人手不足って大雑把に言わなきゃいいのに（No.7）

「この国は人手不足だ」的な情報を誤解している人が結構いると思ったので、調査屋の視点から徒然なるままに書きます。

回答企業の半数が、正社員の人手が不足していると答えた調査

帝国データバンク社が2024年5月2日に発表した「人手不足に対する企業の動向調査（2024年4月）」によると、調査に回答した国内11,222社のうち51.0%が、正社員の人手が不足していると回答。30.1%が非正社員の人手が不足していると回答したそうです。

日本には約368万社の企業があります（総務省・経済産業省「令和3年経済センサス」）。
なので同調査のサンプルは、日本の企業全体の0.3%くらいです。
全体（母集団）に比してだいぶ少ないようにも見えますが、これだけのサンプル数があれば、サンプル業種や企業規模の構成比が多少現実とズレていても※1、実用には支障無い精度の調査結果だと思われます。

特別企画調査 |TDB景気動向オンライン

※1　例えば同調査の回答サンプルに占める建設業比率を算出すると、15.6%でした。現実は11.6%です（令和3年経済センサスの企業数を参照）。

「51.0%の企業が、正社員の人手が不足している」というのは、一部の労働集約型の業界が引き上げている数字

同調査のプレスリリースでは、人手不足感の強い業界Top10が示されています。
正社員について見てみます。

正社員の人手不足感の強い業界Top10
（帝国データバンク社「人手不足に対する企業の動向調査（2024年4月）」より抜粋）

ここまで目を通すと、企業の人手不足感は業界（調査リリースの表記に従って「業界」と書きます）によってだいぶ開きがありそうなことが想像できます。
回答総数（全業界）では、正社員の人手不足感を感じている企業数は51.0%でした。
なので、人手不足を感じている企業の比率が最も高い情報サービスでは、平均よりも20%pt.以上高いですね。
3番目に高い建設は68.0%なので、平均より17.0%pt.高いです。
また、5番目に高い運輸・倉庫は63.5%。こちらも平均より12.5%pt.高いです。

いま挙げた３業界は、同調査の業界別回答企業数のTop3です。
合わせて2,745社。回答企業総数の24.5%です。
回答企業数の多い業界における人手不足感の強さが、業界全体でみた平均値にめっちゃ影響している、ということがわかります。

いま挙げた3業界には、ビジネスモデルが労働集約型であるという共通点があります。
（情報サービス業界は、ソフトウェアやデータベースの開発、市場調査や世論調査などを主な事業として行う企業の集まりです。大勢の人の労働によって成り立っているのは、建設業や運輸業と何ら変わりません。）

つまりこの調査からは、正社員の人手不足感は一部の労働集約型の業界に偏っていて、全業界に共通するように見えるレベルまで平均を引き上げるくらいに強い、ということが見て取れます。
（省略しますが、非正社員についても同じような傾向が見て取れます。）

もう一度Top10の表に注目してみると、第10位の飲食店ですら56.5%。ほぼ平均値です。Top11以下の業界のほとんどは平均以下、もしかしたら平均よりもだいぶ比率が低い（人手不足感が弱い）業界も多数あるだろうと推測できます。

ニュースでは、「この国の多くの企業が人手不足だ」とか言われるのかなぁ

この手の調査結果、ニュースに取り上げられるとあたかも日本全体が人手不足だみたいな報じ方がされるように思います。
親切なニュースでは、人手不足感が特に強い業種も報じてくれるかもしれませんが、人手不足感が強調されることには変わりなく。

「人手不足を解決するビジネスを初めよう！」
と思っている方にはぜひ、業界業界でだいぶ人手不足感が変わりそうなことにも注目していただけたらなぁと思います。

そして、人手不足=売り手市場（求職者有利）と連想される人も多いだろうと思います。
確かに人手不足の業界ではその通りだと思いますが、そんなに人手不足ではない=買い手市場（採用者有利）の業界もたくさんありそうなのが、データから推測されるいまの日本の労働市場の姿です。
これから働く職場探しをする方々にはぜひ、「人手不足の会社が多い」といった大雑把な情報に惑わされないでいただけたらなぁと思います。
「売り手市場のいまなら、あの業界に行けるかも」と思って就職・転職活動を始めたけれど、思っていたコトと全然違う…とならないためにも、業界ごとの動向と、更に言えば職種ごとの動向も確認したほうがいいでしょう。

ちなみに、この売り手市場・買い手市場的な論調もめっちゃ大雑把で、世の中に誤解を撒き散らしていると思います。
次回はこのあたりをもう少し書きたいと思います（続く）