ブルガリのロゴが「U」ではなく「V」である理由
ビジネスに使えるデザインの話
デザイナーではない方に向けた、ビジネスに役立つデザインの話マガジン。グラフィックデザイン、書体から建築まで扱います。毎週火曜日7時に更新。
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イタリアのハイブランド「ブルガリ」
ややこしいのですが、「ブルガリ」のロゴは「BVLGARI」なのに、実際の綴り(たとえばURLは「www.bulgari.com」)は「BULGARI」です。なぜ?なんで?いつから?という話をしていきます。まずはブルガリとはどういうブランドかについて軽く触れていきます。
ブルガリの創業は1884年。イタリアのブランドです。ギリシャ系イタリア人、ソティリオ・ブルガリ(Sotirios Voulgaris)が創業した高級宝飾品ブランドです。
本社はローマ。2011年から高級ブランドの帝国LVMHの傘下。ブルガリは、宝飾のみならず腕時計、香水、2004年からはホテル事業にも進出。
ブルガリのロゴ
オリジナルなようで、ベースになっている書体はこれ!というのはありません。特徴は、セリフ体ですが、セリフ(文字の端っこ部分の鱗みたいなところ)が小さいところ)。文字間は広く、優雅で歴史ある気配があります。このロゴは、1934年に作られたものです。
ブルガリのロゴの歴史
ブルガリの創業は1884年。ローマでのブルガリの最初の店舗の写真です。このときのロゴは、
この「S」は何かというと、創業者の名前、ソティリオ・ブルガリ(Sotirios Voulgaris)のSです。
1921年になるとこのロゴに変更されました。文字の比率が変更され、セリフが優雅なものになっています。まだソティリオのSがあり、UはUのままです。
この約6年間の間、ブルガリのロゴは装飾が多いこのような意匠になっていました。
現在までのあいだ、微修正されてきていますが、ほぼ現在と同じロゴになったのが、1934年。このロゴは、コンドッティ通りの旗艦店の中央玄関で最初にお披露目されました。ここではじめてUがVにかわりました。(そしてSがなくなりました。)創業者のソティリオは1932年に死去しています。ブランドは2人の息子が引き継ぎました(なんとなくエルメスを彷彿させます)。なぜUをVに変えたのでしょうか?
BULGARIがBVLGARIに変わった理由
理由は、
Sがなくなったのは、創業者個人名から、ブルガリ一族の経営に変わったからですが、もともとブルガリ家の綴りは、BULGARI。UをVに変えたのは、ブランドを「歴史ある」イメージにしたかったから。では、なぜUをVに変えることで「歴史ある」イメージになるのか。それは、
ニッカウヰスキーの「ヰ」みたいなものです。
アルファベット「U」っていつできたのか?
「u」が「v」とは別の文字として初めて使われたのは、1386年。印刷業者は、17世紀まで大文字の「U」を使わず、この2文字の区別は、1762年までフランスのアカデミーで受け入れられてきませんでした。
最初はYで、つぎにV、そしてUになっていきました。
アルファベットは、古代ギリシア人がフェニキア文字を元にしてギリシア文字を作ったのが、その起源です。フェニキア文字とは、古代地中海世界において現在のレバノン一帯を中心に活動していたフェニキア人によって使用されていたフェニキア語を表す22文字。ちなみに「アルファベット」という言葉は、ギリシア文字の最初の2文字 α「アルファ」、 β 「ベータ」を続けたものが由来です。
フェニキア文字→ギリシャ文字→ラテン文字(ローマ字)という発展を遂げて、現在のアルファベットになっています。この過程で、新しく生まれた文字は、「G」、「J」、「U」、「W」。
そんなわけで、UじゃなくてVを使うと歴史がありそうに見える、というわけです。これがブルガリのロゴが、「U」じゃなくて「V」である理由です。
まとめ
よくお店などの看板に「SINCE ----」と創業年が入れられているのを日本でみかけます。しかし比較的新しくて、たとえば「SINCE 2015」なんて表記をみるといくぶん滑稽に見えたりします。歴史があるからそれを押し出すわけで、無いのに押し出されても、という違和感が滑稽さにつながるわけですが、意図としては、ブルガリの「V」と同じわけです。
「歴史があるように見せる」というブランドはけっこうあって、ちょっと良くない例で言えば、シンガポールの紅茶ブランド、TWGがあります。
このロゴを見ると「お!1837年創業なのか!」と誰しもが推測してしまいますが、TWGの創業は2007年。じゃあこれは何の「1837」かというとシンガポールに商工会議所ができた年です。ブランドにはあまり(?)関係ないですね。
それはそれとして、ブルガリのロゴから、アルファベットの成り立ちが垣間見れるという話もまたなかなかおもしろいのではないでしょうか。
参照
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