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アメリカ人とケチャップの悲しい話➁

その1はこちらから!

疑問:アメリカ人はケチャップやピザを野菜と思っているのか?

結論から言いますと、アメリカ(国として)はケチャップもピザも野菜として認識していないです

しかしながら政治的理由で野菜としてカウントしようかなぁ〜という事態はありました。でも結果的には”カウントされるわけないやん!”というUSDA(米国農務省)の発表で決着は1981年についています。

ではどこからこんな話になってしまったのか。
発端は1980年代のレーガン政権時の大幅な連邦政府の予算カットにあります。
めちゃめちゃ端折って説明しますよ〜。ソースは記事の最後に貼り付けておきます。

事の始まり:学校給食の予算カット(1981年)

レーガン政権の1981年、大幅な経済改革を目標にあちこちでの予算カットが命じられ、学校給食プログラムも予算30%減の年間15億ドルカットを迫られます。

戦後すぐに始まったアメリカの学校給食は全額、割引、無料の3つのプランにわけられ、家庭の収入に応じて支払う料金が変わります。学校給食が始まった頃の70年代は全額を払う児童数が無料ランチの子供達より3倍も多く、予算のバランスもとれていましたが、年を追うごとにその差は縮まり段々と採算があわなくなります。

80年代初めには全額と無料の生徒数が同率でしたが、90年代には無料ランチの子供が多くなり、その数は2010年頃からは全額ランチの子供の2倍になっています。簡単に見ると、それほど貧困家庭で育っている子供の数が年々増え続けた、と言うことです

州にもよるのですが、家庭収入が最低生活水準にみたない家庭(現在は年収100万〜250万円程)が無料ランチの対象になり、そのような家庭環境にある子供はまともな食事は学校給食でしかとることが出来ません。朝ごはんが食べられず学校に来る子も多く、1975年には子供達の健康を守るために全国の公立小中学校で朝食の提供も始まりました。
USDA(農務省)は朝食・昼食の栄養ガイドラインを設け、それに沿ったメニューの提案をします。

どう予算をカットしようか・・・そうだ、ひらめいた!

81年の予算カットにあわせ、USDAはガイドライン中の“果物・野菜”の2品のうち1つを“レリッシュピクルスなどのcondiments”(量が定められた野菜と同じ量ならば)での代用が可能という提案をします。その提案書にはケチャップの文字はありませんでした。あくまでも提案ですよ!決定ではないです!

私が思うにこの condiments という表記がのちにケチャップは野菜と取り上げられた理由の気がします。
*レリッシュとはピクルスを細かく刻んだものでホットドッグにかけて食べる薬味です(トップ写真の緑のトッピングです)。

Condiments は薬味もケチャップやマヨネーズのような調味料も、どちらも指す単語です。トマトやアボカドなど野菜たっぷりのサルサも condiment です。
もともとの提案には”レリッシュのようなcondiments” とあいまいな表記でしたので、マスコミがそれを取り上げ、世間で話題になった時にcondiments の幅を広げて “それならケチャップは野菜と言うのか!” と非難されたのだと思います。

そしてその提案は却下されます。予算カット提案書から ”Condiments は野菜とカウント”、の一文はなくなります。

その後も有識者(特にレーガン政権反対派)などを交えたケチャップ論争は続き、給食の予算削減案は栄養バランスに必要な5品(肉、野菜か果物2品、パン、牛乳)を据え置きにしながらも、予算カットのためにそれぞれの“代用品”(例:豆腐が肉の代用品、シリアルやコメがパンの代わり)も可とし、提供する量も学年によって変えることにします。

じゃあトマトソースはどうなの?野菜?

提案書では野菜・果物2品のうち1品を“濃縮品”で代用可とされていますが、特に何の、とは明記されてありません。それをマスコミが取り上げ、ケチャップも濃縮なので野菜としてカウントするのではないか、とまた論争が起こります。

アメリカにはいろんなトマトプロダクトがあり、それぞれに明確な違いがあります。トマトピューレ、トマトソース、トマトペースト、トマトケチャップ、パスタソース、トマトサルサ・・・これらは皆別物です。この中で調味料が入らず、完全なる”濃縮品”はトマトペーストだけです。*ペーストはこしあん位の状態です。

なのでペーストと比べて水分がずっと多いトマトソースは野菜の代用品には含まれていません。

結局はどんな代用品を使うかは給食を提供する州機関・学校に解釈を委ねられ、コスト削減や調理人員のカットなどから、徐々に健康的とは言いかねる給食が提供されるようになります。

冷凍食品で温めるだけのピザとかフライドポテトとかナゲット、とかです。栄養面を考慮してメニューを決めるはずだったのに、予算が足りず”大体の”栄養面しかカバーできなくなっているのです。そんな中でトマトペースト(ソースやケチャップではない)を使ったピザソースは野菜としてカウントされてもそれは濃縮品なのでOKになっているのです。

なぜ大さじ2杯なの?

またまたソースが見つからないのでシマリスの推測です。

トマトペーストのレシピを見ると、大さじ32杯分のペーストに必要なトマトは10パウンド(4.5キロ)・・・とすると、大さじ2杯のペーストにはトマトが280g入っている計算です。中サイズのトマトが130gほどなので約2つ分です。
濃縮の野菜や果物をどう“1品”と数えるかは品物によって違うと思いますが、こんな計算を元に大さじ2杯になったのかな、と推測します。
栄養価が生のトマト2個分と同じかどうかはおいといて、です。

限られた予算での給食の提供という壁を、こんな回り道で“可能”にしたのかなと思うと、政治的な、商業的な思惑を踏まえつつどうにかしないといけなかった現場の苦悩もあったのかな、とちょっと同情します。

*2011年のオバマ政権時にトマトプロダクトを野菜とカウントするならば大さじ2杯からカップ1/2に変更をとの提案が出されましたが、給食用ピザ業界からの反発により今でも大さじ2が基準量のままです(ペーストの場合です)。ちなみにこの時は新鮮な野菜を使ったサルサ(薬味扱い)も野菜1品とカウントされる、と決まりました。

みんなそんな不十分な給食を食べないといけないの?

物価や人件費の向上とともに高くなる給食費なので(朝:約150円、昼:約250円)、お弁当を持参の子供もたくさんいます。彼らのランチが栄養的に優れているのか・・・はなんともコメントし難いです。ピーナッツバターがついたパンとみかんだけの子供もいれば、クラッカーとチーズの子供もいます。もちろんサラダとチキンの子もいます。

そして忘れてならないのはクラッカーさえも買えず食べられない子供も同じクラスにいることです。そんな子供達にとっては無料の朝・昼の給食が唯一の食事です。

統計によるとアメリカの6人に1人の子供が経済的な理由から十分なものが食べられず、栄養失調、生活習慣病や肥満の危険があるとのことです。
アメリカの野菜や果物は決して高価ではないですが、お金がなく調理の時間がない親が子供に与えるのは大抵がパッケージフードと呼ばれる、開けてすぐに食べられるものです。レンジでチンとかもその類です。
学校給食は残念ながら完璧な栄養で十分の量はない・・・それでも、その栄養に頼らざるを得ない育ち盛りの子供がたくさんいるのが現状です。

夏休みも、リモート授業の時も、ボランティアの方が炊き出しをして校庭にランチルームを作り、お弁当を無料で子供達に配っている学校があちこちにあります。パンデミックで公立の学校がリモートに変わった時に、先生たちがまず心配されていたのは生徒たちのネット状況もですが食事でした。学校給食でしか満足にごはんを食べられない子供が本当にたくさんいるのです。

アメリカの貧富の差は日本の皆さんが想像されるよりももっとずっと深刻です。

これまで無料の給食でしか栄養をとれない子供のことを書きましたが、私が務めている私立学校は朝と昼の給食費が年間で16万円です。パンデミック以前のカフェのビュッフェには3種類のサラダ、肉、魚、豆腐、野菜のサイドとメイン、手作りのパスタやピザ、時にはお寿司、新鮮なフルーツとデザートが並びます。生徒たちはほとんどがバランスよく食べています。金銭的に恵まれている子供はこのように食事面でも恵まれています。



ピザは野菜?

富裕層やミドルクラス家庭のアメリカ人はそんな風には思わないはずです。
けれど、実際問題として、給食のピザでしか野菜を取れない子供たちにとっては、(彼らがそう知らずとも)ピザに使うトマトペーストがその日唯一とれた“野菜”になるのかもしれません。

ピザは野菜だよ、とジョークではなく真剣に言うアメリカ人に出会ったらどうか笑ったりせずに、彼らの生い立ちを思いやってください。金銭的にしろ家庭環境にしろ、食事や栄養面で何かしらの障害があったのではないかと想像できます。

近年はアメリカも食育に力をいれており、肥満防止や健康のために小さいうちから食べ物について教えています。しかしながら、学校給食の予算問題はなかなかスパッと解決できません。全部の子供達が新鮮で、栄養たっぷりのバランスが取れた食事を1日で1食でもいいので、取れるようになる日が早く来る事を願っています。


シマフィー









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