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主人公はわたし:はてしない世界を追うきっかけをくれた本

大人になると本を読むのが仕事や義務になってしまうことがあり、なかなか自分にピッタリな良書に巡り合うことが少なくなってきますよね。もう長いこと生きていますが(笑)わたしにとってのナンバーワンの本はいまだにもう35年以上前に読んだ はてしない物語 です。

子供時代は本を読むのが好きで、空を見ては木を仰いでは水を弾いては違う世界に迷い込む空想が好きだったわたしにとって はてしない物語 は衝撃でした。

ここでネタバレしてしまうとこれからこの本を初めて読む羨ましい人から、この本を読む一番素敵な理由が失われてしまうのであらすじなどは省きますね。
だって絶対読んで欲しいのですよ。
それも大きな本で(文庫本でなく)。
なるべくなら暗い部屋で一人で。
音も音楽もなく静かなところで。
心と五感を精一杯自由にして読んで欲しいのです。

主人公は古本屋でこの本を見つけますが、わたしがこの本と出会ったのは学校の図書室でした。多分新刊で図書の先生が激推ししていたのだと思いますが、入って左手すぐの目立つ棚に飾ってあったのを鮮明に覚えています。
放課後の夕日がちょっと差し込んで、みんなが運動場でドッジボールをしたり大縄跳びをしていたり、はっきりと聞こえないけれども楽しそうな声が聞こえてくる図書室。

小さい町の小さい小学校の小さい図書室ですから、わたしがもう読んでしまった本も沢山あって、あてもなく今日は何を読もう・何を借りようかとぶらぶらしに行った、電気がついていても薄暗い部屋に鎮座していた はてしない物語
昨日はなかったので、今日のうちにこんな九州の南の端っこの小さい部屋に届けられたその本は、もう表紙からして魅惑の存在でした。
分厚くて重く、両手で持たないといけないほど大きく、なんだか自分の古い巾着袋に入れて持ち帰るのもはばかられるような、ピカピカで特別な本。

借りる前に箱から出して中をめくってみたいな。
でもこんなに特別なのに開けるのは怖いな。
こんなに寂れて、誰もいない図書室で、この本が最初の呼吸をするのはどうかな。

裏に張り付いていた図書カードは予想通り真新しいものでわたしの名前が裏表50まである罫線の一番上に書かれます。
図書委員の男の子はわたしの下の名前も漢字も知らず“なんだっけ?”と聞くので、手元のノートに書いて見せてあげます。

同じクラスなのに、去年も。わたしの名前も知らないんだ。

そういう理由で図書室に放課後入り浸っているのに、現実を突きつけられたようでそれなりに悲しい気持ちが湧いてきます。

ほぼ無言でのやり取りが終わり、その本がようやくわたしの物になってからは一目散に家に帰り、うやうやしく箱から出してパラパラとめくるとなんだか 
もうこれは本ではないのでないか という恐怖にも似た興奮を感じました。
何か生き物のような鼓動すら手のひらに伝わります。
そしてページ毎にその鼓動は大きくなったり静かになったりします。

なるべくきちんと文字を読もう、ちゃんと文章を理解してから次に進もう、早く読み飛ばしたらもったいない、そんな風に思えた本は初めてでした。
読み進めて子供ながらに、世界中には色々な本と色々なお話ともっと色々な人間がいるのだ と大人のごとく感心したのもこの本が初めてでした。
時間をかけて読み終われば、自分が物語の中で“体験”した数々の苦労や、バカバカしい会話や、目をつぶるほどの恐怖やら、憧れや恋のような震えまで、すべてが自分自身の過去になったような気持ちがしたのも、この本が初めてでした。

わたしは小さいな世界に住んでいるのに、とてつもなくはてしなく大きな体験ができたのはこの本のおかげでした。

わたしはこの紹介を記憶だけを頼りに書いています。
はてしない物語 は一回読んで、その後一度も手にしていません。

どう振り返っても人生のはじめのうちに読んだこの本が、わたしの人生で一番大切で一番心に残っている本なのに、図書室に返しに行って以来また読んでみようと思ったことはありませんでした。

怖くてもう一度読めなかった、のが正解だと思います。
ページをゆっくりとめくって手に入れた、ワクワクの上のワクワクを握りしめたままでいたかったのだと思います。
もう一度手に取ったら、それがまたリセットされ、1度目のような感激がなくなるのではないかと怖かったから読んでいないのです。

もしあなたがこの本をまだ手にしていないなら。
もしあなたの大切な誰かがまだこの本を読んでいないなら。
もしあなたが新しい人生を始めようと決心しているなら。

はてしない物語 をわたしから贈ってあげたい。

誰もが同じようには受け止めないかもしれないし、歳を重ねてしまったからもう子供のようには読めないかもしれない・・・
それでも、あなたが20歳でも45歳でも70歳でも、はてしない物語 はあなたをあなただけしか体験できない はてしない旅に連れて行ってくれます。

シマリスがお約束します。

シマフィー

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