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マークの大冒険 フランス革命編 | 対なる指輪の秘密

前回までのあらすじ
フランス革命政権の首領ロベスピエールの打倒に失敗したマークとホルス。ロベスピエールが使用する黄金の果実によって勝算がないことを悟った彼らは、一時撤退を余儀なくされる。だが、黄金の果実に対抗するための手段はなく、二人は行き詰まって、ただ時間が過ぎていくだけだった。そこで彼らはウェスタ女神の元に訪れ、彼女から攻略のヒントを得ようと試みるのだった。



ウェスタの白き間にて_____。


「ホルス、気をつけろ。ファンタズマ・デジトゥスだ。一度だけ文献で見たことがある。ウェスタは指の僅かな動きだけで相手を制する。なぜなら彼女は......。家庭の女神の裏の顔、いや真の姿は支配の女王だからだ。最高神ユピテルさえも抗えない存在、支配を司る者。それがウェスタ、キミなんだろ。純潔の女神であるのは、キミが常に支配する側にいるからだ。誰からも支配されることがない存在。キミはどんな相手も意のままに操る。その美貌、美声、巧みな話術と支配の魔術によって。なんぴともキミの支配に陥ってしまう。かつてオリュンポス十二神の地位をバックスに譲ったのも、彼らを支配するための演出だったんだろ?周囲の注意を反らせ、影から全てを支配するための」

ファンタズマ・ディジトゥス(Phantasma Digitus)
ラテン語で「幻影の指」の意。筆者による造語。マークが「一度だけ文献で見たことがある」と言っているが、そんな文献は存在しない。これは筆者の創作。

Vesta

ウェスタ(Vesta)
古代ローマの竈門の女神。全ての家屋の中心に鎮座する女神ゆえ、家庭を司る女神でもある。ローマ建国神話で既にウェスタの巫女が登場していることから、その起源はかなり古い。ローマ神話では、ユピテル、ネプトゥヌス、プルートー、ユノー、ケレス、そしてウェスタの六柱兄弟姉妹の長女にあたる。謙虚で寡黙、目立つことを嫌う性格のため、神話にはほとんど登場せず、固有の神話も持たないが、ローマでは古くから重要な女神として崇拝され、ウェスタ神殿ならびにウェスタの巫女と呼ばれる重要な役職が存在した。『マークの大冒険』の作中では、中立的な立場で世界を身守る観測者として描いている。妖艶な容姿で、かつてはマークが通う古代書房アレクサンドリアの書店員として、特異点であるマークの行動を観測していた。

支配の女王
ウェスタが支配の女王というのは、筆者の完全なる創作である。オリュンポス十二神から退いてバックスにその地位を譲ったのも、本当に彼女の慈悲と親切心から来ている。支配の女王という添え名が相応しいのは、どちらかと言えばユノーやケレス、プロセルピナたちだろう。最高神ユピテルの妻のユノーは夫を尻に敷いているし、ケレスが機嫌を損ねて仕事をサボれば大地が荒廃してユピテルさえ謝罪を余儀なくされる。冥界の王プルートーの妻プロセルピナは、まさしく冥界で人の死を司るという点で支配の女王と言える。彼女の機嫌を損ねた者は、万死に値するどころか地獄の果てにまで突き落とされるのだから。

Horus

ホルス(Horus)
古代エジプトの天空神。傲慢で気性の荒い戦闘神でもある。暗殺された父で賢王のオシリスとは、能力の上でも性格の上でも双極をなしている。実際に神話内でも衝動的で後先を考えない面が多々あり(イラついたので八つ当たりで母イシスの首を飛ばすなど)、少し阿保でぬけている部分があることからも王位継承者としての器があるのか周囲から疑問視されていた。ハヤブサの頭部を持つ男神で、ハヤブサの姿をとって飛翔することもできる。始祖の神にあたる九柱神には数えられていない新興の神で、エジプトの神々の中では年齢が若い部類に入る。『マークの大冒険』の作中では、サッカラの遺跡に封印されていたが、マークによってその封印が解かれた。


Mark

マーク(Mark)
ロベスピエールの手に渡った黄金の果実を取り戻すため、フランス革命期のパリに訪れた青年冒険家。古代エジプト語、古典ギリシア語、古典ラテン語を始めとする、あらゆる古代言語に通じた天才的な才能を持つが、夢見ていた大学のポストには恵まれず、生活に困窮したフリーランスのカメラマンとして燻った日々を送っている。在学中は神童と呼ばれ、周囲からの期待もあった分、それが返って彼の心を傷つけた。また、義理と人情を重んじるお人好しで、嘘がつけない馬鹿正直であることから、いつも損ばかりしており、本人も自分が仕事には全く向かない性格であることを自覚している。フランス革命編では、一時的に王党派(レジティミスト)に力を貸していたため、「王党派のマーク」と呼ばれ、革命派からは王党派の者と思われている。だが、本人にはそうした派閥に属している認識は全くない。というのも、彼は政治に全く興味がなく、自身が追い求める研究にしか興味を示さない筋金入りの研究者気質だからだ。

マークは、白き間の奥で立つウェスタに言った。ウェスタの指の周りには、小さく青白い光が渦を巻いていた。

「ひどいな、マーク。そんなこと言うなんて。何の根拠あってそんなことを言うの?」

ウェスタはそう言って、哀しげな表情を浮かべる。

「結局、全てキミが思い描いたシナリオ通りに事が進んでいるからだ」

「だとして、あなたはロベスピエール打倒のために私の力に頼る他ない。だからここに来たんでしょう?」

「そうだ。ボクもこうして既にキミに支配されている。キミの力を借りなければ、どうにもならない状態に陥っている。キミの支配の力を使えば、ロベスピエールを止められるかもしれない」

「果実の力が彼に渡っている以上、それはできない。絶対という保障がないから、何が起きるか分からない。果実を持つ彼には、私の力は及ばない可能性が高い」

「それじゃ、キミは一体何が目的なんだ?世界の平和と均衡を維持することがキミの願いなんじゃないのか?今それが刻々と目の前で崩れようとしている」

「私は私の仕事をするだけよ。それが目的。誰かに理解される必要もない。それで、そんなことをわざわざ言いに来たわけではないでしょう?あなたは、私に答えを求めに来た」

「そうだ。ボクらはどうしたら良い?」

「そうね。ロベスピエールに立ち向かうには、三本二対、六本の指輪が揃う必要がある。それが唯一の彼が持つ黄金の果実への突破口」

「二対の指輪?」

「あなたも良く知っているでしょう?」

「アムラシュリング?」

「そうよ。でも、あなたが持つその指輪は、呪われている。ニーベルングと同じようね」

ウェスタは、マークの指輪を指さして言った。

「ニーベルング?北欧神話のニーベルングのことか?」

「そう、ジークフリードとブリュンヒルデが身を滅ぼしたニーベルングの指輪。アムラシュリングは、ニーベルングの指輪と同じ。力ある指輪は、所有者を滅ぼす。使う度に、所有者を蝕んでいく。身に付けた者は必ず呪われ、身を滅ぼす運命にある」

「まさか」

「アムラシュリングは代償がないように見えて、所有者の最も大切な何かが次第に壊れていく。例えばマーク、あなたの場合は大切にしている記憶とかね。気付かぬうちに所有者を侵食し、蝕んでいるのよ。自覚がないうちにね」

「そうなのか......?。ボクの記憶が消えていたのは、キミが操る青い蝶によるせいじゃなかったのか?」

「ようやく気付いてくれた?あれだけ強大な力が無償で使えるはずもない。普通に考えたら、分かることでしょ。そんな都合のいい話。親切心から言うけど、その指輪は早く手放した方がいいわ」

「でも、今のボクにはこれが必要なんだ」

「早くしないと、手遅れになる。アムラシュリングは、もとより神が所有していたもの。私たちに返還すべきだわ。そうすれば、私たちが責任を持って厳重に管理する。一本は大ピラミッドで厳重に守られていたのはまだしも、残りの二本は骨董市で投げ売りされてただなんて滑稽な話よね。前の所有者は意図してやったことなのかしら?それとも本当に価値が分からなかったのか。いずれにせよ、指輪はあなたの手に渡り、あなたはその力に気付いて、思うままに乱用した。その代償が後々あなたを襲うことになる。いや、既にもう侵食は始まっている」

「それでも、ボクには必要なんだ」

「指輪のことは、どこまで知ってる?」

「実は、三本の指輪の個別の能力の違い以外、ほとんど知らない」

「でしょうね。アムラシュリング・オチデンタルの存在はローマで知ったと思うけど、オチデンタルはあなたの持つオリエンタルと対になる存在。この対の指輪をあなたが持つオリエンタルと同時に行使することで、黄金の果実に匹敵する力になり得る」

オチデンタル......英語で「西方の」の意。
オリエンタル......英語で「東方の」の意。

「そうなのか?そんな話、文献でも見たことがない」

「当たり前よ。マーク、本当に大切なことは記録されないもの。秘密は文字では残されない。だから秘密なのよ」

「なら、キミが持つ指輪を貸して欲しい。ロベスピエールを止めて、その後に必ず返す」

「その保障は?あなたがロベスピエールに敗れる可能性もある。二対の指輪まで彼の手に渡ったら、それこそ全てが終わる」

「それでも必ずやり遂げるさ」

「そんな根性論はどうでもいい。それに対の指輪を同時に使った者は、その力の引き換えとして死ぬわよ」

「え......?」

「自分の命と引き換えにしてまで、彼と戦う勇気があなたにあるかしら?」

「なら、お前の指輪は俺が使う。マークがオリエンタル、俺がオチデンタルを使って、奴の首を刈る。呼吸を合わせて俺とマークで同時に使えばいい。なら、誰も死なないだろ?俺とマークならできる」

二人の会話を隣で聞いていたホルスが、拳を胸の前で握りしめて言う。

「まあ、だけどそう上手くいくかしら?」

納得がいかない様子のウェスタ。

「上手くいくに決まってる。思いついた俺は、やっぱり天才かもしれないな!どうだ!」

ホルスは自信げだった。

「なるほど.....!その策があったか!ホルス、いけるかもしれない。いや、もうそれに賭けるしかない。ボクらがやるしかないんだ」


To Be Continued...



Amlash Rings

アムラシュリング
古代イランの魔法の指輪。模様の柄が秘める能力に対応している。所有者の身の安全を守る強力な効果を発揮する。全部で3本存在する。マークは2本を骨董市で手に入れ、もう1本は大ピラミッドのトトの隠し部屋で入手した。

Impetum

アムラシュリング・インペトゥム(攻撃の指輪)
インペトゥム(Impetum)は、ラテン語で攻撃の意。周囲に十二本の刀剣を展開した後、個々を自由に飛ばすができる。また、飛ばした刀剣と使用者の位置を入れ替えるブレードホッパーが可能。ただし、入れ替わった刀剣は飛来時の加速度が低下する。

Difensio

アムラシュリング・ディフェンシオ(防御の指輪)
ディフェンシオ(Difensio)は、ラテン語で防御の意。周囲に十二枚の盾を展開し、使用者を防衛する。自在に展開することが可能であり、縦方向に並べて展開することで強度を増したり、3×4の長方形状に展開して巨大な盾を造り上げることも可能である。

Gravitas

アムラシュリング・グラウィタス(重力の指輪)
グラウィタス(Gravitas)は、ラテン語で重力の意。重力を操ることが可能ゆえに「この世の王たる指輪」と呼ばれる最も強力な指輪。その自由度の高さ、破壊性は使用者に強大な力を与える。クフの大ピラミッド内に位置する知恵の神トトの隠し部屋(ジェフティの宝物庫)に長らく封印されていた。

アムラシュ文明
古代イランの騎馬民族が形成した青銅器文明のひとつである。イランのカスピ海に隣接するギーラーン州の都市アムラシュの名から採られた。アムラシュ文明の遺物は、前900〜前800年頃の地層から出土する。中でも青銅製の指輪は著名な出土品のひとつである。これらは山岳地帯に形成されたネクロポリス(集合墓)の横穴式墳墓の中から副葬品として出土した装身具であり、同心円の上に幾何学模様を描くのが特徴である。当時の富裕層に属する人々に捧げられたもので、宗教的な世界観を示した幾何学文様ないし家紋と思われる図柄を共通して採用している。



Shelk🦋

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