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vol.7 広州市STEM教育事情

今回は深センのお隣で同じ広東省の省都である広州市のSTEM教育に関する状況についてまとめます。

中国の教育というと中国共産党の意向で、国の決定事項をトップダウンで寸分違わぬ教育が展開されているというイメージを持ってしまうかもしれませんが、実情は全くの反対で、逆に柔軟性のあるシステムを採用しています。

中国では国全体としてのプログラミング教育やSTEM教育の必修化はまだ始まっておらず、 省、市、区単位での必修化が順次始まっています。

大学入試改革においても、2017年に上海・浙江省で先行実施した入試制度に修正を加えながら2019年に全国での入試改革を実行するなど、一定の段階を踏みながら改革を進めていきます。

広州市では、広州市教育局の管轄下に広州市教育研究院(研究所)という広州市独自の教育研究機関を設置しています。ここでは学校で学ぶ全ての教科に対する研究が行われており、広州市の公教育の内容は中国政府の定める範囲から逸脱しない限りは自由に実施することができます。

この研究院の指導の下2018年から2020年の3年間をSTEM教育実施試験期間と定め、各学校への指導、調整を行った上で2022年を目処に必修化に踏み切るという計画です。

2022年に必修化をするのであれば、予行期間が当然いるだろうというのが彼らの考え方で、 この予行期間の中で教授法、カリキュラム、研修、生徒の評価の方法、入試への組み込み方なども探っていきます。

研究院の予算に関しては、STEM教育に対する特別な予算は国・省・市のいずれからも降りておらず、元の財源からSTEM教育に予算を振り分けています。

そうした事情を考えると、STEM教育に当てられる予算は簡単に不足しそうなものですが、アメリカのSTEM教育の視察、アメリカのSTEM教育の輸入(カリキュラム・設備)、中国全土からの有識者を招いた研究会、教員の研修など、研究院がSTEM教育を研修するに足る十分な予算をしっかり捻出しています。

学校での取り組み

広州市全土の学校からSTEM教育推進モデル校を募り、その中から155校に絞り込んだ上で2018年から2021年の3年間をSTEM教育実施試験期間と定め、各学校への指導、フィードバック、調整を行った上で2022年を目処に必修化に踏み切るという計画です。

このモデル校の中でも南武中学、広東実験中学、広雅中学は、広州市のSTEM教育の牽引役であり、南武中学には約400万元(6000万円相当)を投じてSTEM教室(学創空間)を設置するなど、広州市のSTEM教育への本気度は生半可ではありません。

教材やカリキュラムに関しては、広州市が定めた物を使用する必要はなく、事前に研究院の認可を受けた教材であれば使用が可能です。

この教材は「1.学校の独自開発」、「2.企業の開発」、[3.学校と企業が共同開発]のいずれも作成可能となっています。

中国でも日本でも「1」の学校独自の開発は非常に困難であるため、学校や教師の力量への依存度が高く、多くの学校での実践は不可能です。

「2」の企業の開発は、中国でも日本でも進んでいますが、企業独自の開発は得てして学校目線で開発ではないので、学校教育とのミスマッチが起こっているよう思います。

「3」の学校と企業の連携は日本の場合は、学校と企業の癒着という見方が強いせいか、慣習的に学校が企業と組んで教材を開発するといったことが今までになかったせいか、学校と企業は直接的には組みにくい状況にあるようです。

これに対して広州市の特徴的な点は、学校と企業の共同開発が非常うまく機能している点にあります。

学校が年間通じて持続可能なカリキュラムを作成し、これが教育局に認定されればそれが公式の教材となります。公式の教材になれば、どの学校でも採用が可能になり、企業としても商機になるので、学校の意向もしっかり汲み取ったカリキュラムを作ります。

学校、企業ともにメリットのあるエコシステムになっているので、自然とその循環がはじまります。

また、予算面では、広州市の学校では予算の中に「研究費」という項目があらかじめ組まれているとのことで、費用面での障壁は低いと言えます。

このように、教材、カリキュラム、教員の育成とさまざまな問題を抱えるプログラミング教育ですが、広州市の場合は十分な準備期間とエコシステムを構築することで柔軟にスタートさせようとしています。

日本でもプログラミング教育の中身を考えることも重要ですが、2020年の必修化までの道筋、その後の持続可能なシステムもしっかり準備が必要だと感じました。

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「深セン」×「教育」で何ができるかを日々考えています。世界に類を見ない深センの成長速度、深センの成長を加速させるための深セン市政府の経済政策、教育政策、そこに暮らす若者たちのパワー。深セン市の存在そのものが私たち日本人にとって大きな教育リソースであると思います。
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