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採用ステップ⑧入社後の育成──「振り返り」と「フィードバック」で内省を支援する

地方に拠点を置く企業が、今「採用」にどう取り組むべきか。戦略づくりからエンゲージメントの高め方まで、過去7回に分けて解説してきた連載『採用を成功に導く8ステップ』も、いよいよ最終回です。
前回の「内定から入社まで」の関わりを踏まえて、今回は「入社後」の人材育成がテーマ。実際に人が活躍していくまでを、切れ目なく人事が支えることが、次の「採用」でのよりよい出会いにつながっていきます。

離反を避けながら、魅力を生み出していく

『採用を成功に導く8ステップ』の最後が「人材育成」であることには、大きく二つの意味があります。

一つは、「人にきちんと向き合い続ける」ことが、求職者(入社後は社員)のエンゲージメントの向上に直結するからです。前回にも通じる話ですが、エンゲージメントが低いとせっかくたくさんの人が入社しても定着せず、多大な労力をかけてまた採用をし直す必要が出てきます。第7回が「内定者の辞退防止」だとすれば、今回は「社員の離反防止」の意味を持つと言えます。

もう一つは、今後出会う新たな求職者への魅力づくりです。的確なコンセプトを打ち出し、思いを伝えること(ステップ③)も重要ですが、一方で「実際に成長した人」「活躍している人」の存在を示せることは、それ自体が強い魅力となって求職者の目に映ります

どれだけ口で「人を大事にしてるよ」「成長できる環境があるから」と伝えても、今の情報社会では、内実が伴っていないとすぐに求職者にバレてしまう。そのことを念頭に置いて、ただ採用して終わりではなく、入社後も丁寧な育成支援をし続ける必要があるのです。

研修は「メッセージ」を伝えるための手段

人材育成として、人事が直接できることの一つが研修です。新入社員研修から階層別研修までさまざまありますが、ポイントは、組織として定めた「人材戦略」(ステップ①)にきちんと立ち返ること。組織のミッション(使命)やビジョン(目指す姿)、「どんな行動をとってほしいか」を示すバリュー(行動指針)とあわせて、研修内容に「あなたにはこうなってほしい」というメッセージを明確に込めることです。

いろんな会社を見ていると、「研修をやること」が先に決まっていて、後から内容を何となく考えた取り組みや、過去を踏襲して形骸化している事例も少なくありません。“やった感”を出すだけで終わるような研修で、先に述べたような人材育成の目的を果たすことは難しいでしょう。

いろあわせでは、例えば新人研修を依頼されたとき、よく「個人の強みや弱みを改めて洗い出してみる」「半年後の目標を設定する」という研修を行います。新入社員対象だと多いのは、社会人マナーや名刺の渡し方などを「その場で」教え込もうとする研修ですが、本当に大事なのは、そこでの学びが「明日からの変化」のきっかけとなることです。入社すぐの最初の貴重な時間にこそ、自分ごととして「働くことそのものと向き合う」貴重な体験をつくれたらと考えました。

実際の変化を確認するには、その後をきちんとフォローしていくことも有効です。定めた目標内容、日々の動き方などに対して周囲が都度「フィードバック」をする仕組みをつくる。あるいは、半年後に改めて人事として研修を行い、本人に「振り返り」をしてもらう。方法はいくつもありますが、新人研修に限らずどの研修でも、変化を確認するためのサイクルがきちんと回る設計をしておくことが、人材育成を担う人事のとても重要な仕事だと僕は考えています。

自ら成長することを支える

本連載は、2022年秋に開催した『しが採用ゼミ』を補完する内容としてスタートしました。このゼミは人事責任者と経営層を対象とした内容でしたが、そこでも「インプット」「アウトプット」「シェア」「フィードバック」のサイクルを重視するなかで、一人ひとりの参加者に能動的な変化が生まれています。あらゆる人材育成の基本は「内省支援」であることを、改めて感じる機会となりました。

知識や経験というのは、成長の“栄養分”になります。でも、その“栄養分”をもらって成長するのは結局のところ本人。だからこそ、「自ら成長できる」支えや環境をどれだけつくれるかが、社員にとって、求職者にとっての魅力の差となっていくと考えています。

世の中には、「採用」と「人材育成」を分けて考える企業は少なくありません。同じ人事部門の中でも担当が違ったり、規模の大きな組織ではそもそも部署すら異なったりすることもあるでしょう。
しかしこれまで見てきたように、採用におけるあらゆる計画や施策は、「人にどうなってほしいか」の人材戦略の上にこそ成り立ちます。経営の目指すところと、人材戦略が目指すところが揃っていれば、自ずと採用でやるべきことも見えてくる。その一連のつながりの中で、本当の意味での「採用力」が生まれることを、人事のみなさんは意識していただければと思います。

北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook

(編集:佐々木将史
 

【『しが採用ゼミ』2023年度プレセミナー開催!】

昨年好評いただいた、会社を本気で変えるための経営層向け採用勉強会『しが採用ゼミ』を2023年度も開催。今年は8月から11月にかけての、全4回を予定しています。
先立って、6/28(水)にプレセミナーを実施します。株式会社Pallet代表取締役・羽山暁子さんを講師に迎え、「人事を経営の中心に据えることで、採用成功に導く」をテーマにお話しいただきます。

・日時:2023年6月28日(水)15:30〜17:30
・開催場所:オンライン(オンライン会議ツール「Zoom」)
・対象:滋賀県内に企業や事業所がある経営者、人事採用担当者
・参加費:無料
・申込み:https://shigajobpark.jp/2023/05/15/5017/


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