見出し画像

売り手市場って大雑把に言わなきゃいいのに:その1(No.8)

前回記事で、「人材不足って大雑把に言わなきゃいいのに」と書きました。

全業界が人手不足のように語られるのは、人手不足の解消をビジネスにする人にも、人手不足=売り手市場と見て就職・転職をしようとする人にも、誤った認識をもたせると思われます。

特に「いまは売り手市場だ」的な労働市場への言及は、個々人の仕事探しに誤解を撒き散らしているのではないでしょうか。
今回はそのことを、オープンデータを参照しながら書いてみます。


知っている人が多い「有効求人倍率」

2つのオープンデータを紹介します。
まずは、有効求人倍率です。

ある時点での
有効求人数(A)÷求職者数(B)
です。
1.0ならAとBが同じ。
1.0を超えればAがBより多い状態。
1.0未満ならAがBより少ない状態です。

一般的には有効求人倍率が1.0を超えると「売り手市場」と言われます。(求職者が職業選択をしないならば)、求職者全員に求人が行き渡ります。
有効求人倍率の全国平均は、2010年代以降1.0を上回り続けています。コロナ禍でさえギリギリ1.0を上回っていました。
いまの日本の労働市場が「売り手市場」と言われるのは、長らく有効求人倍率の全国平均が1.0を超えているためです。

有効求人倍率には、留意点が3つあります。
1つ目は、有効求人倍率には新規学卒者(新卒)の求人・求職は含まれないということ。
→新卒については後日書きたいと思います。

2つ目は、実際は求職者は何らかの職業選択をしているということ。
→職種・勤務地・業種・賃金・働く時間帯等々、皆、何かしらの希望条件や制約条件を持っており、それらの条件に沿って職業選択がされています。
職業選択はこのあとのデータを読み解く際のポイントです。

3つ目は、有効求人倍率はハローワークに登録されている求人・求職者によるデータであるということ。
ハローワークに出されていない求人(転職エージェントやヘッドハンターにのみ求人依頼されているものや、転職サイトにのみ掲載されている求人)は含まれません。
ハローワークに求職者登録していない人も含まれません。
ただし、ハローワーク&民間を網羅した統計データはありません。
→ハローワークが把握する求人・求職者数が圧倒的に多いので、日本の労働市場の全体像を見るうえでは妥当なデータです。

例えば東京都の令和6(2024)年3月、一般常用(正社員や契約・派遣社員として比較的長期で働く区分)の有効求人倍率は1.49。
売り手市場に見えます。


あまり知られていない?、「求人・求職バランスシート」

2つ目のオープンデータは、求人・求職バランスシートです。まずは職種ごとの求人倍率が示されたものという理解でOKです。
有効求人倍率と同じく1.0が閾値です。
なんらか採用に関わる人にはともかくとして、仕事探しをしている人の認知は低そうです。

求人・求職バランスシートは、ハローワークの管区ごとに公表されています。もう少し大きな括りで、都道府県単位でも公表されています。
つまり求人・求職バランスシートを使うと、職種×地域で求人倍率が確認できます。



求人・求職バランスシートを見ると、職種ごとに求人倍率が全然違うことに驚く

いずれの地域の求人・求職バランスシートを見たとしても、職種ごとの求人倍率が全然違うことに驚くはずです。

東京都の令和6年3月の一般常用の求人・求職バランスシートを例に、大枠を掴むために職種「大分類」に注目します。
求人倍率が最も高い職種大分類は「保安職業従事者」の13.61。この職種に就くことを希望する人ひとり当たり13.61件の求人があります。超売り手市場です。
保安職業従事者職業には、自衛官や警察官等の公的な仕事や、民間では警備員等が含まれます。

最も低いのは「事務従事者」の0.51。2人に1件分の求人しかありません。売り手市場とは言えません。
事務従事者には、一般事務職等が含まれます。



職種ごとの有効求人倍率を知らずに仕事探しをするとどうなるか?


例えば東京都で、有効求人倍率から「売り手市場」と認識して仕事探しを始めたAさん・Bさんがいたとして、、、

【Aさん】
警備員の仕事を探し、早々に警備会社に採用された。「給料ソコソコだけど、売り手市場だったので早めに働き先が見つかってよかったー🎶」とひと安心。
→これだけ超売り手市場なので、より高賃金の求人を探せたかもしれません。この業界で仕事探しをする多くの人が賃金交渉をしたら、業界の賃金の底上げにつながるかもしれません。

【Bさん】
事務職の仕事を探しているが自分の希望する勤務時間・休日の条件に合う求人が少なく、数社の求人に応募したが採用に至っていない。「売り手市場と聞いていたのになんか違う💦」と思っている。
事務職に限っては買い手市場であることを認識できていれば、他の求職者との競争を想定し多くの求人に応募したり、希望条件に優先順位をつけたり、あるいは別の職種も検討したりできたかもしれません。

Aさん・Bさんのように、仕事探しにおける残念な展開は、日本のいたるところで起こっていると思います。だからやっぱり、「売り手市場」って大雑把に言わなきゃ良いのに、、、と思われるのです。

「地域」の話ももう少し書きたいと思います(「その2に」続きます。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?