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金融庁の報告書「変革期における金融サービスの向上にむけて」メモ(後編)

前編の続き、金融庁の報告書「変革期における金融サービスの向上にむけて」の要点を恣意的にまとめてメモしている。

後編は 「4. 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保」から。

4. 金融仲介機能の十分な発揮と金融システムの安定の確保

ここでは、実際に金融サービスを提供する金融機関が十分に機能するために必要な要素を4つのプレーヤーに分けて書いてある。

(1) 経営者の役割とガバナンス

【対策】

・課題を適切に対処していくための戦略を策定、実行する。
・独立した客観的な立場から経営陣に対する実効的な規律付けを行う。

(2) 地域金融

策】

・経営陣が、経営理念の実現に向け、的確な現状分析に基づく実現可能性のある経営戦略・計画を策定し、これを着実に実行するための態勢を構築
・将来にわたる健全性が維持されるよう、オン・オフ一体のモニタリングを実施
・金融庁の「地域生産性向上支援チーム」により、地域金融機関の経営陣等や営業現場の責任者等との深度ある対話を通じ、金融仲介機能の発揮を促す。

【議論されているポイント】

・公的金融と民間金融の連携・協力等、望ましい関係のあり方
・競争のあり方

参照:「証券モニタリングに関する基本指針」改正のポイント

(3) 大手銀行グループ 

【課題】

・収益力は低下傾向
・リスク性資産価格の上昇やリスク選好等の高まりが見られ、グローバルに収益追求行動によるリスクが蓄積し、内外経済・市場の急激な変化への対応
・安定的な外貨調達

【対策】

・リスク管理等に関するベストプラクティスの追求に向けた取組みの促し
・デジタライゼーションの進展等、変化に柔軟に対応できる経営・ガバナンス態勢の高度化等の課題について、経営トップや内部管理部門・事業部門責任者等の経営陣や、社外役員を含む取締役等との対話の実施

(4) その他の金融業態 

保険会社
【課題】
・国内保険市場の縮小の可能性や社会環境等の変化に伴う新たな保険ニーズの出現等、経営環境・リスクの変化が加速

【対策】
・変化に機動的に対応するリスク管理態勢及び持続可能なビジネスモデルを構築。

外国金融機関
・内部統制やガバナンスについてモニタリングを実施
・これらの知見を我が国の金融システムの発展にも活用
・G-SIBsについて、危機時の当局及び G-SIBs の対応能力を強化していく。

2018年のG-SIBsについて 
参照:2018 list of global systemically important banks (G-SIBs)

5. 顧客の信頼感・安心感の確保

1. 金融機関の行為・規律に関する課題と取組み

1-① コンプライアンス・リスク管理上の課題と取組み

【課題】

・マクロ要因による経営環境の変化等により、同一の根本原因に起因するコンプライアンス・リスク
・利用者保護や市場の公正・透明等の観点から不適切な行為が行われ、
金融機関の経営の健全性へ影響が出ること。

【対策】

昨年度
・金融機関における経営目線での内部管理態勢の主導や、規模・特性に応じたリスクベースでの管理態勢構築等を通じたコンプライアンス・リスク管理向上の必要性を示した。

本年度
・リスクの程度に応じてメリハリを付けたモニタリング
・金融サービスに参入する動きが見られる非金融系企業グループについて、グループ横断的なリスクに関する実態把握

1-② 内部監査の高度化

【課題】

リスクベースかつフォワードルッキングな観点から、組織活動の有効性等についての客観的・独立的な保証、アドバイス、見識を提供することにより、組織体の価値を高め保全するという内部監査の使命を適切に果たすことが必要であり、以下の取組みを促すことで、内部監査を高度化していくことが求められている。

【対策】

・事後チェック型監査からフォワードルッキング型監査への転換
・準拠性監査から経営監査への転換
・部分監査から全体監査への転換
・内部監査態勢の整備
・三様監査及び当局との連携

2. 仮想通貨(暗号資産)

【課題】

利用者保護

【対策】

昨年度
・資金決済法が改正
仮想通貨(暗号資産)と法定通貨等の交換業者に対し、登録制が導入され、本人確認義務等の導入や説明義務等の一定の利用者保護規定の整備。
・金融庁内にシステムやマネロン・テロ資金供与対策の専門官等で構成される「仮想通貨モニタリングチーム」を設置し仮想通貨交換業者の登録審査・モニタリングや、仮想通貨(暗号資産)にかかる情報の収集・分析等を行うこととした。

本年度
・通貨(暗号資産)の市場等についての情報収集や業者のビジネスモデル・収益構造分析等を踏まえたリスクプロファイリングの精緻化及びその頻繁な更新。
・各担当者の専門性の向上や、庁内の連携強化を図るとともに、必要に応じ第三者によるレビューを実施する等、業務の品質管理を含むモニタリング体制を強化。

6. 世界共通の課題の解決への貢献及び当局間のネットワーク・協力の強化

冒頭にさらっと書いてあったし、当たり前と言われれば当たり前であるが、同時に大事なことだなと思った。

経済・金融システムの持続可能性を確保するためには、国内外の様々な社会的課題の解決を通じて金融・資本市場がリターンを確保し、企業が中長期的な価値を向上させることが重要である。

これを達成するための世界共通の課題として、金融庁が取り組んでいるものが大きく分けると下の2点。

1. 世界共通の課題の解決への貢献
    1-② 持続可能な開発目標(SDGs)の推進
    1-③ マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対応
2. 国際的な当局間のネットワーク・協力の強化

1. 世界共通の課題の解決への貢献
1-① 金融規制改革を含む国際的な議論への貢献

1-② 持続可能な開発目標(SDGs)の推進

持続可能な開発目標にSDGsに対する金融庁の立場は、
前提として

SDGs は、本来的には企業・投資家・金融機関といった各経済主体が自主的に取り組むべき

しかし

何らかの要因でそうした動きが妨げられて外部不経済が発生している場合には、経済全体としての最適な均衡の実現に向け、当局として対応を促すことも必要である

※下の図は個人的にはわかりにくいと思ったのですが、頑張って読み取ろうとすると割と内容は入ってくるので貼っておきました。
特に左は今までの議論がまとまっている図です。(右は見えませんでした)

1-③ マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対応

前提として、2019年秋にFATFによる対日調査(第4回目)が行われる。
前回の調査対象が法規制であったのに対し、今回の調査は金融機関など現場が対象。その上で各金融機関への対応を働きかけている。

※FATFの対日調査の経緯とそれに対する金融庁の取組みについてはEY社のページがとてもわかりやすかったのでもしよければ見てみてください。
参照: FATF第4次対日相互審査に向けた金融庁のAML/CFTガイドラインに基づく態勢整備・高度化

【課題】

・マネロン・テロ資金供与対策に関する国際的な目線は高まり
・諸外国においては、対策の不備を契機に当局が多額の制裁金を課す事例有

【対策】

・マネロン・テロ資金供与対策の基本的な考え方のガイドラインを公表
・ガイドラインと金融機関における現実のギャップ分析
・ギャップ分析に基づく行動計画の策定・実施

海外 G-SIFIs と比較すると継続的な顧客管理や、海外送金の受託先を含むコルレス先管理、貿易金融等に課題。

2. 国際的な当局間のネットワーク・協力の強化 

対欧米、対中国、対アジア新興国における関係性が述べられている。
ここでは大きな進展があった中国金融当局との内容について書く。


1. 邦銀による初のパンダ債発行が実現
2 日中首脳会談(5月)
  2-①我が国への約3.4兆円のRQFII(人民元適格外国機関投資家)枠の付与
  2-②本邦金融機関への債券業務ライセンスの早期付与
  2-③日系証券会社等による中国市場参入の早期実現等を合意
3. 中国金融当局との間で銀行監督者会合を開始するとともに、市場監視やマクロプルーデンス分野における協力関係を強化

ちなみに、RQFIIの枠を世界で一番保有しているのは約960億円で、三菱UFJ銀行らしい。三井住友銀行も480億円分を保有。

参照: 
三菱UFJ銀、中国で証券投資枠 世界の銀行で最大
三井住友銀行、元建て投資枠取得 480億円

おわりに

今回は比較的まじめに内容を読み、気になった内容や理解が追いつかない内容に関しては少しだけ追加の調べ物をした。
結果として全体感をざっくりと、ほんの少しだけ掴むことができた気がする。

実際に自分が事業者( or 当事者)として意思決定を迫られているわけではないけれど、世の中の大きな流れを把握したいという趣味の一貫としては良い時間だった。

一度大きな流れを抑えれると、今後の各事業者のリリースや行政の動きに対してもストーリーを結びつけて読み取れると思っているので、connecting the dotsするのが楽しみ。

とはいえ浅い理解であることは間違い無いので今後も追い続けたい。

あと、全然関係ないけど、無性にカレー食べたい。


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