座れる展覧会:「フィン・ユールとデンマークの椅子」展@東京都美術館
都内では28日ぶりの猛暑日となった日曜日、デンマークのデザイナーで、「彫刻のような椅子」と評される優美な作品で知られるフィン・ユールの展覧会を観に行ってきました。
展示の見どころは、なんといっても展示されている椅子に実際に座れるというところ。椅子好きにはたまらない展示でした!
第1章 デンマークの椅子 そのデザインがはくぐまれた背景
展示は3章構成で、第1章「デンマークの椅子 そのデザインがはくぐまれた背景」では、1930年代から1960年代に多くの名品を生み出した、デンマークの家具デザイン史を概観することができます。
過去の様式を題材に採り、その寸法やデザインを活かしながら現代風にアレンジする「リ・デザイン」の手法を用いて作品を発表したコーア・クリントや、彼の教え子であるボーエ・モーエンセンらの作品が展示されていました。当時デンマークで安価かつ良質な木製家具の生産を目指して結成され、モーエンセンやウェグナーの作品を世に送り出したFDB(デンマーク生活協同組合)の存在も紹介されており、当時デンマークで家具デザインが盛んになり、海外にも名声を広めていった背景を学ぶことができました。
キャスパー・ホイベア「ボーエ・モーエンセン 生活のためのデザイン」 2015 トレーラー
また、会場内で流されていたドキュメンタリー「ボーエ・モーエンセン 生活のためのデザイン」(※フルの映像ではなく抜粋版です)では、当時のCMなのか、キャビネットをものすごいドヤ顔でプレゼンする男性(モーエンセン本人?)や、新居にわっせわっせと家具を運ぶ新婚夫婦の様子など、当時の暮らしぶりが窺えて面白かったです。
ちなみに、このドキュメンタリーは日本語版のDVDも出ているようです。フルでも見てみたい……
展示室を抜けると、フィン・ユールの先達や同時期に活躍したデザイナーたちの椅子がずらり。この部分は写真撮影OKなので、思わずばしばし撮ってしまいました……。
第2章 フィン・ユールの世界
エスカレーターでさらに下の階に降りると、いよいよフィン・ユールの作品の展示に。
当初美術史家を志したものの、大学では建築を学び、独学で家具デザインを身に着けたというフィン・ユールの学生時代の建築ドローイングや初期に発表した椅子が並びます。最初美術史家を目指していたという背景は、なんとなくコーア・クリントの(過去の様式を再構成する)「リ・デザイン」と親和性があるように感じられます。
ぐっとせり出したひじ掛けとそれを支える脚から、全体としては小柄なものの力強い印象を与えるフィン・ユール「ボーンチェア No.44」が特に印象的でした。キャプションによればアフリカの民族美術に影響を受けたフォルムとのことです。ハンス J.ウェグナーも同じ時期に中国の明代の椅子に着想を得た「チャイナチェア(FH4283)」を作っていますが、こうしたアジア、アフリカの様式を採り入れるのもコーア・クリントの影響なのでしょうか。気になるところです。
また、フィン・ユールが30歳の頃建てたという自邸に置かれた椅子やその様子を写した写真、ドローイングも展示されていました。キャプションによれば彼はその自邸を気に入り、その後の人生をそこで過ごしたとのことです。(弱冠30歳のときに、その後の自分が一生気に入るものを創り出せるというのはすごいことだ、と感嘆してしまいます……)
そのほか、フィン・ユールが手掛けた椅子の三面図のドローイングも展示されており、透明感のある美しい水彩の陰影や几帳面そうな文字で書きこまれた文章からフィン・ユールの丁寧な仕事ぶりが窺えます。
第3章 デンマーク・デザインを体験する
そして、今回の展示の目玉ともいえる第3章「デンマーク・デザインを体験する」は、「体験」という通り椅子に座れるコーナーです。
観ているときはなんとなく形がいいな、と思っている椅子に実際に座ると、座面が傾いていて太ももが全然辛くないとか、大きいカーブを描く背もたれに包まれているようで安心する、というような魅力をたくさん新たに発見できました。
作品リストを数えると、第3章で出品されている椅子は38点ほど。スツールからソファまで様々な面々が取り揃えられています。椅子だけではなく、照明器具やラグもデンマーク・デザインでしつらえられており、一度腰を落ち着けると離れがたくなってしまう空間でした。
座ればきっと「推し椅子」が見つかるはず。10/9(日)までと会期も長いのでおすすめです!
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