【読書感想文】白い服の男/星新一 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
10作品が収録された星新一さんの短編集。
数が少ない分一つの話が比較的長めですが、その分世界観に没入できます。
正義、平和、秩序、利便性…それらを追い求める人々の歪んだ信念
宇宙や未来などSF要素が強い作品のイメージがある星新一さんですが、これはどちらかといえば現代や現実社会を斜めから見たような作品が集まっています。
それらを妄信し突き詰めるが故に、端から見れば暴走とも言える行動を取る人々。正しいと信じてやまない人たちを皮肉った内容が多く、取り扱うテーマもあってか他のショートショートと比べると重い雰囲気があります。
そんな10ある作品の中で、特に好きな作品をピックアップしてみます。
平和を脅かす原因を根絶やしにすることを誇りとする【白い服の男】
語り手は白い制服を仕事のユニフォームとする男性。特殊警察と呼ばれる組織の署長を務める彼は、自分の仕事に強い誇りを抱いている。
殺人などの犯罪者を逮捕するのは、一般の警察の仕事。警察は警察でも、彼らはとあることに関する犯罪に特化した仕事を行っていた。いつものように『盗聴室』を訪れた時、ある親子の会話が聞こえてきた。子どもは言う、「セをして遊ぼうよ」と。それを聞いた親は、顔を引きつらせて―――
『セ』に関することをあらゆる手で徹底排除し、それにより平和を維持しようとする彼らの仕事とは。
ここまで徹底的にやると現代では問題になりそうですが、過去の出来事によってはこうなっていた可能性もあったかもしれません。『セ』は確かに平和には最も悪と呼べるもの、ただここまでくると彼らは果たして正義なのか?と疑問に思わずにもいられません。
こんな未来も近いかもしれない【テレビシート加工】
テレビは時代を経ていく毎に厚みがなくなっていき、最終的には紙よりも少しだけ厚いレベルへと進化していた。テレビシートと呼ばれたそれはあっという間に普及し、関連商品も多数誕生した。壁紙や床、冷蔵庫などの家電、食器類、食品等のパッケージ、果ては服装にまで、ありとあらゆるものにテレビシートが貼られる世の中となった。空や海、花や鳥、縞模様の柄…すべてが絶えず動いている中で、人々は日常生活を営んでいく。
今は当たり前となった薄型テレビや、プロジェクションマッピングを彷彿とさせる作品。まだブラウン管のカラーテレビが普及して間もない頃に、こんなお話をかけるとは驚きです。またいつでもどこでも動いているものを目にできるというのも、場所を問わず動画が観られる現代を表しているようにも思えます。更に、そんな世界で違反をした時に与えられる罰にも注目です。
ロボットが狙うのはどんな狂人?【矛盾の凶器】
三郎は特殊任務担当の刑事。彼に舞い込んできた事件は、変人と呼ばれる青原博士が変死で発見されたというものだった。現場の状態から病死や自殺が疑われたが、死因は首を絞められたことによる窒息死だった。更に博士の研究データから、彼が異常者を襲うヘビ型のロボットを発明していたことが明らかになる。ならばそのロボットに殺されたのか?ただ自分が殺されるようなロボットを作るはずはない、一体何故彼は被害に遭ってしまったのか。
逃げているヘビを捕まえようと奮闘する三郎だったが、疲労が貯まってしまう。部下に勧められ休憩していると、そこにヘビ型ロボットが現れて―――
珍しくミステリー風な作品。ロボットがターゲットとする人間の特徴を探るのが鍵となります。この特徴はいつの時代もある問題であり、時には重大な事件を起こすことにも繋がるかもしれないものですが、博士自らが殺されてしまったことを考えると、こういった人たちは自覚を持ちにくいのかもしれませんね…
お金に目が眩んだ先の思わぬ末路【特殊大量殺人機】
博士と助手は、ついにとある機械を作り上げることに成功した。『陽子振動式・特殊選択式・遠隔作用・大量殺人機』と命名されたその機械は、打ち込めばある条件を満たした人間を一度に殺害できるというものだった。助手は止めようと懇願するが、博士は試しに世界中の死刑囚を殺害してみせた。更には警察でも検挙できなかった組織のメンバーなど、悪事を働く人々を機械によって裁いていったのだ。この機械でお金を集めようとした博士たちだったが、事態はおかしな方向へと転がり始める。
こんな機械が普及したら、世界は大混乱に陥ることでしょう。博士はあくまでも悪事を働く人たちをターゲットにしていましたが、そんな人たちばかりではありませんよね。自己防衛と言いつつ簡単に人を殺せる機械を持った結果は、平和どころの騒ぎではないでしょう。
その日を境に変わり始めた世界【時の渦】
ある日突然、未来の予測が立たなくなった。占い師は何も見えなくなり、株価の予測はある日程を超えるとまったく出来なくなり、天気予報すらも無効と化した。その日を超えると、地球は一体どうなってしまうのか。その日は『ゼロ日時』という名前にされ、刻一刻と迫るリミットに人々はざわついていた。
そしてゼロ日時、恐々と目覚めたものの特に変わらず日常は過ぎていき、結局何も起きずに終わった。だが翌朝起きてみると、昨日口にしたはずの食料が元通りになっていたのだった。世界で起こったこととは一体何だったのか。
起きた出来事は最初は小さなものでしたが、徐々に大事となって、最終的には壮大なスケールのお話に。その結末はいったいどんなものか…スケール大きすぎて想像もできません。
またある日を境にいろんなことに支障をきたすかもしれないという予想は、以前あった2000年問題を思い起こさせます。結局大きな問題は発生しませんでしたが、起きたらどうなっていたのか…
リアル過ぎて最早怖い?現代に当てはめて考えられる作品集
SF要素が薄い分、リアリティが強く数年後には有り得るかもしれないとさえ思わせてくれます。
特にテレビシートなんかは本当に実現しそうですからね。それを50年近くも前に書かれているとは…どんな未来を想像していたのか聞いてみたいくらいです。
その世界に自分を当てはめながら読んでみると、より一層楽しめます。
ではでは、また次の投稿まで。