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2021年6月の記事一覧
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_幼少期_7
「大川君のお父様とお母様も、こちらが望むことは、家業の大川運送を畳んで他県まで引っ越して頂くことです」
「そんなっ! うちはここらで一番歴史が古い…」
母の提案に、大川くんのお父さんは悲鳴を上げた。
「だってうちは、大切な一人息子を傷つけられたんですよ。あなた方の大切なものを取り上げなければ、釣り合いが取れないじゃないですか。それとも、離婚して息子さんを施設におくる方にしますか? 息子さんの
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_幼少期_8
う”わんっ。と、大川くんの声が脳内に反響した。
えりちゃん、そーた、リョウ、なお。
僕が乱暴な子たちから、大人たちの煩わさから身を守るために、盾にして蔑《ないがし》ろにしてきた子供たち。
僕は自分だけが我慢をして傷ついているとばかり思っていた。
だけど、違っていた。大川くんに気付かされた。
点と点がつながった感覚が頭の中で弾けて、目の前の世界が変わる。
僕が見ようとして見ていなか
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_幼少期_9
まるで巣穴から、わらわらと黒いアリが這い出すように、会議室に侵入する人の群れ。立錐《りっすい》の余地もないほどに、隙間なくぎっちりと埋め尽くすと、方々から様々な声が漏れた。
「お父さん、お母さん」
「どうしてここに」
「いや、嘘をついていたわけではなくて」
匂いが消える。おそらく、周囲の人々の頭の中が真っ白になったのだろう。
「じいちゃん、ばあちゃん」
「あぁ、直人。迎えに来たんだよ」
【加筆・修正ver】杉藤 俊雄 は××したい_閑話_01
1989年12月25日(月曜日)
気が進まないな。
岡道 栞奈《おかみち かんな》は、ため息を我慢して改札を出る。毎年恒例の12月25日《くりすます》ならば、気の合う友人たちとクリスマスパーティーをして、夜には家族とクリスマスケーキを食べて、思いっきりだらだら過ごしていたはずなのに。
ぐちぐちと脳内で愚痴をこぼして駅前の広場へ出ると、雪がうっすらと被っている山稜《さんりょう》が見えた