市場に突如現れた行列に並んでみたら…
いつもの日曜市(テアンギスという)に行ったときのこと。
お目当てのナッツ類を安く購入でき、満足して家に帰ろうとするときだった。
テントの少し外れたところに、何やら行列ができていた。
10人、いや20人だろうか。
なぜ、こんなところに。
先頭の方をみてみても、店員は見当たらなかった。
だから、行列だったのだ。
ふーん、よく並ぶものだな。
そんなふうに思いながら、一度は通り過ぎた私であったが、なんだかやっぱり気になってしまった。
何が売られているのかだけね、と行列の先頭、売り場の木箱を覗いてみる。
パンだ。
1段目の木箱には、シンプルな丸いパン。インテグラル、雑穀入りもありそうな色をしている様子だ。
2段目の木箱からは、チーズのかかったバケットが顔を出していた。
どうやら手作り発酵のパンのようだ。
これは、並ぼう。
私は21人目の客として、最後尾に足を運んだ。
待ち時間の出来事
青いスカーフを頭に巻いた小洒落た奥さんが、私の前に並んでいた。
すると、私を見て、なにかを話してきた。
私が聞き取れたスペイン語は、’’テレフォノ’’。すなわち私が理解した言葉はケータイだけではあったが、ジェスチャーやら雰囲気やらで「スマホを車に取りに帰るから、ちょっと私の並び順キープしておいて!」とのことであると分かった。
日本にいたら、いやそんなんナシだろって思ってしまうが、ここメキシコでは全然許せる。というか、そもそもこの行列に並ぶのにも、命をかけて買いに来た訳では無いし、買えなかったらそれでもいいしという余裕があったからだろう。私はうん、と頷いた。
「ほんのちょっとだけね!ありがとう!」と彼女は列から抜けて歩き出した。
2分ほどして、彼女は本当に帰ってきた。
列をじっと見て、自分の場所を探しているようだったので、私は手を振って、ここだよ〜と教えてあげた。まるで友達だ。
その後30分くらいは並んだようだが、彼女とスペイン語・英語混じりの話をしながら楽しく過ごすことができた。
彼女はボリビア人で、環境系のエンジニアとして働き、4歳の娘がいるという。美しい、中南米の顔つきであった。
また、このパンの列についても教えてくれた。
店舗を持たない、一人で経営しているパン屋さんであり、ここに来るのは2週に1度とのことだ。
発酵から全て自家製。様々な種類のパンがあり、特におすすめは”queso y champiñón(チーズマッシュルーム)”だそうだ。私が最初に見た、3段目のチーズバケットは、きっとそれだ。
話をしていると、やっと私の番になった。
何の種類がありますか?と訊くと、店主さんは一つ一つのパンを指さし、「これはプレーン、これはくるみとレーズン、これはいちじく、これは全粒粉…」と教えてくれた。毎回これをやってるのか。丁寧なお方だ。だから時間もかかるんだな、と納得した。
チーズマッシュルームバケットを1つだけ試しに買おうと思っていたのだが、気づけば私は4種類も購入していた。
人との関わりはこれだけでは終わらなかった
もはや友達と化したボリビア人女性とさよならすると、すぐに私の2つ前に並んでパンを買ったおじさんが、急に話しかけてきた。
「あの、さっきの話を聞いていたんだが…君は日本人なんだね?」
私は、知らない人に、気軽に何でも話すもんじゃないな、と反省しつつ「はい、そうですが」と答える。
おじさんはニッコリと笑って、欠けた前歯を見せながら言った。
「ラーメンの作り方を教えてほしいんだ。」
なんと。
日本=ラーメン文化、すなわちみんなラーメンが作れると思っているのだろうか。
たしかに、家庭でもラーメンは作れるが、私もメキシコに来てからは作ったことがない。というか、マルちゃん正麺にハムを乗せるとか、メンマを買ってきてのせるとか、家庭で作るラーメンってそういうもんだよね。
メキシコで手に入る食材で、ラーメン…う〜んどう作るんだ?
改めて、ラーメンは外食するものであると気づく。
とりあえず、近くの日本食料品店をマップで見せ、「そこに麺とかスープの素とかあると思う!」と教えてあげた。
すると、おじさんは「こんなに近くにあったんだ!ありがとう!」と言った。
おじさんは「ほんとありがとう!良い一日を!おいしいパンを味わってね!」と欠けた前歯を見せながら満円の笑みで去っていった。
やっぱメキシコって面白いよな。
最近まで日本に一時帰国していたわけだが、こういう人とのつながりができやすいのがメキシコ文化かなぁと思うのである。
日本もすきだけれど、なんだかんだメキシコ生活が楽しかったりする。
行列に並んだだけで、こんなにも面白いことが起きるんだなと感じるエピソードでした。
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