなという方が大きい。愛液と精子が混じり合った股をティッシュで拭う。まだ無言。なにも言葉を発しないでするのが当たり前になっている。言葉など必要などないように。自然にしたいとき本能のままわたしと男は混ざり合う。もうわたしなのか男なのか境目が曖昧でよくわからない。いつの間にか同化しているのかもしれない。
「実は今日ゴルフなんだよ」
 裸のまま天井を見上げていた。声が唐突に降ってくる。またか。と思う。昨日いえばいいのにと。
「雨なのに? 雨だよね。今日」
「……うん。まあ雨だね。いやだけど。まあ仕方がないね」
 そっかと答えると男が裸のわたしに布団を被しもし青色のビニールシートなら遺体遺棄になるなぁと考える。毛布は腐った青色をしている。
「いまって何時なの?」
「6時」
「はやっ」
 何時に行くのと続けるともう出るといいカッパを持っていかないといけないとひとりごとをいいながら支度をしわたしの顔を一度見て、じゃあ行ってくると声をかけ男はゴルフという名の娯楽&飲み会に出かけていった。
 ひどく眠たかった。男は朝だけ勃つので(夜は鬼殺しを飲み鬼に支配されていて下半身がゆうことをきかない)勃ったとき一気に挿入をする。まあいいのだけれどなんというか儀式のようになっていて性処理器かよと思う。
 そのまま瞼が下りてくる。魚は瞼がないんだよ。ヘェ〜。じゃあどうやって寝るの? 目を開けて寝るんじゃないの? てゆうかマグロなんて動きが止まれば死んじゃうんだよ。マジで〜! うん。だから魚には瞼がないんだよ。ヘェ〜。
 ハッと目を覚ますと部屋が水の中にあるようで不吉な気配に満ちていた。エルニーニョ現象を想像する。ポンポンとトタンに雨が打ちつける音がする。布団から這い出て裸なのでとりあえずパジャマがわりにしているマキシワンピースを着る。あまり寒くはない。緩く暖房が効いている。男が一応気を使い点けていったのだろう。
 もう昼をとっくに過ぎていた。お腹が空いている。テーブルの上にある男のタバコに火をつける。ラークの1ミリ。煙がゆらゆらと天井に上昇していく。エルニーニョの部屋の中で溺れながら上に上に昇ってゆく。煙になりたいと思うも死んだとき火葬され煙になるしなと思いながらタバコをもみ消し、カーディガンを羽織って徒歩3分のローソンに行く。雨が降っている。結構降っている。男は大丈夫かなと考える。雨と晴れではきっと気分も違うだろう。とゆうか毎週ゴルフにいっている気がする。嘘かもしれない。嘘をついて他の女と? まさかね。わたしは自虐的に笑う。
 ローソンでレタスとハムのサンドイッチとカフェラテとチョコと雪見だいふくを買って帰る。
 ちょっとおもてに出ただけなのにすっかり濡れていた。マキシワンピースを脱ぎジャージに着替えサンドイッチとカフェラテを食べて飲んで今度はお風呂に湯を入れた。
 お湯の中でわたしは魚になる。瞼はあるけれど動いてなくても死なないけれど魚になる。お湯の中にいると落ち着く。お腹の中にいたときは水の中にいたからなのだろうか。そんなことまるで覚えていないけれど水の中はやっぱり落ち着く。昼間にお風呂に浸かるのはなんだか贅沢なことだと思う。雨はまだ降っている。一日雨かなぁとぼんやり思う。
 半同棲状態で5年目に入り倦怠期を通り越し安定期になり馴れ合い期になっていてこうなるともう別れる理由がない。嫌いとか好きとかそうゆう感情よりもふたりで作り上げてきた思い出。一緒に過ごして来た時間の方が多いため会わなくなるということはお互いに考えられない。『情』なのだろうか。とゆうかもう『情』でしかないか。男が不在の方が好きという感情を得れるような気がする。おかしなもので男のうちでこうやってひとりでお湯に浸かって男が不在な今の方が好きを感じることができる。おかしなもので。わたしは、おかしなものでとつぶやきふふふと笑う。ふふふという笑い声が湯気の中で溶け消えていき天井を見上げると水滴がちょうど額に垂れてきてわっと声をあげた。隣の車のエンジン音がし、もう待ってよと女の人の声がしその声はどこか楽しげに聞こえた。

 お風呂から出てドライヤーで髪の毛を乾かし雪見だいふくを一つ食べて相撲を観ていた。幕内あたりには帰ってくるよ。出がけにそういっていたかもしれないしいってないかもしれない。一緒に相撲を観ようねといったのは昨日だったのかもしれない。相撲は明日千秋楽だ。
 もともと相撲など全くもって興味などはなかった。それが男と付き合うようになり男が相撲をみる人間だったためその影響で好きになり挙句今ではわたしの方が力士に詳しくなっている。誰かの影響ってすごいかもしれない。わたしの知らなかった世界。男はそれを教えてくれた。遠藤が好きという理由は石川県だからで男も石川県の出だ。
 頬に冷たい感覚がありはっと目を開け顔を上げる。男が隣で缶ビールを飲んでいた。いつの間にか船を漕いでいたようだった。頬に男の手のひらがそっと乗っている。
「いつ帰ってきたの?」
 声がかすれしまいテーブルの上にあるペットボトルに手を伸ばし口の中を湿らす。今さっきといい爆睡だったねといい笑う。いや、寝たふりしてたんだよと頬を膨らませる。男は真顔でどっちでもいいけどねといいまた笑った。
「今日は雨だったけどスコアがよかったよ。うん。すごくよかった。特に後半なんて絶好調だった。酒を飲んだからかもしれない」
 そんなわけないだろうといいたいけどやめる。酒を飲みながらゴルフをするってなんなのと思ったけれどここらへんだけのようで自分でもびっくりしたと最初は戸惑ったらしい。相撲はもう後半戦になっており残り3番になっている。男はテレビを見つめ缶ビールを飲みながら
「場合によっちゃあ……、」
 場合によっちゃあ、○○が勝てばいいかもしれないねと続けた。
「場合によっちゃあぁ〜?」
 わたしはその言葉に対し気に入り、場合によっちゃあね〜と連呼し大笑いをする。
「場合によっちゃあね〜」
 男も何かにつけそれをいいまた一緒に笑う。気に入った単語を何度もいい何度でも笑う。場合によっちゃあね〜と。
 力士が花道を通る映像がテレビに映ったとき男が、あっと声を上げ、観て、今テレビ観てという。なんなの? わたしもさっとテレビに目を向ける。
「今、廊下に貼ってあった紙見た?」
 花道に何か貼ってあったような気がしたけれど字までは確認できなかった。なんて書いてあったの? と聞くと、何々を吐くな。私語厳禁って書いてあったという。何々の部分がちょうどいい感じで画面から切り取られていて見えず、なんて書いてあるんだろうと気になってしょうがない。
「唾じゃない? 唾を吐くな。私語厳禁とか」
「……うん。俺もそんな気がしないでもないけど……」
「あ! わかった。弱音を吐くなじゃない? ほら、だって唾なんて吐くことなんて当たり前でダメでしょ? 普通に」
「……うん」
 弱音だよきっと。わたしはドヤ顔で今までにないドヤ顔でいい張る。
 男は黙っている。もうどうでもいいような顔をしテレビをじっと見つめている。
「場合によっちゃあね〜」
 男が黙っているからまたその単語を出し笑いを取るも男ははたして苦笑いをし缶ビールを飲み干した。
「またそれいう? 場合によっちゃあね〜って」
 のこった、のこったぁ! 行司が叫んでいる。大きな声で。大きな逞しい肉体を持った力士たちに。男は笑っていた。
 明日千秋楽だねといいわたしも笑った。一緒に観ようねとつけ足して。男がわたしの膝に頭をあずけてくる。シャンプーの匂い。きっとゴルフでサウナと風呂に入ったに違いない。こうやって触れ合うことなんて素晴らしいのだろうと思う。不在でもこうやって触れ合っていても同じかもしれない。
【水ははかない。私語厳禁】
 最後に見えたてテレビの場面で見た答えは『水』だった。なに? 弱音って。わたしは押し黙る。笑うに笑えない。遠くで消防車の音がしどこか近くで火事かもしれないとぼんやりと思い男の指がわたしの股の中に侵入をし割れ目を上下させるとトロトロした液体がとめどなく溢れ出てくるのがわかり、トロトロです。水です。と小さな声でつぶやく。

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