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"ショッピングモール"次の週末に行くならどっち?

こんにちは。
絵本と美術書の出版及び、デザインの基礎研究を行う視覚デザイン研究所の所長、内田です。前回は牛乳パックのデザイン分析を紹介しました。多くの反響をいただき沢山の方に読んでいただいたことを大変感謝しております。今回は視野を広げて、 ショッピングモールをテーマに好感度の高いデザインを分析してみます。

内田 広由紀(うちだ ひろゆき)
1940年生まれ、1964年日本大学芸術学部視覚デザイン専攻卒業後、1976年視覚デザイン研究所設立。デザイン実務と並行し、東京芸術大学、武蔵野美術大学、女子美術短期大学等で講師を行う。2009年にそれまでの研究結果から人の感情力は少年期までに育つことがわかり、子供の健全な感情力を応援する絵本の制作を始める。 絵本出版はヒット率5%以下という厳しい分野ながら、出版した絵本はヒット率50%を超え、視覚スケールの効果が確かめられている。

どっちに行きたいですか?

深く考えないで一瞬の直感で決めてください。

直感的に好感するデザイン

一瞬で選ぶとほとんどの人が<b>を選びます。
好みは人それぞれと思われていますが、実際には多くの人が同じデザインを好感しています。それは、直感的な判断には原始的な脳と言われる扁桃体が反応するからです。扁桃体が判断すると人はほぼ共通の感情を抱きます。この共感力によって社会が安定して築かれています。私はこの共感を伝える技術=デザインだと考えます。言い換えれば良いデザインとは多くの人の共感を生み、手に取ってみたい・行ってみたいという行動を起こさせるデザインです。

個性派が社会を発展させる
多数とは違う答えを選択する人はいます。多数派の答えは凡庸で物足りないと感じて今までになかった斬新な形に好感を持ったり、あるいはより主張を抑えた形を好む人もいるはずです。史上でも、少数の個性や冒険心が社会を発展させた例は数多くあります。例としてエッフェル塔は建設当時反対意見が多く支持する人は少数派でしたが、現在ではパリを代表するアイコンとして親しまれています。少数派が社会を動かした例とも言えるでしょう。このように少数派の意見は社会全体に取って大切な感じ方です。

アンケート調査で好感デザインの特徴を探ろう

2022年6月 視覚デザイン研究所実施 サンプル数33名
当室では、既存のショッピングモールのデザインに関して、好き・嫌いを選択する好感度アンケートを実施しました。

調査結果を好感度順に並べてみました。Aは多くの人が好み、Eは好感が集まらなかったものです。このように並べてみると好感されるものとされないものの違いが少し見えてきました。ここからは視覚スケールを使って建物の要素を分析していきます。

視覚スケールとは?

デザインの好感度を上げるには、当室が考える視覚スケールという物差しで考えると見えてきます。視覚スケールとは何でしょう?
簡単に言うと、人が直感で”好き”と判断する条件を対象ごとに抜き出したものです。
先ほどのa,bテストの通り、脳は好き嫌いを一瞬で判断します。直感を司る脳である扁桃体が”好感”と判定すると人は好意を抱きます。この扁桃体の好感を得るには3感(共感・安心感・美感)が揃うことが条件です。つまり3感が揃う→扁桃体が”好感”と判定すると考えられます。
視覚スケールは3感に必要な条件を対象ごとに抜き出したものとも言えます。例えば前回紹介した牛乳パックのデザインで必要な条件は「画像率・文字のジャンプ率・色相」で、それぞれを最適値に調整すると好感度Aのデザインになりました。しかし今回のショッピングモールのデザインに、画像や文字のジャンプ率が必要とは言えないでしょう。視覚スケールはデザインの対象ごとに有効となるものが異なるのです。ではショッピングモールにはどんな条件が必要でしょうか?

補足:視覚スケールについて
視覚スケールで扁桃体の反応を測れる、というのは”仮説”です。扁桃体が好感判定するところまでは科学的に証明されていますが、その条件である3感自体は最先端科学でも測れません。この条件と判定の空白を埋める仮説が視覚スケールです。視覚スケールの有効性を確かめるため、当室では20年をかけ3分野でこの有効性を実証してきました。またこれをより確かなものにすべく、実証を続けています。

視覚スケール① 『輪郭』 に緩やかな曲線を

建物の印象を決める要素として重要なものの一つに『輪郭』 があります。
輪郭が直線的な建物は実務的・緊張感・効率的・日常(ケ)のイメージを与えます。対して、輪郭に緩やかな曲線を持った建物は暖かさ・安心感・解放的・非日常(ハレ)のイメージを与えます。

ショッピングモールにとってまず重要なのは非日常感(ハレ感)です。人々は休日にショッピングモールに行く時、仕事を忘れられる解放感と楽しさを求めているでしょう。また多くの人にとってショッピングモールは、警戒や緊張をせずに安心感を感じて過ごしたい場所です。
安心感の重要性はデザインの現場であまり語られないように思いますが、人が生きる上で根源的な感覚です。人が好感を抱くのに、”これは危険ではない”と判断できる安心感を持てることはとても重要です。
このような理由からショッピングモールの輪郭には緩やかな曲線を持たせたると、人々は非日常感と安心感を感じ、好感度が上がります。

2020年東京オリンピックの新国立競技場ザハ案に日本中が反発し設計がやり直しとなったのは経費の面だけではありません。ザハ案は曲線的ではありますが尖った要素も多く全体として鋭利な印象があります。多くの人にとって直感的に、安心感とは逆の危険・恐怖を感じさせたからとも言えるでしょう。

新国立競技場ザハ案

視覚スケール② 『物語性』 を持たせる

次の視覚スケールは『物語性』です。
物語性は聞きなれない言葉かもしれません。
これは建物を見たときに、その建物が持つ背景やテーマを無意識に想像させるかどうか、ということです。ショッピングモールが物語性を感じさせる方法としては、エントランスに植栽・噴水・小川・オブジェなどがある空間を設けることが挙げられます。人はこのような空間に出会うと懐かしさや幸せな気持ちを感じます。そしてショッピングモールに対し、単純に買い物をするだけでない付加価値を抱きます。

名建築は物語性で決まる
建築物が人の心をとらえるかどうかは物語性の有無で決まります。しかし物語性とは、先に挙げたエントランスの空間作りだけではありません。建築自体は石と鉄を組み合わせ合理性を追求した構造物ですが、物語性を感じた場合脳に蓄積された幸せな記憶が蘇り名建築と呼ばれます。
オペラハウス、パルテノン神殿、タージマハル、エッフェル塔など挙げればきりがありません。人々はエッフェル塔を見た時、建築時のパリの栄華や産業革命の時代を思い浮かべたりします。このように建物と心がつながった時、名建築が生まれます。

オペラハウス、パルテノン神殿、タージマハル、エッフェル塔

校舎デザインに物語性を取り入れ、入学者が2倍に
創立100周年の某女子校を建て替える際に大切にしたのが物語性です。小路やゆったり曲がった大階段、ステンドグラスなど随所に物語を想起させる空間を取り入れたところ、翌年の入学者数が200%を越えました。建築における視覚スケールの有効性を実証する一例です。

小路・ゆったり曲がった大階段・ステンドグラスなど

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ショッピングモールのような建築物にも、視覚スケールを用いれば好感度の高いデザインの条件を見つけることができます。

当室では、視覚スケールをより使いやすくする方法を開発中です。
視覚スケールについて詳しい本や美術書も出版しています。
デザイン書・美術書ストア
今までのデザイン実験

また研究の成果を生かして、子どもの感性を健康に育てるためのえほんを出版しています。
えほんストア
視覚デザイン研究所公式サイト

視覚デザイン研究所のWEBサイトでは他にも、選挙ポスターデザインと得票数の関係性や、良いデザインとベストセラーの関係性など、感性の数値化や視覚スケールでの実験を行っています。
また当室出版「レイアウト基礎講座」を再編集したレイアウト様式を決定づける8要素も無料公開しています。発行から年月を経ていますがレイアウトの基礎は不変です。ぜひご覧ください。

次回予告です

・大阪万博のキャラクターはどっちがいい?

実験協力者募集

視覚デザイン研究所では、デザインを見て好きか嫌いかを皆さんに答えていただくアンケートを準備中です。当室の基礎研究に欠かせない大切なデータとなりますので、多くの方に協力していただけると大変嬉しいです。
※アンケートは近日公開。note、公式twitter、当室サイトのデザイン実験室に設置を予定しています。

実験のテーマも募集中。読んでみたいテーマがありましたら教えてください。また、自信のある商品ができたら好感度Aデザインにして発売してみませんか?無償で協力させてください。

次回もお楽しみに。

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