アンティークコインの世界 | NGC Ancientsの古代コイン真正性不保証について
今回は、トレンドのNGC Ancientsが古代コインの真正性を保証していない件について説明していく。執筆の経緯は、いろいろな誤解によって人々が古代コインから離れていくのには寂しい思いがあるからだ。始めに述べておくと、NGC Ancientsの“真贋の判定精度”は高い。あからさまな贋物も精巧な贋物も、彼らは蓄積されたデータベースによってきちんと弾く。では、なぜ彼らは真正性を保証できないのか?
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一部界隈で話題になっているNGC Ancientsの真正性不保証のついてについてだが、これはNGC Ancientsのホームページにはっきりと記されており、一部のディーラー及びコレクターの間では周知の上である。だが、多くの日本人にはそれが周知されていないようだ。
話題の箇所は一文がかなり長い都合上、翻訳ツールにかけても上手く翻訳できないだろう。そのため、彼らの主張したいことを試訳する。NGC Ancientsのページがもし日本語だったなら、こうした重大事項を見落とす人々はきっといなかっただろう。
NGC Ancients 公式ホームページ
ここから話題になっている箇所が確認できる。実際にホームページから確認してみよう。
ブルーのラインを引いた部分が該当の内容が記された箇所である。
上記、該当の内容が記された英文による説明である。
以下、話題になっている部分である。
英文は原文ママ、その下に日本語による試訳を記す。
古代コインの年代と来歴(発行地、発行元、発行年、デザイン面、特定の分類などの基本的証明)については不明瞭な点が多く、学術的推測の域を出ていない。
複数の来歴が存在し、コイン業界ではそれらが受け入れられている状態にある。そのため、NGC Ancientsは最も妥当と思われる来歴を採用している。新たな研究発表や考古学的立証によって、古代コインの来歴、年代、分類、真正性は、従来の判断基準から変更されることがある。
従って、NGC Ancientsの鑑定内容は新情報の導入、またはスラブ封入時に鑑定員が気付かなかった既存情報によって変更される。
*Consequentlyは「従って」の意。かなり堅い印象の語で、話し言葉ではなく、主に書き言葉に使われる。
NGC Ancientsは、古代コインを適切に評価することに誠実な姿勢で取り組み、また尽力もしているが、これらの“真正性については保証していない”。
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あくまでグレードは保証するものの、真贋までは保証しないというわけだ。それもそのはず。1000年ないし2000年以上前のコインを誰も100%本物だと言い切ることはできない。誰もその時代に生きておらず、信憑性のある資料もない上、ほとんどのコインが発掘現場で調査隊によって学術的に発見されたわけではないからだ。
だが、NGCは自分たちが真正品と判断したものしかスラブに封入しないと述べている(古代に造られた偽造貨は歴史資料として例外的にその旨を記載の上、スラブに封入される。それは置き換えれば、彼らの真贋能力の表れでもある。本当に真贋能力がないのであれば、その違いすら判別できないのだから)。自分たちの持つデータを活かし、最前の努力を尽くすことの意思表示である。
古代コインの年代を始めとした分類は、いまだ学者たちによって行われた推測の域を出ていない。よって、新たな発見によって、これまでの学説が覆る可能性も十分ある。それゆえ、NGCは真正性を保証できないのである。残存する文献の不十分さから、いくらでも変わる可能性があるものを真正品と言い切らない点は、むしろ良心的と言える。加えて、彼らは古代コインの相場はそれを考慮したものとも述べている。つまり、真正性を完全に保証できないゆえに、古代コインの相場が他の時代のコインより安価な傾向にあるということである。
いろいろと述べてきたが、個人的にはNGC Ancientsの精度は高い方だと思っている。あからさまな現代のフェイク品がスラブに封入されている例は見たことがない。もちろん、当時のフェイク品、すなわち偽造貨がスラブに封入されていることはある。古代の偽造貨にはその旨が記載された上で、スラブに封入されている。古代の偽造貨なら、それもまたひとつの歴史的遺産と捉えているようだ。
NGC Ancientsの真贋精度が高いと感じた理由は、精巧な偽造品をきちんと弾いてきた経験にある。発掘現場から調査隊により発見された来歴のある個体を何度も目にして刷り込んで来た人間でないと見抜けないレベルの偽造品を彼らが弾いてきたことに驚いた。精通した考古学者がバックにいて、一度同類の偽造品が鑑定に出された過去があり、そのデータベースを持っているとしか考えられない。
マニュアル通りに鑑定していたら、鑑定に通るレベルの精巧な出来栄えだった。そうした一部の人間しか知り得ない情報を彼らが保有していることに驚いた。おそらく、過去に複数の偽造品が同じタイミングで鑑定に出されたのだろう。だから、見抜くことができた。単体で来られたら、判断が下せないレベルだった。
以上を踏まえ、これからも鑑定会社と上手く付き合っていこう。結局は、自分の眼を磨いていく他ないということである。いや、だからこそ古代コインはやっぱり面白い!そして、古代コインをこんなことぐらいで嫌いにならないで欲しい、というのが筆者の切なる思いである。
Shelk🦋
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