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課題の7割は「どの会社も同じ」。本当の“経営×人事”を考えよう

企業における“人事”の重要性が、さまざまな場所で語られるようになってきました。大企業から中小企業まで、「経営の戦略を落とし込んだ“人事戦略”が必要では?」という意識も今少しずつ広がりを見せ始めています。

ただ、実際にどう人事戦略を立てればいいのか、戸惑う人も少なくありません。そもそも、経営や事業の計画に紐づいた戦略策定を担うのは誰なのでしょう。人事担当? それとも経営者……?

「急に自分に言われても……そもそも経営の方針を聞かされてないので」(人事の方)
「もっと主体的に戦略を立ててほしんだけど、動いてくれなくて」(経営の方)

そんなリアルな声が、『しがと、じんじ。』にも聞こえてきています。

そこで今回、『しがと、じんじ。』を運営する株式会社いろあわせの代表取締役・北川雄士が、株式会社レアジョブの人事戦略本部長・秋岡和寿さんと「経営と人事」をテーマに対談しました。

レアジョブは、オンライン英会話サービスを中心に人にまつわるデータを活用し、グローバルに活躍する人々を生み出すグループ企業です。上場企業でもある同社のなかで、グループ全体の人事に責任を負う秋岡さんにお話を聞きながら、人事の役割について改めて考えてみたいと思います。

人事戦略を描くのは「誰」の仕事か

北川:いろあわせでは、採用や研修など、特にローカルの中小企業さんに向けた人事支援の事業をしてきました。そのなかで今、企業経営における「人」の重要性がすごく高まってきていると感じます。

これは以前コラムに書いたことでもあるんですが、時代が大きく変化するなかで、企業はそもそもの「社員(個人)と会社」の関係から考え直さないと、生き残ることすら難しくなっているからです。なので、最近は〈経営の中心に人事を〉といったメッセージを発信しながら、経営側に人事の重要性を訴えるようにしています。

北川:ただ一方で、僕は〈人事が変われば会社は変わる〉とも思っていて。現場に立つ人事の方の傍で、いろいろなお手伝いもしてきました。このあたりの「経営と人事」の関係について、実際に人事責任者として活動する秋岡さんはどう捉えていますか?

秋岡:北川さんの指摘は、どれもおっしゃる通りだと思います。その上で、僕は今の話に出た“人事”という言葉を、もう少し整理してみたいなと感じました。

というのも、こういう議論でみなさんが“人事”として語るものには、実は2種類の意味があるんですね。1つは“人事機能”で、もう1つが“人事部門”。まずはこれをきちんと分けることが重要だと、僕は思っています。

秋岡和寿さん。株式会社グロービスにて法人営業、人材育成・組織開発コンサルティングに従事後、2014年よりピクスタ株式会社にて組織開発室長、経営企画部長、戦略人事部長を経て執行役員就任。2021年6月に株式会社レアジョブへ入社し、人事戦略本部長を務める

秋岡:“人事機能”は、経営において最も重要な要素です。これは多くの経営者が、すでに認識として持っています。事業を成長させていくときに、ここに手を加えないという発想にはまずならないでしょう。

しかし、実際に手を加えるときには、「“人事機能”のコントロールを誰が主導してやるべきか?」という話にもなります。経営者か、それとも“人事部門”か。

経営の仕事は本来、人とモノとお金のすべてを駆使して事業をつくっていくことにあります。なので、「人に関することを主導するのは、“人事部門”の仕事だ」というのが僕の考えです。

北川:なるほど。そうすると、問いを「経営計画をふまえた人事戦略をつくるのは誰?」と今日のテーマに置き換えても、答えはやはり「“人事部門”が担うべき」という話になるかなと思います。この認識で合ってますか?

秋岡:はい、“人事部門”の認識です。でも今そこにいる方たちは、日常的にやらないといけない仕事もたくさん抱えていて、つい「経営のことは知らないから」「これまでこうやってきたから」などと言ってしまいがちな気がしますね。

これは自分も含めてですが、あるべき“人事部門”の姿になりきれてない。その現実がまだあちこちにあるのが、今の状況かなと捉えています。

課題の7割は「どの会社でも向き合うべき」こと

北川:地方の中小企業だと、人事部門の責任者が総務や経理など他にもいろいろな仕事を兼任している場合も少なくない。今の指摘のように「そこまで考える余裕がない」といった話には、実際よくなるんです。

まずはそういう方々のポジションや役割を明確にするなど、社内の環境を整えてほしいなとは感じています。経営者が「いい人を採りたい」「リーダーを育てたい」など、組織の人事機能を本気で強くしたいと考えるのであればなおさらですね。

北川雄士。広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。2015年末に滋賀にUターンし、株式会社いろあわせを設立。代表取締役を務める

秋岡:経営者がそうしたマインドになることは大切ですよね。人事部門に自社の経営戦略や、ミッション、ビジョン、バリューなどをきちんと共有していくことも欠かせません。

でも一方で、北川さんも話していたように、仮に経営がどうあろうと人事部門ができることって僕もあると思うんですね。もっと言えば人事戦略を立てるときに向き合う「課題」が、経営の方針によって「変わる部分」と、「変わらない部分」の2つに分けられると思っていて。

北川:おもしろい。もう少し詳しくお願いできますか?

秋岡:経営の方針によって「変わる部分」というのは、要するにやりたいことを実現していくための課題です。何を目指してどういう事業を営むかによって、会社ごとに「固有性」がある。ですから、経営者の考えを知っておかなくては、問いを整理することも、そこから戦略を立てることもできません。

対して「変わらない部分」とは、組織として存在している以上必ず直面する課題です。例えば一人ひとりがちゃんと充実して働ける環境づくりや、キャリアアップの仕組み化、次のリーダーが育つようにして組織を安定させることなど。これらはどの会社にも求められる、「普遍的」な課題と言えます。

この「固有性」ある課題と「普遍的」な課題の割合は、僕の肌感では3:7ぐらいなんですよ。そして北川さんも言うように、個人と会社のパワーバランスが変わってきた今、普遍的な課題に向き合う意義がかつてないほど高まっていると思っています。人手不足が進む一方で、働き手の価値観も、個人が使える情報テクノロジーも大きく変わってきていますから。

北川:めちゃくちゃ納得です。組織がよくなるために、あるいは社員がより豊かになるためにできることは業種や会社のステージに関係なく絶対あって、その重要性が増している。

というか、そもそも固有の課題を整理して人事戦略にまでちゃんと落とし込めている会社って、今の世の中を見渡してもかなり少ない気がします。正直すごく大変だし、時間もかかるし……。

秋岡:そう、実はとんでもなく難しい。まず経営環境そのものの変化が激しくて、一度描いた事業プランが明日には変わることだって十分あり得るんです。人事部門としては、そのなかで突然現れる課題に対し、いかに素早く対応できるかが問われます。

なので、何かカチッと決まった経営計画から落とし込んでいこうと思っているなら、その時点でちょっと違うんじゃないかと。むしろ動きながら粒度と確度をあげていく「不確定で曖昧なもの」として、固有の課題への向き合い方も捉えたほうがいいな、と思ってますね。

一つひとつの“当たり前”に向き合う時間を

北川:企業が「選ぶ側」から「選ばれる側」になってきた今、どの企業も同じように抱える課題にまずきちんと取り組めているかどうかが、実際そのまま人事機能の強さ/弱さにも表れているなと思いました。

例えば、「うちの仕事では定時退社なんて絶対無理だから」と最初から決めつけていないか。やろうと思えばリモートワークもできるのに、現場やお客さんとの調整が面倒で「まあいいか」となっていないか。給与制度や評価制度を管理することにエネルギーを注ぎすぎて、目の前の社員の想いを無視していないか……。そういうことを一つひとつ見直していくしかないんですよね。

秋岡:その通りで、人がちゃんと集まる企業は、今言ったようなことにちゃんと愚直に向き合っているだけなんです。正直、特別なことは何もないと思いますよ。会社の規模も、都会か地方かも関係ない。

北川:今度、滋賀県の事業として経営者・人事責任者向けに『しが採用ゼミ』(全4回、運営担当いろあわせ)を開催するんです。本当は人事戦略全体を扱いたかったけど、広すぎるのでまずは「採用」をテーマに。秋岡さんにも講師として登場してもらおうと思っていて、このゼミの内容がまさに今日のような話になる気がしています。

(※ 現在、7/22開催のプレセミナー参加者を募集中)

秋岡:なるほど。大まかには聞いてましたけど、これは実際どういう講座になりそうですか?

北川:まずは「採用戦略」のフロー(下図)を説明しながら、秋岡さんを含む3人の講師に順に登壇してもらって、そもそもの経営における人事戦略の意義や、今組織に求められている変化、具体的に採用でやるべきことなどを整理していきます。

並行して毎回、宿題として自社の経営上の課題とか、人事部門における課題を挙げてきてもらいます。最終回には、「うちは採用でこういうことに取り組んで、こんな変化を生みます」とプレゼンしてもらう予定です。これがおそらく、さっきの「どの会社にも通じる課題」に向き合ってもらう時間に、実はなっていくんじゃないかと。

秋岡:いいですね。ただ課題を理解するだけじゃなく、それを生む原因がどこにあるのか、自分たちのほうにしっかり矢印が向くことが大事だと思います。

僕は以前グロービスにいて、事業会社さんの支援をしていた経験があります。そこで気づいたのが、課題を突き詰めていくと結局、経営者に「本気で向き合う覚悟」があるかどうかの問題になること。そこがないと「いい人を採りたいけど、高い給料を払いたくない」なんて本音が出て、施策にも表れてしまうわけです。

よく「わかってるんですけど……」とおっしゃる方もいますが、そんな言葉には全く意味がありません。わかった上で今何をやっているか、何をやっていくかをきちんと考える時間になればいいなと思います。

各論に落とし込みながら「マインドセット」を変える

秋岡:ただそれでも僕は、企業の人事機能を左右する本質は、やっぱり人事部門のあり方、担う人たちの「マインドセット」にあるんじゃないかと思っています。まあ自分を半分棚に挙げて、あえて言うんですが……。

北川:それって、どんなマインドセットだといいでしょう?

秋岡:「不確実な状況のなかでも、手探りで組織をつくっていくのが人事部門だ」という認識でしょうか。経営者が本当に求めてることって、僕はそこだと思うんですね。

ところが、年功序列の強かったような企業だと、経営者から言われたことをそのまま、今までやってきたように実行するのが重視されます。その仕事のボリュームが大きくて大変で……という言い訳も通りやすい。

その現実があることはもちろん理解できるけれど、いつまでも「今までこうだったから」「そんなことをしたら組織が壊れる」などと言って、できない理由を自分たちでつくっていないかは注意が必要です。

北川:わかります。会社の方針、社風、上司の問題、外部環境……できない理由がいっぱいあるのはその通りだと。でも、何もしないとどんどんマズいことになるのも明らかな状況では、「なぜこの課題が放置されているのか?」と理由を紐解いて、どうやったらできるかを考えていくしかないんですよね。

秋岡:『しが採用ゼミ』のようなものを進めるときには、今日のような前提の話から、もう少し各論に落とし込んでいけると、変化を生み出しやすいかなと感じました。採用なら採用で、細かな事例に沿って動いてみながら、冒頭のような「そもそも“人事”って? “人事戦略”って?」という話に立ち返れるといいですね。

北川:例えば先ほどの採用戦略のフローは、いろあわせとしては8段階に細かく分けているんです(上図)。

ただ『しが採用ゼミ』でここを深く掘り下げる時間は取れないし、現場の採用担当の方にも来てもらわないと難しいとは思っているので、ここの各論については、『しがと、じんじ。』のコラムで順次紹介していければと考えています。現場に立つみなさんに読んでもらえるとうれしいですし、もちろんゼミに来られる経営者の方にも大きな参考になると思います。

秋岡:楽しみにしてます。ゼミ、よろしくお願いしますね。

北川:こちらこそよろしくお願いします。今日は貴重なお話ありがとうございました。


(対談構成/佐々木将史、アイキャッチ/武田まりん


※ 『しが採用ゼミ』連動企画として、新連載『「採用」を成功に導く8つのステップ』(仮)を9月からスタートする予定です

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