見出し画像

採用ステップ⑦内定後の育成──「コミュニティづくり」「研修」で辞退を防ぐ

求職者との対面〜内定までの「選考プロセス」を解説した、前回の採用を成功に導く8ステップ。しかし、採用は内定を出せば終わりではありません。残る2回『エンゲージメントフェーズ』では、求職者の内定後・入社後に人事が意識したいことを解説していきます。

まずは、内定者へのケアについて。適切な情報を渡しつつ、成長への道筋を感じてもらうことで、入社前の「内定辞退」防止につなげていきます。

「内定辞退」のリアル

採用担当者の仕事の中で、求職者に内定を出すことは一つの大きなゴールになります。ただ、本来の目的である「自社で活躍してもらうこと」を考えたとき、それはまだまだ道半ばに過ぎません。

実際、内定者にそのまま入社してもらえる割合は決して高くなく、大学生・大学院生のうち、約60%が内定(または内々定)を1社以上辞退している、というデータもあります(リクルート・就職みらい研究所「就職プロセス調査」)。想定以上の辞退を受け、慌てた経験のある方もいることでしょう。

では、複数の内定を得た求職者は、なぜ自社を辞退してしまったのか。仕事の魅力、給与、雇用条件の比較……さまざまな観点がありますが、背景にある心情を考えたとき、一つポイントとなるのが「不安」ではないかと思います。

他社がより良く見えた……ということもあるでしょうが、言い換えれば、比較して良く見えない要因が自社のどこかにあるわけです。自らの未来を想像したとき、「そこに居続けること」に対して何かしらの不安要素があるからこそ、最後に求職者の選択肢から外されてしまうのでしょう。

そう考えると、人事担当としては選考を進めるプロセスの中で、内定後の求職者にどんな不安が生じそうかを把握しておく必要があります。そして内定を出した瞬間から、目の前の相手の不安を取り除き、自社へのエンゲージメントを高めていくような先手を打っていくことが求められます。

入社につながる「情報」「関係性」「育成」

では、具体的にどのような方向で施策を考えていけばいいでしょうか。

一つ目のキーワードは、「情報」です。会社情報そのものは、すでに何度も説明しているかもしれませんが、内定者となれば、“一緒に働く仲間”としてこれまでとは違った角度から、改めて組織の内情に触れられる機会をつくることもできるでしょう。

例えば、オフィスの中や社内報を公開したり、社員総会に参加してもらったり。タイミングがあえば、株主総会や会社のイベントに来てもらうのも有効です。「内定者アルバイト」のような枠で、より踏み込んだ形で組織のリアルな情報に触れてもらうことで、不安を取り除くことができます。

二つ目のキーワードは「関係性」です。ここには「社員との関係」と、「内定者同士の関係」の二つが含まれます。入社2〜3年目の、境遇の近い先輩と気軽にしゃべったり、簡単なワークショップをしたりする機会があれば、入社後の自分の未来も想像しやすくなるでしょう。一方で、内定者同士も早めに顔を合わせる場をつくることで、横の結びつきが自然と強くなることも期待できます。どちらも、未来への不安を取り除く大切な要素となります。

三つ目のキーワードは「育成」です。この会社に入ることで、どんな成長が得られるのかを早めに体感できるようにします。例えば、何かプレゼンテーションをする機会を設けて、その提案に対してフィードバックをきちんと返す。「実際にこういうことをやっていくのか」「こんな感じで評価してもらえるのか」といった手応えを受け取ることは、未知の組織の一員として動く不安を大きく下げてくれるはずです。

他に、業界の基礎的な知識をレクチャーしたり、課題図書を出したりする方法もあります。内定者のモチベーション向上だけでなく、仕事への興味・関心を早くから高めることで、より入社以降の成長につなげやすくなるでしょう。

おすすめは内定者研修

以上の三つのキーワードを全て含むプログラムとして、僕がオススメしているのが、早い段階での「内定者研修」の実施です。

例えば新卒採用であれば、10月1日の内定式の後に3日間ほどもらい、半分は学び(「情報」「育成」)、もう半分は交流(先輩および内定者同士の「関係性」)の時間をつくります。さらに簡単な課題を出すなどしながら、12〜1月ごろにもう一度開催できると、よりエンゲージメントを高めやすくなるでしょう。

もちろんそうした研修会は、会社にとってだけでなく、内定者にとっても一定の負担になります。しかし基本的には、「なぜ」「何を」するのかを説明すれば、きちんと理解してもらえると感じています。

「先輩や同期のことを実際に知っていたほうが、入社に向けて気持ちの準備もしやすいし、どんなことを学べばいいかがわかっていれば、残りの学生生活もより充実できると思う。あなたにこういうメリットがあると考えているので、これだけの時間をつくってほしい」。こんなふうに説明すると、むしろ「ぜひよろしくお願いします」と言ってもらえるようになります。

実はこれらの活動は全て、内定を出した瞬間から始まる、入社以降のための人材育成です。それがエンゲージメント向上に結びつき、結果として「内定防止」につながります。多大な労力を要する採用プロセスの中で、ようやく出会えた人に対し、いかに仲間としての関係を深めて成長を感じてもらうか。人事は内定を出した瞬間からすぐに、そこへと頭を切り替えていきましょう。

(「採用ステップ⑧入社後の育成」に続く)

北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook

(編集:佐々木将史
 

【『しが採用ゼミ』について】

少人数で議論を深める「ゼミ」と、設定した目標の実現に向けた「ホームワーク」を交互に実施することで、各社の採用・経営課題の解決を目指すプログラムです。

〈Webサイト〉https://shigajobpark.jp/2022/08/01/3272/
〈主催〉滋賀県
〈運営〉しがジョブパーク(受託企業:株式会社いろあわせ)
〈協力〉一般社団法人滋賀経済産業協会


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?