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Do Anything: 捨てられた私の思い出の曲

不思議なことにミネアポリスに住んでいた時は音楽関連で楽しいことがたくさんあった。以前プリンスとの小さな思い出を書いたが、それもミネアポリスでのことだ。

ミネアポリスはシカゴほど大きい都市ではないがほどほどに大きく美しい都会で、自然だけではなく美術や音楽などの文化も大切にされていた。
プリンスの出身地だけあってライブハウスでも質の高いバンドが演奏していたし、カフェや大学構内のホールでもクラッシックからジャズ、ラップにゴスペルまで色んな音楽と触れ合える機会が山ほどあった。

そんな場所で引っ越してすぐに出会ったのがフレデリックだった。普段は何の仕事をしているか知らないが夜は歌手をしているという。彼はクラブで歌う時はたくさんファンが来る、と言うが ふーーん、としか返事をしない私に “シマも一回来いよ” と誘ってくれた。
私はまだ21歳ではなく、お酒を出されるクラブには入れない年齢だけど、フレデリックの友達と言えばすぐ出て行って入れてやるよ、と言われ、その通りにした。

賑わうクラブには小さなステージがあり、彼が歌うにはまだ時間があるからとバーでビールを飲んだ。彼は普通の男の子で特に素敵なわけでもないしかっこよくもないけど、優しくてニコニコの笑顔がかわいらしい人だった。ガールフレンドはいない、と言っていたけれど別に私にアプローチするでもなく下心があるようすでもなく、出会った時は “俺、日本人の友達できるの初めてだ〜うれしい”とはしゃいでいた。
ミネアポリスがどんなところかも知らないわたしを親切に案内してくれて、美味しいピザ屋やカフェを教えてくれた。

ビールを一本飲み終え、彼は じゃあ行くね!と走り出し、ぴょんとステージに飛び乗った。その瞬間、クラブ中に キャーーーーッという声援が広がり、その時初めてフレデリックが言っていた“ファンがいる”と言うのが嘘ではなかったとわかった。

ステージの上ではぴょこぴょこと動き回りながら高い可愛らしい声でポップなラブソングを歌った。とてもキャッチーで周りの女の子がもう口ずさんでいた。

まだ地元でじわじわとしか売れていなかったらしいこの曲は、わたしがこのライブで見たすぐ後にビッグヒットとなり、なんとビルボードで#2まで登りつめた。
そして売れてしまってからフレデリックとピザを食べることも公園をぶらぶらすることもなくなった。

ボーイフレンドではなかったけれど、ちょっとだけ捨てられたような気分だけが残り、CDを貰ったがもう聴くことはなくなった。

Youtube にひょっとしてあるかな?と見てみると・・・・あった。
あの時の、私が覚えているあのままのフレデリックのニコニコがそのまま封じ込めてあった。

Natural Selection "Do Anything"

やっぱりキャッチーで可愛くて楽しい曲だ。良かった、探して、見つけて。

シマフィー

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