ニューヨークらしい書体 Gotham(ゴッサム)とは
ビジネスに使えるデザインの話
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映画とファッションと書体
書体が映画やファッションの世界でどのように使われているのかを解説した記事をまとめたマガジンです。
Gotham(ゴッサム)という書体
書体名:Gotham(ゴッサム)
カテゴリー:サンセリフ体
分類:ジオメトリック
デザイナー:Tobias Frere-Jones, Jesse Ragan
ファウンダリー:Hoefler & Co.
リリース年:2000年
Gotham(ゴッサム)は、アメリカの書体デザイナーTobias Frere-JonesがJesse Raganと共にデザインした幾何学的なサンセリフ書体です。2000年にHoefler & Frere-Jonesファウンダリーからリリースされました。
Gothamの字形は、1920年から1960年頃にかけてのニューヨークの看板などから着想を得たものです。x-heightが適度に高く、開口部が広い書体です。
2008年のバラク・オバマの大統領選挙キャンペーン、ミシガン州立大学のブランディング、オーストラリア労働党の2016年連邦選挙キャンペーンなど、幅広く、大々的な規模で使用されています。またニューヨークのワンワールドトレードセンターの礎石(そせき)にも使用されています。
”アメリカ的”と言って良い書体ですが、上記の通り、オーストラリアや英国的な映画『007』のタイトルにも使われています。
Gotham(ゴッサム)誕生の経緯
Gotham(ゴッサム)は、当初雑誌GQ誌から依頼されたもので、編集者たちは「男性的で新しく新鮮」に見える「幾何学的な構造(ジオメトリック)」を持つサンセリフ体を雑誌に使用したいと考えていました。
Hoelfer & Co.の書体デザイナーのフレア=ジョーンズがこの書体のインスピレーションを得たのは、カメラを持ってマンハッタンを1ブロックごとに歩いて素材を探したことからでした。、彼は古い建物、特にポート・オーソリティ・バスターミナルの8番街のファサードのサインに見られるレタリングをベースにしました。
「このデザインには、個人的な意図が隠されていると思う」とフレア=ジョーンズは言及しています。ここ(ニューヨーク)で育った私は、いつも "古い "ニューヨークとそのレタリングが好きでした」。
"I suppose there's a hidden personal agenda in the design, to preserve those old pieces of New York that could be wiped out before they're appreciated. Having grown up here, I was always fond of the 'old' New York and its lettering." ※1
この書体にインスピレーションを与えたレタリングには、書体Futura(フツラ)のような1920年代の幾何学的なサンセリフ書体のスタイルと近い製作動機があり、その動機とは「活字は、建築のように、好ましくないローカルな、あるいは民族的な要素を排除して、効率的なエッセンスに還元されるべきだ、というものでした。
このような活字の単純化は、フレール・ジョーンズによって「活字デザイナーが作るような文字ではない。エンジニアが作るような文字だ。(アメリカのデザイナー、ポール・ショウ(Paul Shaw)はGothamのベースとなった書体について「幾何学的でありながらFuturaのようには見えなかった。幅はより均一で古典的ではなく、ボウルはより大きかった」と言及しています。※1
Gothamは、アメリカ的であると同時にニューヨーク特有のものとして捉えられています。ニューヨーク・タイムズ紙のデイヴィッド・ダンラップ(David Dunlap)は、Gothamについて「1930年代から1960年代にかけて(ニューヨークの)街並みを支配していた、無骨で無自覚な建築レタリングを意図的に想起させる」と評しています。※1
映画『Oppenheimer』のタイトルロゴにGothamが使われる理由
こちらの記事にも書きましたが、2023年に公開予定のクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』ではタイトルロゴにこのGotham(ゴッサム)が使われています。
映画『Oppenheimer』のタイトルロゴ
その理由は、単純明快で、この映画はその名の通り、原爆の開発のリーダーであったロバート・オッペンハイマーを扱った映画であり、原爆開発のプロジェクトはニューヨーク、マンハッタンに本部を置いたため「マンハッタン計画」と呼ばれていました。
この時代のマンハッタンの看板をベースにしたGothamほど、この映画のタイトルに相応しい書体はないでしょう。且つこの書体は、幾何学的であり、科学的なニュアンスもまた含んで持っています。
余談ですが、マンハッタン計画の本部こそマンハッタンですが、科学者たちのよる研究・開発はアメリカの複数の場所で行われていました。今わたしが読んでいる『ご冗談でしょう,ファインマンさん』では、その舞台がロスアラモスになっています。
Gotham(ゴッサム)のその他の使用例
2008年のバラク・オバマの大統領選挙キャンペーン
ミシガン州立大学のブランディング
ニューヨークのワンワールドトレードセンターの礎石
Taco Bellのロゴ
Cartoon Networkのロゴ
映画『007 Spector』のタイトルロゴ
Spotifyのロゴとコーポレート書体
Gothamをリリースしたファウンダリー、Hoefler & Co.
ファウンダリー(foundry)とは「鋳造所」というい意味で、活版印刷の時代、文字を作るの方法が鋳造だったことに由来した呼び方です。
Hoefler&Co.(H&Co)はマサチューセッツ州ウォバーンにあるデジタル活字鋳造所(フォントデザインスタジオ)で、活字デザイナーのジョナサン・ホーフラー(Jonathan Hoefler)によって1989年に設立されました。H&Coは、クライアントのために書体をデザインし、ウェブサイトで販売しています。
H&Coは、当初ニューヨーク・タイムズ、マーサ・スチュワート・リビング、ウォール・ストリート・ジャーナル、エスクァイア、ローリング・ストーン、スポーツ・イラストレイテッド、ハーパース・バザー、ワイアード、コンデナスト・ポートフォリオといった出版物のエディトリアル・コミッションや、ティファニー、ナイキ、ヒューレット・パッカードといった企業からの依頼を中心に活動していました。国連本部、グッゲンハイム美術館、ホイットニー美術館、レヴァー・ハウス、ラジオ・シティ・ミュージック・ホール、パブリック・シアター、ニューヨーク・ジェッツなど、ニューヨークの著名な文化施設とも仕事をしています。
2021年9月、HoeflerはMonotypeへの売却を発表し、HoeflerとCEOのCarleen Borsellaは退社しました。
まとめ
Gothamは、アメリカ的、ミッドセンチュリーなアメリカらしさ、Futuraとはことなる幾何学的なサンセリフ体、明瞭さ、男らしさ、太さ、図太さ、こういったニュアンスを持つ書体です。
そんなニュアンスを表したいときに、Gothamを候補に入れても良いでしょう。GothamはMy fontsというサイトから購入できます。
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参照
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