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僕は、お連れさんの顔を覚えない(つもり)

緊急事態宣言が解除となり、1日から時間期間限定で酒を出せるようになった。認証店には21時(酒類提供20時半)までとなるが、個人的には千葉県のケースのように、個別に認定(無論チェック項目は兵庫県の10ではなく5〜60超え)して営業時間や酒類提供許可すべきだと思う。従業員数、食材、広さや家賃や納税額も違うのに、一斉に同じ条件であるのは疑問が残る。

ちょうど2ヶ月間、酒しかない店ゆえに休業を余儀なくされたから、少しずつ所謂ルーティーンが戻りつつある。同じことを繰り返す日々にその仕事が自分に合っている(気持ちよく働けている)かどうかの判断は、休業中に幾度もあった胃痛で判った。この店に立つことが平静を保つ術だった。

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ウチは食材を抱えてないからその分、相当助かっているが、それでも2ヶ月休業すると賞味期限が過ぎるものがあったりする。

最近結婚してしまった(あえてそう言う)20年以上知ってる男が一人でやってきた。30歳40歳の誕生日も一人で来るようなヤツ、珍しいことではない。ちょうど連絡しようと思ってたところだった。彼が好きな「牛せん」(大阪法善寺あられ)大袋の賞味期限が迫ってた。結婚祝いやと、これも彼が好きなペルーシュ珈琲シュガーを入れて手渡す。このまま食べる変人だ。

カウンターには彼の知人も数人いて、こんなことを言い出した。

「僕が女性を連れてここに来た時、志賀さんは必ず『○○が女性と来るなんて珍しいな、初めてやなぁ』と言ってくれたんですよ」

…それはちょっとニュアンスが違う。僕は基本的に嘘は言わない。一人でいつも来ることに対する僕の返答に出た言葉だ。だから「初めて」なんて言わないし、彼がその印象を美化(都合よく解釈)してくれているのだろう。

おそらく「女性と来るのは珍しい」というのは本当で(これが毎週違う相手と来ていれば言い方も変わってくるが)例えば彼女ができたとか、狙ってるとか、これから口説こうと思ってるとか、そういうのは僕にはどうでもいい情報だ。目の前の二人がカウンター越しの僕に積極的に話してこなければそっとしておくし、少なくとも心がけることといえば、初見の相手には自分から突然話さないこと。目の前の女性が綺麗だったりするとずっとそこから離れない店主がいるが、まずオーセンティックにカテゴライズされなくなる。

昔、ホテル時代の先輩バーテンダーから「お連れの女性の顔を覚えるな」と言われたことがある。物理的には難しい話で、実はちゃんと覚えようとはするが無論じろじろ見てはいけないし、中途半端に覚えたところで「あれ?髪切った?」なんて思おうものなら(口に出したら最悪で)「ワタシこの店初めてなんですけど…」などとトラブルの元になるだけだ。

だから、覚えない努力をしながら忘れていない。起こりうる矛盾を受け入れたりかわしたり、最終的には店を出る人の背中を押すこと。接客業は、我が強いだけでは成立しない。そういう作業が煩わしくないなら向いている。


「○○が女性(男性)と来るなんて珍しいなぁ」

もし僕がそういう言葉を発していたらそれは本当で、二人の行く末など、「神のみぞ知る」というスタンスを取る方がいい。

そう言えば昔、初めて来た男性が「ええ店やなぁ、まさに神のみぞ知るやなぁ」と言っていたのを思い出した。知る人ぞ知るだ。

これを訂正しないのもバーマンの資質だと言えよう。

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