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ひび

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2019年1月の記事一覧

『牛への道』を読んだ

古本屋でぬらぬら物色していると、一冊の本が目に付いた。宮沢章夫『牛への道』という本である。タイトルが気に入った。表紙の絵は、しりあがり寿が描いている。去年だか、知り合いに誘われて、伊丹で開催された、しりあがり寿展に行ったことを思い出した。漫画を読んだことは、無い。ふざけた人間だということは個展でよく分かった。著者の宮沢章夫という人については、名前だけ、知っている。確か、ラジカルベジタリアンとか何と

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眉それぞれ

近頃はくっきりと眉の濃いメイクが流行っているのか、やや太めの、黒々とした眉の女性を見ることが多い。

平安時代から続く、いわゆる引き眉は、自眉を全剃りにして、おでこの位置に墨で眉を描き、塗り、丸状もしくは半弓状にする、という奇天烈なものだった。昔から女性は眉メイクに凝っていたのである。それ以降も、欧米的眉やバブル的眉など、その時代の流行眉を辿りつつ、眉メイク=顔立ちの基本、の風潮は現在も根強い。思

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カタツムリ

動かないと決めた日は、本当に動かない。布団の上に寝転がって、ざわわ、ざわわ、と口ずさみながら天井を見上げて、じいっとしている。時折寝返りをごろごろと打ち、股間をまさぐる。枕元に灰皿と湯呑を置き、煙草も茶も布団の上で済ます。思考をいかに停止させるかが肝であるが、そう簡単にはいかない。本を何ページか読んでは閉じて、ざわわ、と口ずさみながら携帯をいじって、殺人鬼や仏教史やウォルト・ディズニーについて調べ

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仮想なる青春

とある女性の話。中学生の頃にパソコンが家に来て、彼女はそのとき初めてインターネットというものを体験したという。当時好きだった芸能人の名前を検索していると、誰かが個人でやっている自作のホームページに辿り着いた。それは、その芸能人とは無関係のものだったが、ただホームページのタイトルに芸能人の名前が含まれていたため、検索に引っ掛かった。中学生の彼女は、そのホームページに書かれた見ず知らずの人の文章に惹か

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今日は…

遅刻する夢を見て、朝起きたら10時55分だった。ヤバイ、と思った。遅刻するからである。自分は気持ちを一旦落ち着かせるために、煙草に火を付けた。最寄りの駅から出発の電車、11時26分に乗らなければならない。そのためには最悪でも11時18分には家を出なければならない。残り時間は23分、その間に準備をしなくては。とりあえずシャワーは浴びたい。昨日、一昨日と風呂に入っていない自分は汚物人間である。シャワー

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はたらく

昔から労働への嫌悪感が強かった自分は、つまらない労働をするくらいなら死んだ方がマシだ、などと言い張って、就職もせずに愚鱈としていた。しかし暮らすためには金が要るので、やむを得ずアルバイトをしてきた。思い返すと、こんな自分でも、それなりに労働してきたのである。

初めは家庭教師のアルバイトをした。小学六年生の女の子の家に行き、算数や国語を教えた。中学受験を控えた娘を持つ母親はナーバスだったが、女の子

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はッ

テレビ画面の向こうで歌い踊る爽やかなジャニーズたちを腑抜けを極めた爺の如き顔面でぼんやり見つめているうちに、年が明けた。

もう少し極めよう、と思ってさらに腑抜けて、昼と夜が逆転していることにも気付かず、徘徊したり小便したり、眠たいときは寝て、腹が減ったら飯を食って、歌い踊ることも無く、へらへらと天国に堕落している内に、はッと気が付いたら、一月二日になっていた。つくづく私はコアラ人間だ、と思った。

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