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「シリコンバレーがやって来る」(後編)

シェアリング・エコノミーの光と影

乗客とドライバーをマッチングするUberや、旅行者と空き部屋をマッチングするやAirbnbは、シェアリング・エコノミーの旗手として、シリコンバレー最大のユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)になりました。

しかし、UberやAirbnbが急成長するにつれて、世界中で大きな論争が起きています。その多くが、規制に関わるものです。

例えば、Uberの運転手が自動車事故を起こした際、被害者はUberの自動車保険からの補償を受られるべきでしょうか?Uberは乗客が乗っていない時に起きた事故の被害者への補償を拒否し、裁判になりました

タクシーであれば、規制により自動車保険への加入が義務付けられており、補償の対象となるところです。しかし、Uberに全く同じルールを適用すると、Uberに登録だけしておいてUberの自動車保険にただ乗りするドライバーが多数現れそうで、悩ましいところです。

また、Airbnbがホテルより安いのは、消火器や火災報知器の設置、さらには宿泊税の支払いを免れているからではないか、という議論が起こりました。

さらに、人種や国籍などを理由とする差別への懸念も指摘されています。

アメリカでは、キング牧師らが主導した公民権運動の成果として、人種などを理由にホテルやレストランが宿泊拒否や入店拒否をしてはならないというルールが確立されました。しかし、プライベートの領域では個人の自由が尊重されるため、差別禁止は適用されません。Airbnbの場合、ホストがネットで知り合った友人に部屋を提供する建前であるため、公とプライベートの狭間にあります。このため、ホストによる差別について批判を受けることになりました。

実は私自身、4年前にニューヨークでAirbnbで申し込んだ際に、空室があるのにすべて拒否されてしまい、ひょっとすると人種差別かも、と不安を覚えた経験があります。その後、アメリカ人の妻が申し込んでも拒否されたため、どうやら人種差別ではないらしいとわかりました。ホストとしても全く知らない人に部屋を貸すのは相当の勇気がいるのでしょう。このため、ホストが宿泊希望者の顔写真を要求するケースが多く、それが差別の温床になっていると指摘されています。

2016年9月8日、Airbnbは、ホルダー元司法長官ら専門家の協力を得て、差別防止のための新しいルールを発表しました。新しいルールでは、2016年11月1日までに、全てのホストは、差別防止のための以下の約束に同意しなければならないとされています。

“We believe that no matter who you are, where you are from, or where you travel, you should be able to belong in the Airbnb community. By joining this community, you commit to treat all fellow members of this community, regardless of race, religion, national origin, disability, sex, gender identity, sexual orientation or age, with respect, and without judgment or bias.”
「私たちは、あなたが誰であれ、どこから来ようとも、どこを旅しようとも、Aibnbのコミュニティに所属できるべきだと信じる。Airbnbのコミュニティに所属することにより、あなたは、仲間のメンバー全員に対して、人種や宗教、国籍、障害、性別、性同一性、性的嗜好や年齢に関係なく、偏見なく敬意をもって接すると約束する。」

原文はこちら

シリコンバレーは規制産業を目指す

シェアリング・エコノミーをめぐる上記のような論争は氷山の一角に過ぎず、現在でもUberやAirbnbやその熱烈なファン(や顧問弁護士)と、UberやAirbnbに反対する人たちの間で、果てしない議論が繰り広げられています。

そして、このような論争が起きるのは、UberもAirBnBも、 (1)ユーザーの不満が溜まっている規制産業において、(2)ユーザーの利便性を飛躍的に高めるサービスを、(3)規制のギリギリ外側で提供しており、まさにそれが理由で成功を収めているからです。

UberやAirBnBのビジネスモデルは、シリコンバレーの一つ前のスタートアップだったマイクロソフト、グーグルやフェイスブックとも異なります。マイクロソフトなどは、OS、検索エンジン、SNSといった新しいサービスをゼロから築いてきました。

しかし、ネットで完結する数多くのアイデアを試しつくした結果、これまでOSやネットの世界で完結していたシリコンバレーは、新たなフロンティアを目指し、これまで規制に守られてきた産業に参入していきます。

そして、UberやAirbnbの成功によって、シリコンバレーは、ユーザーが不満を持つ規制産業においてイノベーションを起こせば、大きな価値創造につながることを学んだようです。

今やシリコンバレーは規制を目指して進みます。最初は規制のギリギリまで(Uber、Airbnb)、やがては規制の内側まで(フィンテック)。規制の内側まで辿り着いた時、シリコンバレーは金融機関と遭遇することになります。それは、アメリカの金融機関にとっては晴天の霹靂とも言うべきものでした。

とは言え、金融サービスには専門知識が不可欠で、規制も複雑です。シリコンバレーと言えども簡単には参入できません。では、シリコンバレーの金融サービスへの参入はなぜ可能となったのでしょうか?次回は、アメリカ資本主義の心臓部で起きた3つの構造変化に迫ります。

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