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島根で生きるフリーランス──領域に囚われず、自在に動くには

2021年度の振り返りとして、本note「Craftsman’s Base Shimane」(以下、CBS)のメンバーである西嶋一泰、戸田耕一郎、桐山尚子、太田知也、大田勇気による座談会をおこなった。島根での仕事の進め方や独立後の悩みを、映像クリエイターやディレクター、デザイナーとしてフリーランスで働く面々がざっくばらんに語り合う。座談会の司会と原稿の構成は、CBSのメンバーでもある編集者の瀬下翔太が担当している。

Craftsman’s Base Shimane(クラフトマンズ・ベース・シマネ)
このnoteを運営するチーム。島根県で職人気質(クラフトマンシップ)を発揮する方々に話を伺い、作りながら考える暮らしを探求している。その過程や成果を、記事や動画、イベントなどで共有する。メンバーはライターやデザイナー、編集者、映像クリエイター、ディレクターなど、島根県でフリーランスとして活動するUIターン者中心で構成されている。
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それぞれの仕事

──まずはそれぞれの自己紹介をお願いします。

西嶋:西嶋一泰です。私はもともと東京出身で、関西の大学に通い、研究者を目指していました。それから地域おこし協力隊として島根県に移住して、協力隊卒業後にフリーランスになりました。これまで映像制作・ライター・リサーチ・企画など、さまざまな仕事を組み合わせて生業をつくってきました
2021年からは島根県立大学の教員にもなったので、ひとつ大きな軸ができました。収入的にも安定したので、稼ぎというよりは地域へのインパクトや自身のやりがいを重視して仕事をつくっていこうと思っています。大学にはそれなりに予算もありますし、設備や備品も充実していて、職員のサポートもある。そしてなにより「大学生」がいます。島根県の人口をみると、20歳前後の若者は非常に少ない。そんな貴重な若者たちがいたら、なにか地域で面白いことができるのではないかと考えています。プライベートでは子育てもしているので、時間の使い方にも悩みながらですが。

戸田:戸田耕一郎です。僕も東京出身ですが、30代になって改めて「これからどんな人生を送りたいのか」と考え始めました。仕事の仕方から家族の暮らし方まで、どうするといいかと考えて脱サラしました。それからオーガニックフェスを立ち上げ、写真やグラフィックデザイン、映像制作といった仕事をしているうち、「田舎で活動したい」と強く思うようになったという感じです。
いざ住むとしたら、妻の故郷である島根一択。それで江津市に移住してカフェ「蔵庭」をつくりました。2022年で移住8年目になりますが、日々好きなように自由に生きています。

桐山:桐山尚子です。私は埼玉県出身で、2017年にIターンしてから3年間、松江市の地域おこし協力隊として人の想いを形にする活動に従事しました。卒業後も島根県松江市を拠点に、ライフデザイナーとして、ひとりひとりが自分自身の在り方や地域の未来を考え・可能性を広げるきっかけづくりをしています。これまでの関係性を活かし、行政・民間・地域・教育などの垣根を超えて、インクルーシブな未来に向けて活動しています。
具体的には、“人”に焦点を当てた地域のプロモーションや、SDGs関連の講師、また各所でメンターやコーディネーターとして働いています。パラレルワーク(複業)のかたちで、島根県内に限らず、首都圏の企業と一緒に進めているプロジェクトもあります。

太田:太田知也です。私は2017年後半から21年の春まで島根県津和野町にIターンし、主にはデザインや情報発信の仕事をしながら暮らしていました。現在は地元に戻り、関東でデザイナーをしています。ですから今日の座談会では唯一、いま島根に住んでいない参加者ということになりますね。

大田:大田勇気です。僕は松江市出身で高校卒業後、大学で高知県に住んで、その後就職で東京や広島で働き、島根に戻ってきました。僕は地元の松江市を拠点に、フリーランスで映像クリエイター、フォトグラファーをしています。不定期ですが、デジタルハリウッド大学さんなどで動画の講師もしています。
もともとは大学を卒業した後、プログラマーなどIT系の仕事をしていました。空いている時間で副業的に撮影もやっていましたが、機材を買うお金がなくて苦労していました。機材がほしくてウェブサイトを作ってiPhone修理の事業をはじめたり、自分のスキルをいかす稼ぎ方をいろいろ探っていた時期もありました。
いまの仕事先は島根だけではありません。東京や広島、高知など、お呼びがあればどこでも行きます。PCとカメラがあればどこでも仕事ができる。こういうあり方が理想だと考えていたので満足しています。

暮らしのリズム

──大田さんと戸田さんは、おふたりとも写真・映像関連のお仕事ということで、仕事の仕方にも共通点がありそうですね。

戸田:そうですね。カメラとパソコンがあればなんとかなるっていうワークスタイルは自分に合っています。人でも風景でも、どんなものでも自分の好きなように撮影し、編集し、誰かに見せて、喜んでいただけて、さらにそれで生きていくことができますからね。僕はそんな今の仕事が好きでたまらないです。今のところ、85歳まで現役でやろうって思えています。
それから、車の運転が好きなので、音楽や映像を流してコーヒーを飲みながらロケ先にいく時間は至福の時間です。車内でいろいろなチュートリアルを流していると勉強になるし、100kmくらいの移動は余裕です。機材を積み込んでいると「今日も生きている!」なんて思える。ちょっと変なやつなのかもしれませんね。でも、これは都会じゃ絶対に味わえない感覚です。東京も好きですが、地下鉄での移動とか苦手でしたから、いまと比べると当時の暮らしはなんだったのかと思うくらい。

桐山:先ほど戸田さんから、30代で自分の生き方を考えたという話がありましたよね。私も都会での生き方に悩んで島根に移住した側面があります。大学を出てからオーガニック商材を扱う輸入商社で働いていて、持続可能な商材を通して自然・動物・人に優しい持続可能な社会づくりを目指していたのですが、20代後半になったら自分が体調を崩してしまって。初めて役職がついたのもあって、バリバリ働きすぎたんでしょう。
今後はまず私自身が持続可能な生き方をしようと模索し始めたなかで、島根に出会いました。島根のもつおだやかな雰囲気や、人の魅力に惹かれましたね。

西嶋:島根には家族の時間を楽しむゆとりがあるところもいいですね。私の場合、仕事はしっかりやりつつも休みの日には子どもを連れて各地の公園におでかけに行ったり、年間パスポートを使ってしまね海洋館アクアスや三瓶自然館サヒメルに遊びに行ったりします。これから上の子が小学校に上がってやれることも増えるので、一緒にキャンプを楽しみたいと思っています。

桐山:島根でのフリーランスは、働く時間やペース、内容とともに、暮らしもカスタマイズできるところがいいですね。私も最近は平日の昼間に時間が空いたとき、自宅そばの宍道湖畔に行き、座ってのんびりするのがお気に入りです。

領域横断性が島根の特徴?

──続いて、島根でフリーランスとして生きるコツを探っていきたいと思います。太田さんは昨年関東に戻られたということですが、島根での仕事と比較して、フリーランスの動き方に違いを感じることはありますか。

太田:島根時代は、いわゆるデザイナーとしての職能を超えた発注を受けることが多く、やりがいがあると同時に、学ぶことの負担もありました。ですから、新しい方法を試したり、勉強や試作に時間を使ったりすることが大切でした。それに対して、都市部ではデザインそのもののスキルや専門性を要求される仕事が多いように感じます。

西嶋:同感です。私も島根に来てから領域に囚われず、さまざまなスキルをかけあわせて仕事をしてきました。島根のフリーランスは、多かれ少なかれそういう性質があると思います。プレイヤーが少ないからか、ちょっとしたスキルでも仕事になるんですよね
ただその反面、ひとつひとつの仕事の単価は高くなく、また単発だったり不定期だったりすることが多い。人口が少なく、マーケットも小さいからしょうがないのですが。みんないろいろな仕事をしているのは、生き残るためにも必要だからでしょうね

桐山:私の場合、これといったスキルというよりは、自分自身の人間性や価値観、スタンスが仕事になっているような感覚です。移住当初は力みやプレッシャーでなかなかうまくいきませんでしたが、弱さや不器用さも含めて自分を開示することで、仕事の付き合いだけではない、人間としてのつながりができてきました。そういうご縁に支えられて、ほとんど自分で営業をせず、紹介で仕事をいただいています。
だからこそ丁寧に仕事を進めたいと思っているのですが、忙しくなるとキャパシティを超えてしまう(笑)。最初は苦労しましたが、期待値をコントロールしたり、仕事をシェアしたりすることで、少しずつバランスが取れるようになってきました。

事業を軌道に乗せるまで

──収入という意味でも精神的な意味でも、事業が軌道に乗るまでの段階には苦労が多いようですね。

大田:そうですね。まず最初は自分を認知してもらわないと始まらないですし、たくさん行動することが大事だと思います。ひたすら種まきですね。

戸田:はじめての土地で仕事をつくろうとしても、最初は誰も自分のことを知りませんからね。

大田:そうなんですよね。僕の場合、自分のスキルで誰かの成功のお役に立てることをたくさんやりました。
もともとカフェで独立を目指していた時期があったので、自分が応援したい、いいなと思った飲食店さんのPR動画を撮影させてもらいました。気に入っていただけたら、オーナーさんが宣伝してくれますよね。いいお店にはいいお客さんが来ますから、それでどんどんご縁が広がっていきました。そうしたつながりのおかげで、東京でミシュラン星付きのお店を撮らせていただくこともありました。

戸田:僕は移住してすぐの頃、「フライヤーのデザインとかできるんでしょ? このイベントのデザインをやってみてよ」というやりとりがあって。そのときは「よっしゃあ、大チャンスがきたぞ」と思いましたね。初めて仕事を頂戴したあの日のことは忘れられません。気合いを入れて、相手がこんなもんだろうと思っているより上のレベルのものをつくろうと頑張りました。
クリエイティブ業には残酷なところがあって、「イケてないな」、「あいつのつくるものはダサいな」と一度思われてしまうと、もうその人からオファーが来なくなる。小さい町にいるからこそ、そこはなんとしても避けたい。ですから、「期待を超えるものをつくる」という意気込みでいまもやっていますよ。

──桐山さんは2020年にCBSが立ち上がった頃に独立されましたよね。フリーランスになってみて、なにか悩んでいることや課題に感じていることはありますか。

桐山:いろいろありますが、ひとつは仕事の金額設定ですかね。先ほどお話ししたように、自分はなにかものや作品を制作する仕事をしているわけではありません。地域のなかでも相場感を共有しづらいし、私自身もどれくらいにすればいいかわからなくて。

大田:僕は写真や映像といったものを制作する仕事が多いですが、それでも金額設定は難しいですよ。特にはじめのころは安請け合いしがちで、苦労しました。スケジュールがカツカツなのに、実績のために仕事を請けたり、利益面でマイナスになる案件もやったり。

西嶋:しっかり収入を得て生きていくという意味では、いきなり独立するのではなく、行政の嘱託職員などの立場で働きながら経験を積み、少しずつフリーランスとしての仕事を増やしていくのもありだと思います。スキルを身につけるには時間がかかるので、その間の収入の支えになりますからね。
島根にはそれなりに行政の仕事があるので、自治体で働いておくと勉強にもなると思います。年度によって予算がついたりつかなかったり、継続事業は予算が削られてしまったり。担当が異動になると考え方がガラッと変わったり。行政ならではの特徴や変化を理解できると仕事がしやすいです

フリーランスが働きやすい仕組みづくり

──西嶋さんはCBSでも取りまとめをやってくれていますし、フリーランスが働きやすい仕組みをつくることに関心をもっていますよね。

西嶋:そうですね。特に島根のフリーランスが仕事を受けやすいつながりや仕組みづくりをやりたいんです。
CBSで島根県庁と仕事をするときは、県庁側でかなり柔軟に工夫してくださって、私たちのやりやすい仕組みを整えてくれました。でも一般的には、大きな組織になればなるほど、フリーランスではなく、基盤の整った会社組織に業務を委託するほうが主流です。
そうした主流の仕事にフリーランスが切り込んでいくためには、法人格が必要な局面も大いにあると思っています。フリーランスが独立性を保ち、お互いの強みや良さを生かし合うかたちでバックオフィスのサポートを受けられる。そんな組織体ができたらおもしろいと考えています。

太田:島根県庁と連携しながらも、組織より個人を尊重しようという機運のなかで始まったところがCBSはおもしろいですよね。

西嶋:私が理事として参加している一般社団法人しまね協力隊ネットワークにもそういう部分があって、所属する協力隊OBOGが仕事を受けたいときに法人として引き受けたり、サポートしたりできるようにしています。
今後もフリーランスが集まってプロジェクト単位で動いたり、チームをつくったりするケースがどんどん出てくるはずです。そのときにサポートできる体制を整えておくことが重要だと考えています。

チームで活動するおもしろさ

──みなさんは個人として動くことも多いと思いますが、今回のCBSのようにチームで働いてみてなにか感じることはありますか?

戸田:チームプレイに必要なのは、一定のスキルを持っていること、お互いにリスペクトできることだと思っています。
それでいうと、CBSは各人が得意分野で経験を積んでいるから、プロジェクトの行間を読めるというか、いちいち言わなくてもしっかり成果物ができていくところがいいですね。スピードとリズム感を気にするタイプなので。

大田:CBSの映像は戸田さんと僕で制作しているのですが、戸田さんは僕が映像を始めた頃からそのクオリティに感動し、勝手に尊敬させていただいている方です。だからふたりでやることに最初はかなりプレッシャーを感じていて(笑)、第一弾の編集にはものすごく時間がかかりました。でも、一緒にお仕事させていただいて、学べることがいろいろありますね。

桐山:私もいつも皆さんから学ばせてもらっています。フリーランスの大先輩ばかりなので、助けられている感じです。独立直後にCBSに参加したので、激しく壁にぶつかって潰れそうになっていることもありました。そういうときに助けていただいて……感謝してもしきれないですね。

西嶋:私は戸田さんや大田さんの美しい映像作品にいつも刺激をもらっています。ふたりの作品に対してなにか自分も返したいという思いで企画したのが、昨年度の「しまね24時間トーク」です。24時間ぶっ続けで配信するという無茶な企画でしたが(笑)、美しい映像の制作とは異なるアプローチで島根の魅力と熱量を伝えようと考えました。結果的にフリーランスだからこそできた企画になったと思います。今年は少し形式を変えて、「七夜連続!!!!しまねトーク」を配信しました。

──最後に、太田さんはCBSでの仕事について、なにか感じることはありますか。

太田:CBSの仕事をしていると、思い出す事例があります。クロアチアで社会包摂のためのデザインを実施し、障害者支援施設で取材やワークショップをおこなっていたジュリア・カセムさんの仕事です
カセム氏は通所者の子どもたちが描くイラストをあしらったプロダクトなどを制作したんですね。そして地域に何年も関わりながら、現地の生産の仕組みやエコシステムまで手掛けたといいます。詳しくは『「インクルーシブデザイン」という発想』(フィルムアート社)『インクルーシブデザイン』(学芸出版社)で読むことができます。
カセム氏の事例は、現場に入っていって参加型のデザインを行う点で、CBSと共通しているところがあると思うんです。フリーランスとしての専門性をいったん忘れ、現地の人やチームメンバーの話に耳を傾ける。そこで新しいことを学びながら働く。それがCBSの、ひいては地方での仕事がもつおもしろさかなと思います。

──耳を傾け、新しいことを学ぶ。なるほど、島根でフリーランスとして、チームとして動くことのおもしろさについて、いいまとめをいただいたと思います。まだまだ話し足りないですが、今日はこのあたりで終えましょうか。みなさん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。