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フォルクスワーゲンブランドのために作られた書体は、その後MacBookに使われていた: VAG Rounded

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


書体 VAG Rounded

VAG Rounded typeface sample
By Connormah at English Wikipedia - Regenerated by 20040302 (talk), Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40266373

書体名:VAG Rounded(または VAG Rundschrift)
カテゴリー:サンセリフ体
デザイナー: Gerry Barney
リリース年:1978–1979年

VAG RundschriftまたはVAG Rounded(Rundschriftはドイツ語で「丸い書体」の意味)は、1978年から79年にかけてフォルクスワーゲンAG(AGは、Aktiengesellschaft、「株式会社」を意味するドイツ語の略語)のために開発され、1992年頃に使用を中止になった書体です。

1980年代に初めて一般向けに発表され、まずBertholdが1982年に太字シングルウェイトで、その後1989年にAdobeが発表しました。その後に4ウェイトに拡張されました。

さらにVAG Rounded Next(Monotype)では22ウェイトに拡張されています。


VAG Roundedはフォルクスワーゲンとアウディのディーラー組織、そしてV.A.G銀行やV.A.Gリースなど、フォルクスワーゲンの自動車に関連しないすべての活動に使用されていました。


VAG Roundedの歴史

1964年、フォルクスワーゲンAG( Volkswagen AG)はダイムラー・ベンツからオート・ユニオン社(Auto Union)を買収しました。オートユニオンの主な活動ブランドはDKWでしたが、すぐにフォルクスワーゲンによって中止され、オートユニオンの休止ブランドであるアウディに取って代わられました。

1970年代初頭、フォルクスワーゲンとアウディのディーラー組織は合併します。その後の数年間、フォルクスワーゲンAGは将来の戦略を練り直しました。フォルクスワーゲンは、複数の自動車会社を買収し、より充実したサービスを提供することを構想します。また、巨大なディーラーの屋根の下で多数のブランドを販売することも構想していました。

GGKデュッセルドルフ(書体メーカー)は、そのブランディング・コンセプトを任されました。当時のフォルクスワーゲンの書体はFuturaでした。そして当時のアウディはTimesという書体を使っていました。

新しい書体は、Futuraのようなサンセリフ体でもTimesのようなセリフ体でもなく、丸みを帯びた書体というアイデアが生まれました。当時、既存の丸みを帯びた書体が見つからなかったため、新しい書体を開発する必要がありました。

FuturaともTimesとも違う書体として、VAG Roundedは生まれました。
By Bertel Schmitt - Own created, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4289343


1978年、世界中のフォルクスワーゲンとアウディのディーラー組織全体がV.A.Gとして再ブランディングされ、すべての看板や広告の見出しにVAG Roundedが使用されるようになりました。しかしV.A.Gのロゴはこのフォントを使用していません。1980年代半ばにデスクトップパブリッシングが台頭すると、V.A.G Roundedはほとんどのフリーフォントパッケージに含まれ、そのために広く使われるようになりました。


VAGの意味

V.A.Gの意味は公式には明らかにされていません。「フォルクスワーゲンAG」(Volkswagen AG)(ただし、この時期の正式社名は「フォルクスワーゲンワークAG」(Volkswagenwerk AG)から「フォルクスワーゲン・アウディ・グループ」(Volkswagen Audi Group)まで、さまざまな説がありました。

ベルテル・シュミットは、V.A.Gという名称は、持株会社の社名変更に伴う法的な影響としてディーラー契約の書き換えを避けるため、意図的に曖昧にしたものだと明かしています(※1)。

V.A.G Logo
By Heierlon - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7143444

1994年までに、アウディブランドをBMWやメルセデス・ベンツと肩を並べる本格的なラグジュアリーブランドへと押し上げるというフォルクスワーゲンの長期的な目標に沿って、フォルクスワーゲンとアウディが共同で使用していた販売チャネルを切り離し、完全に独立したアウディディーラーネットワークを確立することが決定されました。

これは実質的にV.A.Gブランドとロゴの終焉でした。

アウディは同時期にコーポレートアイデンティティを一新し、1970年代後半から使用していた「Audi Oval」ロゴをやめ、4つのリングを目立たせ、すべてのコーポレートコミュニケーション用のフォントをTimesからUniversに変更しました。

その後のアウディのコーポレートタイプフェイスについてはこちらの記事も参照ください。


じつは、フォルクスワーゲンAGは自動車メーカーの大帝国で、傘下に
アウディ、ブガッティ、ベントレー、ランボルギーニ、SEAT、シュコダ、スカニア、MANを擁しています。

余談となりますが、V.A.Gの時代から残る曖昧さのひとつは、フォルクスワーゲン・グループ車の多くの部品には、ブランドに関係なく、フォルクスワーゲンとアウディのロゴが刻印されていることです。


VAG Roundedの使用例

2008年アップルMacBook Proのキーボード上のVAG丸文字
By Ashley Pomeroy - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113919392

最近の多くのウェブ2.0新興企業では、新しいロゴの明確な傾向として、VAG Roundedに代表されるソフトで丸みを帯びた書体が使われることが多くあります。

VAG Roundedは「そうでなければ冷たいトレードマークになりかねないものに、現代的な親しみやすさを与える」(※1)と捉えられいるようです。

アップル社は、1999年の第一世代iBookのリリース以来、同社のノートパソコンのキーボードにこの書体を使用し、2007年8月からはデスクトップのキーボードに使用していました。2015年になって、アップルは(Apple Watchのリリースがきっかけで)VAG Roundedを独自のフォントであるSan Franciscoに置き換えました(関連記事あり)。

VAG RoundedはRede Globo(現在はTV Globoでブラジルの無料放送テレビ局で使用されているフォントの一つであり、イギリスの玩具小売店The Entertainerのロゴや店内の多くの要素にも使用されています。

The Entertainerのロゴ
By http://www.thetoyshop.com/, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=37787514


2010年代以降、VAG Roundedの太字はセサミストリートの文字と数字のレギュラーフォントとなり、偶然にもその前身であるFuturaが数十年前から番組で使用されていたのに取って代わらました。Futuraと同様、文字の一部は子供たちが見分けやすいように変更されています(例えば、「I」のセリフや「j」の適切なテール)。

VAG Roundedは2005年からイギリスのWest Midlands Passenger Transport Executiveが公共交通インフラに使用し、(VAGから派生した)カスタム書体のNetworkに置き換えられるまで使われていました。


関連記事



参照

※1

https://en.wikipedia.org/wiki/VAG_Rounded

※2


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