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2020年7月の記事一覧

恋する日本語 【あえか】

恋する日本語 【あえか】

 書庫を整理整頓していたら、ハラリと何かが本の隙間から桜の花びらのように落ちてきた。
 なんだなんだとおもいつつ床に落下したそのチケットのような薄汚い紙を拾う。
「あっ、これって」
 つい声が出てしまった。それと同時にそのとき行った鹿児島旅行のことが走馬灯のよう頭の中を駆け巡った。
 5年前。彼と一緒に行った鹿児島旅行の航空チケットだった。それもなせかあたしのではなくて彼の名前のチケット。英語で表

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あし

あし

 洗濯物を干すとき物干竿が高いので脚立を登って干している。高さにしてみれば約50㌢くらいだ。特になにもないいいお天気の梅雨の中休。
 あたしはたくさんの洗濯物が干された折りたたみ式ハンガーを手に取って手を伸ばす。あっ、かかったハンガーを掛けた瞬間足が滑ってかなんだかよく理解できないのだけれど踵から落ちてしまいぐきっと変な音がしてむむこれはまずいやつかもという危惧を持ち合わせちょっとだけ間をあけて立

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Two people in the rain

Two people in the rain

『雨が止まない』 
 雨の日はこうゆうメールが来ることがたまにある。あるけれど本当に雨ばっかりで(梅雨だから)もうこりごりだぜみたいな顔をしながらメールを打っている男の顔が目に浮かぶ。
 時計をみると11時だった。夫は土曜日だというのにいなくて出かけたのも全く気が付かなかった。昨夜2度セックスをした。週に一度必ずあたしを抱く。抱くというか性処理の道具なのかと疑ることもあるけれど夫のことは好きなので

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牛力こぶ

牛力こぶ

 またか。とついつぶやく。
 おもては梅雨も相まってこれでもかというほどあるいはまじでこれって洗車じゃね? くらいの勢いで雨がシャワーのように降っている。それでも匂ってくる焼肉の香しい匂いに顔をしかめる。
 車を車庫に入れ傘もささないで玄関まで走る。走るといっても30メートルもあるわけじゃないしあっても30歩というところだ。けれどさすがに洗車でもできそうなほど降っている鬼のような雨はあたしの全てを

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トラガス

トラガス

 痛みだけがあたしが生きていることを教えてくれる。痛いことは嫌。そんなの普通なら当たり前だ。けれどあたしは違う。痛さだけは決して裏切らない。痛さはと快感は紙一重でありあたしにはなくてはならないものなのだ。

 自ら命を削っているともいえる行為は徐々にエスカレートをしてく一方で手首を100均で買ってきた真新しいカッターでばさりと切った。死のうなんてまずもって思ってなどはいないから危険な箇所を避けただ

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