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ステンドグラスに圧倒される@小樽芸術村

前回に引き続き、今回も北海道で訪れたミュージアムについて記録します。

札幌から電車で約40分ほどの港町、小樽。小樽は明治時代に物流業やニシン漁産業の街として栄え、銀行や商社が軒を連ねる経済都市に成長を遂げました。現在でも、小樽運河の両岸には当時のレンガ建築が立ち並び、美しい街並みが保存されています。

大正硝子館。こんな感じのレンガ造りの蔵を再利用した施設がたくさん立ち並ぶ街並みです。

小樽芸術村

今回訪れたのは似鳥文化財団が運営する小樽芸術村。ちなみに似鳥文化財団の「似鳥」は北海道の誇る家具メーカー、誰もが大体一度はお世話になっているニトリです。

小樽芸術村はステンドグラス美術館、旧三井銀行小樽支店、似鳥美術館、西洋美術館の4館で構成されています。公式パンフレットによれば、全部見て回るなら所要時間は大体3時間ほどだそう。(似鳥美術館と西洋美術館が各1時間、他の2つは30分ずつ)

まわり方は自由ですが、個人的にはステンドグラス美術館を見てから似鳥美術館を見るのがおすすめです。
どちらにもステンドグラス作品が展示されていますが、ざっくり言うとステンドグラス美術館では職人の仕事による端正な工芸品、似鳥美術館では作家による一点ものを見られます。前者でトラディショナルなステンドグラスを楽しんだ後、後者で作家が思う存分腕を振るった豪華な世界観に酔いしれられるというイメージ。

ステンドグラス美術館:端正な工芸品としてのステンドグラス

ステンドグラス美術館では、19世紀末~20世紀初頭のイギリスの教会で飾られていたステンドグラスが展示されています。

元々倉庫だった空間を利用していることもあり、天井の高さを利用して壮麗なステンドグラスがこれでもかと飾られています。
こうしたステンドグラスは、近代産業の発展で土地が足りなくなったことや古い建造物の維持の難しさによって元の教会から取り外され、コレクターの手に渡ったものだそうです。巨大でありながら儚く壊れやすそうなこれらの作品が、第一次・第二次世界大戦の戦火等様々な困難を潜り抜けて異国の島国で再集合しているのを見ると畏敬の念が湧いてしまいます。

これらのステンドグラスは、色ガラスを型紙に沿って切り出し、塗料で絵付け・焼成した後、鉛線に固定して作られているそうです。どうやら塗料を塗ってから引っ搔いて削り取ることで細かい陰影を表現しているらしく、近寄ってみると銅板画やペン画のような趣。
多くの作品の左下に、ガラス工房のサイン代わりに植物の芽などを描いた小さなタイルがはめこまれていて可愛かったです。

似鳥美術館:ルイス・C・ティファニー

ステンドグラス美術館ではイギリスの作品が展示されている一方、似鳥美術館1Fではアメリカのガラス工芸家、ルイス・C・ティファニーの作品を観る事ができます。

ルイス・C・ティファニー(1848-1933)は、言わずと知れたブランド、ティファニー創業者の息子で、宝飾デザイナーとして活動しました。

ルイス・C・ティファニー「百合の装飾パネル」(部分)1880-1890頃.

ティファニーの作品の凄みは、まずはガラスを幾層にも重ねて表現した遠近感です。彼は色の異なるステンドグラスを2~4層重ね、水面や遠景にぼんやり見える丘などを表現しました。(上の作品だと、下部のいくつもの小さな窓状に仕切られた部分に恐らくそうした技法が使われていると思います。)

さらに、写真中央の花が描かれた部分は、あえてガラスの層を少なくして光を通すようにし、周囲から浮き上がるような表現をしています。天使や聖人を描いた作品でも、あえて人物の後光部分を同じように1層のみにして、神々しい輝きを放つように工夫されています。

また、ティファニーはなるべく絵付けではなくガラスそのものの表情を活かすことを目指したらしく、天使の羽や衣服部分に表面が波打ったガラスを利用して質感を表現しています。
この技法、1枚1枚羽の方向と合ったテクスチャのガラスを探さねばならないため、とんでもない量の板ガラスが必要だったそうです。

ルイス・C・ティファニーギャラリーはとかくガラスそのものが持つ美しさをどれだけ引き出せるかにこだわった作品がいくつも並ぶ壮麗な空間です。ステンドグラス美術館で(おそらく)ベーシックで端正な職人技を観た後、こちらを観るとティファニーのガラスに対する執念やきらびやかさに圧倒されました……!

西洋美術館や旧三井銀行小樽支店も見どころたくさん

すっかりステンドグラス美術館と似鳥美術館のティファニーギャラリーにばかり文章を割いてしまいましたが、似鳥美術館のほかのフロアおよび西洋美術館・旧三井銀行小樽支店も見どころはたくさんあります。

例えば、似鳥美術館は伊藤若冲(「なんでも鑑定団」に出たらしく、その時ついた鑑定額がドドンと書かれたキャプションが作品脇にあったので、そこだけ急に俗っぽくて笑ってしまいました)の作品など名品がそろい踏みです。

また、西洋美術館はアールヌーヴォー期のガラス作品やマイセンの陶磁器が所狭しと並ぶ他、19・20世紀の家具でモデルルームをたくさん作って展示している一角があり、さすがニトリの美術館という趣

旧三井銀行小樽支店では、近代建築の意匠を凝らした空間を当時の雰囲気のまま体験できます。
金庫室も見学できるのですが、地下部分は白いタイル張りの回廊になっていて、なんとなく映画「TENET」に出てくる空港の倉庫で絵を奪還しようとするシーンを連想しました。

小樽には北一ヴェネツィア美術館などなど様々なガラス工芸品にまつわるスポットがあるのですが、今回は時間切れで叶わず。ぜひとも再訪したい街です。

洋菓子店、ルタオ小樽本店。
喫茶室で食べたチーズケーキ、溶けてなくなるおいしさでした。


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