起業から1年をふり返る。下北沢で共同生活をおくる、web3スタートアップ経営者の日常(shiftbase 志村侑紀)
筆者について
志村 侑紀(しむら ゆうき)
1991年生まれ。16歳で渡米。Santa Monica Collegeに進学し、1年後にUCLAに編入。大学卒業後、Harvard Universityで社会心理学と神経科学の学際的研究に従事。その後、PhDを取得するために渡英し、University College Londonに所属。2020年9月に博士課程を中退。株式会社Empathに入社し、UI/UX Directionに従事。2021年10月に同社を退職し、2022年2月にshiftbaseを創業。愛称は「ゆうき」または「しむー」。
はじめに
shiftbaseの創業とweb3エンジニアコミュニティ「UNCHAIN」のローンチから、瞬く間に1年が過ぎた。2期目を迎えたこの機会に、これまでを振り返りながら今後わたしたちがどこに向かっていくのかについて、記録しておきたいと思った。このnoteでは、わたしが創業から今日までスタートアップと向き合った中で学んだことや感じたことを事実をもとに詳しく書いていく。
この記事のコンセプトは「リアル」だ。正直、創業期のスタートアップにおいての成功体験は結果論にすぎないことが多い。だからこそ、できるだけ飾らず、等身大のshiftbaseについて綴りたいと思っている。ちなみに、少し話を盛ったshiftbaseの日常についてはこちらの記事を参照していただけると嬉しい。
この記事が、これからweb3領域で新しいことに挑戦する人、スタートアップへの転職や起業を考えているビジネスパーソン、進路を考えている学生、何かに悩んでいる人にとって役に立つ一つの真実になることを願っている。そして何より、今日までshiftbaseに関わってくれた全ての人たちに心からの感謝を伝えたい。
先に断っておくと、わたしはこの記事の中で映画「マッドマックス」と中国の古典「西遊記」について雑にネタバレしている。どちらもオチがわかっていても楽しめる作品なので、あまり深く考えずに読み進めてほしい。
起業を志す
わたしは、目の前で困っているひとがいたら、考えるよりも体が先に動いて、後先考えずに手を伸ばすような人間だ。正義感が強いとか優しい性格とも言えるが、頼まれてもいないのにやってくるお節介な人間と言った方が正確な気がする。そんなわたしは、例のごとく、頼まれてもいないのに社会に何か貢献したいと思い立ち、31歳で起業するのだが、その2年前までは研究者だった。
ひとりでも多くの人間に幸せになってほしいと思いながら、同時に社会の中で生きづらさを感じていたわたしは、「人間が幸福に生きるための意思決定」というテーマに取り組みながら、研究室に籠って20代を過ごしていた。正直なところ、研究に夢中だったとも、ほとんど人と関わらずに働ける研究職に必死にしがみついていたとも、どっちとも言える。
遡ること、2020年の3月。コロナの影響で当時住んでいたロンドンを離れ、地元の東京に戻ったことをきっかけに、それまで薄々考えていた「自分の研究、社会に実装されるまで足長すぎるんじゃないか問題」について、わたしは腰を据えて向き合うようになった。
日本に帰国してから数ヶ月が経ったある日、わたしは勇気を出して「自分でビジネスを始めてみたい」と起業家の友人に打ち明けた。社会で働いた経験がほとんどないわたしが、起業を考えているなんて言ったら呆れられてしまうのではないかと内心ハラハラしていた。そんなわたしの話を真剣に聞いてくれた彼女は、わたしを真っ直ぐに見てこう言った。
「博士取るまであと2年だよ。ビジネスは難しい。勉強することがたくさんある。だから、その2年を研究に費やすのはもったいない。ゆうきのカスタマーが今困っているのだとしたら、なぜ今助けないの?」
「雷に打たれる」という言葉は、こういう瞬間を表すのだと思う。大学時代からビジネスに情熱を持ち、圧倒的な努力と行動力で自分の事業を形にしてきた彼女の言葉に、わたしの心臓は打たれた。彼女と話した翌日、わたしは指導教官に正直な自分の気持ちを伝え、1ヶ月後には博士課程を辞めていた。
勢いで無職になる
身一つになったのは良いが、起業をするにも、わたしは「まだ解決されていない課題をビジネスで解決したい」という漠然とした目標しか持っていなかった。加えて、社会経験もなく、一緒に起業する仲間もおらず、貯金もなく、次に何をするかも決まっていなかった。
そんな中、株式会社Empathの代表取締役である山崎はずむさんと再会し、彼の会社で働くことになった。以前、彼とはロンドンで話したことがあった。西洋哲学と東洋哲学の対比、神経科学とAIの接合点、自由意志と神など、そうとう夢中で議論したことを覚えている。再会したとき、正直自分に何ができるか全くわからなかったが、彼が抱える組織や事業課題を解決したいという情熱だけはあった。
そして、Empathの扉を叩いたその日から、わたしの1年間のスタートアップ武者修行が始まった。
スタートアップに参加する
Empathでは、UIUXのリサーチやディレクション、データ解析、クライアントワーク、採用活動、経営戦略や組織編成のサポートなど、多岐に渡る仕事に携わらせてもらった。わたしはとんでもない未熟者で、迷路の中を走るハムスターのように、一生懸命なのだが、どうも非効率でぎこちない動きをする社員だったと思う。
それでも、組織内で拾えるボールは、バレーボールのリベロのごとく拾うと決めていた。「まだボールあがってるから!」とでも言わんばかりに、昼夜働いていたが、会社のカルチャーをホワイトにしたい経営者からしたら、たまったもんじゃないだろう。Empathの創業者である下地貴明さんと山崎はずむさんには、一生頭が上がらない。彼らの心が地平線のように広かったから、自分の限界を決めずに走ることができた。この場を借りて、感謝の気持ちを伝えたい。
創業1年目のweb3スタートアップの記録
仲間を集め、起業する
その後、1年後に起業すると決めていたわたしは、2021年10月にEmpathを退職し、共同創業者3名を集め、2022年2月に株式会社shiftbaseを創業した。
NAKANO
はじめに声をかけたのは、前職の先輩だった中野(31)だ。彼は上流の戦略策定から、データの打ち込みのような根気のいる仕事まで、いつも笑顔で文句一つ言わずにこなす思いやりに溢れた男だった。
一緒に仕事をしている中で、彼はワイルドな見た目とは裏腹に、実は繊細な心を持ち、日々仲間のために勇気を出して行動していることが分かった。特に、彼の美しいところは、人間関係において筋を通すことを大切にするところだった。
彼ほど働きやすい人とは出会ったことがなかった。一緒に起業するなら中野しかいないと思った。
「ゆうきさんほど社会に怒っているひとはいない。だから、一緒にやりたいと思う。」
彼はそう言ってくれたが、その頃のわたしは「この社会の構図はおかしい」と叫んでは、ペットボトルを床に叩きつけて、地団駄を踏むような人間だった。これが俗に言う「尖っていた頃の思い出」なことが本当に恥ずかしい。
中野と一緒に、前職の上司に頭を下げて、一緒に起業したい旨を伝えたら、彼らは快く送り出してくれた。2回目になるが、Empathの創業者である下地貴明さんと山崎はずむさんには、一生頭が上がらない。
TAKASE
つぎに声をかけたのは、42Tokyo(フォーティーツー)というエンジニア養成学校の入学試験「Piscine(ピシン)」で出会った高瀬(27)だった。彼は、着実に努力を重ねて実力を伸ばすだけでなく、どんな環境でも自分の強みを活かして仲間を支える気概のある男だった。実際に、チームで提出した課題で不合格をもらったときは、採点者と1時間以上議論して、合格にひっくり返していた。
「俺のプログラミングスキルだと、チームに貢献できることは少ない。俺は自分のできることで、チームに最大限の価値を出す。」
そう言って、徹夜で課題を解く高瀬は、本当にかっこよかった。パソコンの画面越しに映っていた彼の部屋が日本家屋だったので、もはや武士に見えた。
ピシンの最終試験で、偶然同じグループになったわたしと高瀬は絶望した。わたしたちのスキルだけでは試験の合格はほぼ不可能だった。でもとにかくこの試験を突破したい、何なら1ヶ月一緒に頑張った参加者全員で合格したいと思ったわたしたちは「エンジニアがひとりでも増えたら国力が上がる。国力をあげよう」と言って、参加者40名を巻き込んで一つの最終課題を突破した。他の参加者もわたしたちと同じ気持ちだったのだ。
何を作っていたか忘れたか、アルゴリズム班やデータ出入力班などに分かれ、ブラックジャック並みの結合手術で1つのプログラムを作った。わたしがデバッグに苦戦している間にも、高瀬は複数の班を回って、全体の指揮をとっていた。
ピシンが終わった後、高瀬が東京に遊びに来た時に、わたしは迷いなく「一緒に起業しよう」と声をかけた。驚くべきことに、高瀬は「誘われる気がしていた」と話し、東京にスーツケースを持って来ていたことを明かした。わたしたちはその後、42に合格したが、すぐに退学して起業の道に進んだ。
SHO
中野と高瀬とブレストをしていたある日、技術がわかる人間が欲しくなった。わたしたちにコーディングの経験はあった。しかし、圧倒的に技術の解像度が高い4人目が欲しい。技術に明るい友だちに片っ端から連絡したが、みんなそれぞれの人生があり、まだ資金調達もしていないスタートアップに飛び込む、頭のネジが半分外れてるような人間はなかなか見つからなかった(当時は会社の登記もしていなかった)。
ただ一人、翔(25) がいた。翔は、もともと同じ奨学金の同期だった。ミネルバ大学でコンピュータサイエンスを学んだあと、なぜかニューヨークでバーテンダーをやっていた。数年話していなかったが、電話をかけたらすぐにでた。
記憶が曖昧になることが多いわたしだが、翔とその時話したことは鮮明に覚えている。彼がブロックチェーンの開発案件で詐欺られた話、ハリーポッターに出てくるような階段下に住んでいるが家賃が高くてもう払えない話、国際的なweb3のビルダーズコミュニティに参加して、NFTのプロジェクト基盤を自分でつくったは良いものの、お金が無くてメインネットにデプロイできない話。正直笑っていいのかわからなかったが、ふたりとも笑っていた記憶がある。
翔とは一度も一緒に働いたことはなかったが、電話を切る前には「一緒にやろう」と声をかけていた。声をかけた理由は、彼の頭の良さと心の純粋さが好きだったからだ。付け加えるなら、どんな状況でも幸せを見つけられるところも彼の魅力だ。
ビジョンを決める
わたしたちのビジョンは、「誰でも挑戦できる未来」を実現することだ。その未来には、どんな人でも自分自身の才能を最大限に発揮できる居場所があり、その扉は多くの人たちに開かれている。わたしたちは、この挑戦のバトンが将来の世代に引き継がれるような仕組みを作りたい。
このビジョンに落ち着くまで、かなり時間がかかった。毎日4人で泊まり込みで話し合い、自分たちがどのような未来を実現したいのかを気が遠くなるまで議論した。疲れていたから記憶が定かではないが、なぜか定期的にラップバトルが差し込まれ、議論しているのかサイファーしているのかわからなくなることが多々あった。
「個人の選択肢を増やしたい」
「価値が循環する仕組みがつくりたい」
「ひとがチルでハッピーで、自由に生きられるコミュニティをつくりたい」
各々言葉は違ったが、目指す方向性は似ていた。
そして、話し合いが終わる頃には、わたしたちが実現したい世界を持続可能なものにするためには、ビジネスが最も合理的な手段だと全員が納得していた。
「なぜ起業するのか」会議が開始してから数日が経過したとき、電気とガスが止まった。しょうがないから、近くの銭湯にいき、暗闇の中でコンビニ弁当を食べながら、みんなでビールを飲んだ。
アルコールを飲み過ぎていたのか、この人たちと一緒にやっていく日々なら平坦な道を進むよりも面白いと思ったからなのか、その日は安心して眠ることができた。
web3を選んだ理由
わたしたちは、web3という領域を選んだ。その理由は大きく2つある。
1つ目は、web3の「コミュニティ主導の協力的な開発文化」と「個人の自由と自律性を尊重する哲学」の延長線上に、わたしたちが目指す「誰でも挑戦できる未来」が実現する可能性を感じたからだ。
2つ目は、ブロックチェーン技術が、主体性に溢れた個人をエンパワーすることができるなら、わたしたちもその一員になりたいと思ったからだ。
これら2つの理由は、わたしたちがweb3に留まるモチベーションの原点だ。
わたしたちが向き合う課題
黎明期であるweb3領域において、根本的課題となっていたのは、「web3領域の開発者不足」だった。わたしたちは、開発者らを「プロジェクトビルダー(プロジェクトの成功のために手を動かす人たち)」と呼び、彼らこそが、web3の世界で最も価値のある存在だと考えた。
どんな素晴らしいアイデアも、プロジェクトビルダーの協力なしには形にならない。だからこそ、プロジェクトビルダーがチームを組み、自由に技術力を高められる場所を作ることで、この問題を根本的に解決したいと思った。
同じ釜の飯を食う
それからは、下北沢の一角にあるシェアハウスに創業メンバーと住み込みながら、無我夢中でshiftbaseとしてできることを模索した。役員報酬を下げすぎたこともあり、言葉通り同じ釜の飯を食べ、川の字で寝た。
全力を尽くす
この1年で、わたしたちは、3億円の資金調達をし、1500名のエンジニアが学び合うコミュニティを立ち上げ、web3領域での開発が学べる学習コンテンツを24個リリースし、進捗に応じて1チームあたり合計200万円相当の開発助成金がもらえるインキュベーション型のハッカソン「進捗2Earn」をリリースした。それ以外にも、コミュニティ内での勉強会の運営やワークショップの実施、コミュニティメンバーと企業やプロジェクトとのマッチングなど、数えきれないほどの施策を打った。
shiftbaseも初期メンバーは4名だったが、業務委託として関わってくれる仲間の数は20名を超え、今年の4月に奇跡の社員第一号が加わった。わたしたちは、とにかく全力を尽くした。
創業してから二度目の桜が咲く
瞬く間に時が流れ、創業してから二度目の桜が咲いた。去年は、桜の美しさに気を取られる余裕はなかった。組織を作り、人を集め、チームを作り、コミュニティを作り、プロダクトを作り、事業を作る。すべてがはじめての経験で、わたしは試行錯誤を繰り返していた。
わたしは、もともと思い立ったらすぐに行動する性格で、何かをはじめるときはなぜか自信に溢れている。創業したときも、怖いくらいにドンと構えていた。実際には、誰かからのお金を預かって、ビジネスをするということに、わたしは想像を絶するプレッシャーを感じた。社会を見る景色が変わった。家族を養うことや社員を雇用することが、とんでもない偉業だということを31歳にしてはじめて知ったのだ。
気がつけば、1年が経ち、自分にもチームにも、そして組織にも尋常じゃない変化があった。去年の自分が恥ずかしい。ただ無駄なことはなかったと思えるくらいには、今の自分が成長できたと自分を褒めてあげたい。そして何よりわたしたちを応援しくれた人たちにお礼を言いたい。
わたし自身を含め、shiftbaseの今があるのは、他でもない、shiftbaseに関わってくれた仲間たち、わたしたちを信じてくれた投資家とアドバイザーのみなさん、コミュニティのみんな、真摯なアドバイスをくださる先輩起業家や投資家の方々、書き出したらきりがないくらい多くの人間の支えがあったからだ。
この感謝の気持ちは、社会に還元することでお返していかなければならない。この原点を忘れず、わたしたちはこれからも全力を尽くし続ける、ということを何としてもこの場に記しておきたい。
創業1年目のスタートアップ経営者が学んだこと
この1年はわたしにとって、自分の価値観を見つめ直し、コミットメントと向き合う年だった。
コミットメントは、逃げないこと
わたしにとってのコミットメントは、端的に言うと逃げないことだ。そして、スタートアップというライフスタイルにコミットし続けるための行動を、自分の価値観に基づいて積み重ねることだと思っている。
わたしはこの1年の間、実は何度もshiftbaseから逃げ出しそうになった。創業当初、わたしは自分と周りの人間を比較して、自分に厳しくしたり、自分を追い込む人間だった。そもそも感情的ですぐに不安になる性格に加え、フィードバック一つ一つに傷ついては自分を責めて自信を無くしていた。自分を責めるほど、その場から逃げ出したくなり、「もうだめだ」と衝動的に口にしては、チームメンバーを振り回した。我ながらとんでもないお騒がせ経営者だったと思う。
前を向く、進む
焦燥感と戦う日々が続く中、会社が1年目を迎えようとしていたとき、事件は起きた。共同創業者の一人であり、代表取締役の中野が退職することになった。彼の退職は、わたしにとって晴天の霹靂だった。
創業メンバー4名がフルコミットで回していた組織で、彼が欠けることは大きな損出であることは言わずもがな、頭の中が真っ白になった。同時に、なぜかそのときは、自分が何をすべきかすぐにわかった。ここで逃げてはいけない、チームで一丸となって組織を立て直さなくては。即座に残りの創業メンバーと話し合い、組織体制を再構築し、彼の退職と共に、わたしが代表取締役に就任することが決まった。
もちろん、中野とは今でも良い友人だし、組織自体も実際は何も問題なく回っている。渦中にいたときは、夢中で回収していた事態も、すべて片付いてしまえば、いつもの日常が戻った。
1年間に代表取締役が行ったり来たりする会社は信用されないのではないかといった不安が脳裏をよぎることはあったが、すぐに消えた。やることは変わらなかった。代表取締役として、チームやコミュニティのためにできることを模索して、意思決定し、仲間を集める。そして、わたしの一抹の不安とは裏腹に、今までshiftbaseに関わってくれた人たちの中で誰一人、わたしたちを責めたり、疑う人はいなかった。
感謝
振り返れば、中野はわたしにとって大切な仲間であると同時に、スタートアップで働く楽しさを教えてくれた先輩だった。彼がいたから、今のわたしがいることは言うまでもないが、出会った当初から暴れ馬のように動き回り、体調を崩して倒れるわたしのために、常にバファリンを持ち歩いてくれていたことを忘れない。彼が口にしていた「自分らしく生きられる人を増やしたい」という言葉を思い出すたび、彼が今日も彼らしく生きていることを願う。
コミットメントは、がむしゃらに頑張ることじゃない
わたしは、スタートアップというライフスタイルは、自らの情熱を他者に、社会に、未来に注げる、素晴らしい生き方だと思っている。ただ、腹の底から、自分がそのライフスタイルにコミットできると思えるまで、1年かかった。
そもそも、今日に至るまで、コミットメントとは、無理をしてでもアウトプットを出し続け、自分を追い込んで、がむしゃらに頑張ることだと思っていた。でもそれが間違いだった。自分を追い込んだ結果、ストレスを抱え、自分を見失ってしまっては、コミットメントどころではない。
この1年をかけて、自分が大切にする価値観に基づいた行動で組織を支えることが、わたしにとってのコミットメントであると、ようやく気づけた。
価値観に沿って生きる
わたしの大切にしている価値観トップ5は、「勇気」「協力」「オープンマインド」「素直」「愛」だ。
勇気があるから、恐怖や不安を手放すことができる。一人ではできないことばかりだから、仲間と協力し、喜びを分かち合える。オープンマインドでいるから、他者の意見を広い視野で捉え、意思決定に役立てることができる。自分にも他者にも素直でいることで、対等な関係性を築くことができる。愛があるから、周りの人間、社会、そして未来に貢献したいという気持ちを持ち続けることができる。
できないことで自分を責めるのではなく、できることに目を向けて伸ばす。価値観に紐づいた行動は、強みでもあり、その強みを活かして、チーム、組織、そして社会に貢献する。できないことは、自分の価値観に沿って一つ一つ対処する。
他者からの評価や社会のルール、ときには自分の感情や思い込みで、自分を見失いそうになることは、今でもよくある。そんなときは、自分が大切にしている価値観と向き合い、自分自身にとっての正解を導き出す行動を称賛することにしている。そうすることで、価値観に沿って行動できない日があっても、明日からまた頑張ろうと思える。
スタートアップというライフスタイル
わたしは、スタートアップは躍動的なライフスタイルだと思っている。新しい冒険に出て、船で大海原を渡り、新しい仲間を作りながら、ときに船酔いしながら星空を見上げて、苦楽を共にする生き方だ。
資金調達をして上場を目指すことは、「西遊記」の経典を求めて仲間と共に苦難を乗り越える旅に似ている。「西遊記」は、実際は経典の中身は空で、天竺に向かう旅そのものが、経典である、という話だ。だからわたしは、上場を目指すまでの道のりで得られる経験こそが真の宝物であることを日々忘れないようにしている。
ただ、このライフスタイルは好みが分かれる。わたし自身、最初は自信満々でスタートアップの世界に入ったものの、実際には悪戦苦闘、穴があったら入りたいような経験のオンパレードだった。
特にこの1年は、マゼラン大航海、いや西遊記かな、と思って乗り出したものの、蓋を開けてみればマッドマックス(※)だった。自分が狂っているのか、世界が狂っているのかわからない。でも、どこか魅力的で、気づいたら夢中になっていた。
わたしがいま、スタートアップというライフスタイルが、自分の価値観に沿って生きる上でとても幸福な居場所だと思っていること、そして、今日までこの居場所を一緒に築いてくれた共同創業者の中野、高瀬、日原、そしてshiftbaseを支えてくれたチームのみんなに対する感謝の気持ちを、この場に記しておきたい。
※ マッドマックス: 「行って帰ってくる」だけの作品。なのに面白いという伝説の映画なので、ぜひ見てみて欲しい。
2年目のshiftbase
2年目を迎えるにあたって創業メンバーや社内の有志を集めて、shiftbaseのミッションとそれを実現するためのアクションについて改めて議論した。わたしが代表になるにあたり、まずはじめに困ったのは意思決定だ。
恥ずかしながら、わたしの意思決定には時間がかかる。あの人もこの人も尊重したいと思うと、結局自分の意見を見失ってしまうことがよくある。しかも、たちの悪いことに、自分が納得できないと、何時間でも考えあぐねてしまう。今回も、チームの思いをしっかりと反映させるために、チームメンバーや自分自身の意見をこねくり回し、2週間かけてshiftbaseのミッション、バリュー、そして行動規範を決めた。
途中で思考が何周かしてしまい、マッドマックスの見過ぎを疑ったが、なんとか行って帰ってこれてよかった。
ミッションを決める
わたしたちは、より多くの人間、とくにモチベーション高く前進する人たちが、アイデアや発想を生み出し続けることができるコミュニティを作りたいと思っている。そして、わたしたちのゴールは、そのコミュニティで生み出された価値を、社会に広く共有し、未来の子供たちにチャレンジのバトンを引き継いでいくことだ。
創業から1年、常にわたしたちにインスピレーションをくれたのは、UNCHAINのメンバーしかり、友人である起業家やクリエイターたちの目標に向かって協力し、前進するエネルギーだった。わたしはキングダムの麃公(ひょうこう)将軍が好きなのだが、彼の言う「炎を絶やすな」という言葉をなぞるなら、わたしたちにとって、彼らのような人間の情熱こそが社会に飛躍的な変化を起こす「炎」であり、その炎を絶やさないことこそがわたしたちの使命だ。
この思いをもとに、わたしたちは「Dynamic collaboration for dynamic shifts(コラボレーションを促進し、社会に飛躍的な変化を生む)」をshiftbaseのミッションとして掲げた。
大切にする価値観を決める
急にハリウッドみたいな世界観になって驚かせてしまったかもしれないが、わたしたちは「Strong Self, Strong Team, Strong World」という3つの価値観を大切にしている。
Strong Self|自分自身と向き合い、健康な心と体をつくる
Strong Team|互いを信頼し合い、柔軟に変化するチームをつくる
Strong World|価値が循環する持続可能な社会を作る
最初に大切にするのは、自分自身のことである「Strong Self(強固な自己)」だ。組織の一員として前に進む以前に、ひとりの人間として自分を見つめ、心身ともに健康な状態を維持することを目指す。
そして、次に大切にするのが「Strong Team(強固なチーム)」だ。不確実性が高く、変化が激しい時代だからこそ、信頼し合い、柔軟に変化しながら荒波に耐えうるチームの構築に注力する。
最後の大切にする価値観は「Strong World(強固な世界)」だ。高いモチベーションを持った人たちの協力を促進し、自分たちもその一員になることで、価値が循環する社会(= Strong World)の実現を目指す。
千里の道も一歩からという言葉にあるように、まずは自分、その次にチーム、そして世の中と意識の幅を広げていきたい。そういう思いでこれら3つを、shiftbaseが大切にする価値観として掲げた。
価値観を体現するための行動規範を決める
最後に、わたしたちが大切にする価値観「Strong Self(強固な自己)」「Strong Team(強固なチーム)」「Strong World(強固な世界)」をそれぞれ体現するための行動規範を定めた。
詳しい「Dos(推奨される行動)」と「Dont's(推奨されない行動)」について、興味がある方はぜひこちらのカルチャーデックを参照して欲しい。
shiftbase, inc. Culture Deck
おわりに
以上が、shiftbaseの創業から現在に至るまでの約1年の歩みとその過程でわたしが得た学びや気づきの記録である。
最後に、わたしたちが2期目を迎えるにあたっての意気込みと決意を書いて、このnoteを締めくくりたいと思う。
わたしたちとweb3
去年末から今年にかけて、web3を取り巻いていた状況は、少しフェーズが変わった気がする。web3が世界的なトレンドになりはじめた頃は、ポジティブな仮説がたくさんあった。わたし自身も「web3なら全部できる、多くのものをリプレイスできる、だからやるべき」とどこかで思っていた。
しかし、2023年の現時点では、ある意味多くの仮説が検証され、あの頃実現できると思っていた多くの夢が死んだと言えるかもしれない。法律や規制というオフチェーンの現実から、自由でいられるプロジェクトは限られている。しかし、クリプト、NFT、DeFi、DAOなど様々なアイデアを実現できるインフラ、つまりブロックチェーン技術には可能性と未来がある。
大袈裟な表現かもしれないが、本質的なDXのためにブロックチェーンは確実に必要となる技術だ。スマートコントラクトは人類を前に進めるための可能性を秘めていると、わたしたちは思っている。
2年目の「UNCHAIN」
ブロックチェーンは、多くの選択肢を与えてくれる技術であり、思想だ。例えばビットコインは人々に法定通貨以外の選択肢を与え、アンバンクドな人々の金融包摂となった。イーサリアムは分散化したアプリケーションの開発を可能にした。だからこそ、この思想や技術を扱えるようになる人たちを増やし、彼らのコラボレーションを促進することで、発展の炎を絶やさないことがわたしたちの使命だと考えている。
わたしたちは、環境が変化する中でも、自分たちのやる気や情熱を失うことなく、新しいアイデアやプロジェクトを生み出す人たちが協力しやすい環境を作りたい。そのために、web3の思想や技術を活かしつつ、web3領域以外の開発者やクリエイターたちもプロジェクトに参加できる場も作っていきたい。
株式会社shiftbaseは、2年目の「UNCHAIN」も全力を尽くしていく。
日本で事業をつくる理由
web3なのになぜ日本でやるのか。よくそう聞かれるのだが、答えは至ってシンプルだ。わたしたちが日本が好きだからだ。そして、今後この国が貧しくなっていく現実を直視している。物価上昇と所得の伸び悩みによるスタグフレーション、少子高齢化による次世代への経済的負担、過労やストレスによる健康状態の悪化。
「失って初めてその大切さに気づく」という言葉が日常生活のすぐそばにあることに、わたしたちは気づいている。
わたしたちは、大きな時代の変化の中で、大切な人たちと過ごす新しい日常を創るために、社会に飛躍的な「shift(変化)」を生み出し続けたい。 わたしたちの日常に存在するたくさんの奇跡を、子どもたちの世代に残していくために、今できることをやっていく。
それがわたしたちのライフスタイルであり、「shiftbase(=変化を生み出す基盤)である」理由だと思っている。
繰り返しになりますが、これまでshiftbaseに関わってくれた全ての方々に感謝しています。2年目に入ったshiftbaseと「UNCHAIN」を、これからもよろしくお願いします。
shiftbase co-founder & CEO 志村侑紀 [Twitter] [Facebook] [LinkedIn]
TOP写真:大津賀新也(あたらしい経済)
この公式noteでは、shiftbaseメンバーの投稿や、「進捗2Earn」のDEMODAYレポートなど、さまざまなコンテンツや最新情報を掲載していく予定です。よかったらフォローしてください!😊
事業概要
株式会社shiftbaseについて
株式会社shiftbaseは「Dynamic collaboration for dynamic shifts(コラボレーションを促進し、社会に飛躍的な変化を生む)」をミッションに、web3領域に特化した技術主導のビジネス開発チームです。web3エンジニアコミュニティ「UNCHAIN」を主軸に、手を動かし未来をかたちづくる人たちのコラボレーションを促進するための持続可能なエコシステムの構築を目指しています。当社は、Polygon、Polygon Studios、NEAR、ASTAR Network、HashHub、Fracton Venturesとオフィシャルパートナーシップを締結し、アーティストのスプツニ子!、ソフトウェアウェレット「MetaMask」創業者のkumavis、五常・アンド・カンパニー株式会社創業者の慎泰俊氏にアドバイザーとしてご参加いただいています。
shiftbase, inc. オフィシャルサイト
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shiftbase 採用情報
web3エンジニアコミュニティ「UNCHAIN」とは
UNCHAINとは、スマートコントラクトの開発やdAppsの構築など、プロジェクト開発を通してweb3を学び、実践経験を積みながらアイデアを形にする力を身につけるエンジニアのためのコミュニティです。現在、Astar Network、Ethereumをはじめとした 7つのパブリックチェーンに関する学習コンテンツを24件提供しています。ユーザーはアカウントを作成するだけでweb3関連の最新技術を学べる学習コンテンツに無料でアクセスすることができます。現在、1,500名以上のUNCHAINメンバーがわたしたちのDiscordコミュニティで技術を学び合っています。
UNCHAINオフィシャルサイト
web3開発助成金プログラム「進捗2Earn」とは
プログラムの目的は、個人の金銭的なリスクをゼロにして、世の中に”挑戦者”を増やすこと。参加者への助成金配布方法は当社が独自に開発した「進捗2Earn」方式を採択し、6段階の審査基準を満たしたチームは累計200万円の助成金を獲得することができます。また、助成金は日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」を活用することで、審査基準を満たした本プログラム参加者へと即時給付するスキームを構築します。開催期間は、2023年2月13日(月)から9月16日(土)です。
web3開発進捗助成プログラム「進捗2Earn」の概要
関連リンク
UNCHAIN:https://unchain.tech/
コーポレートURL:https://www.shiftbase.xyz/
お問合せフォーム:https://shiftbase.xyz/contact
採用情報:https://unchain-shiftbase.notion.site/shiftbase-e6b6d20aea7d4d38986a4b30fb5f3719
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編集記録
2023-04-11 01:24
わたし自身が起業に至るまでの過程についてご質問いただいたので、以下のセクションを追加しました:
- 起業を志す
- 勢いで無職になる
- スタートアップに参加する
また上記の追加内容に伴い、上記のセクションで言及されたトピックの一部を以下のセクションに追記し、編集しました:
- 仲間を集め、起業する
- ビジョンを決める