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Qちゃん、U子の疑似結婚生活『大きなうちにすみたいな』/夢のマイホーム⑥

「夢のマイホーム」と題して、広い一軒家を求める藤子キャラたちを追ってきたシリーズは、本稿で六本目。一本目の記事では「オバケのQ太郎」から、借家住まいの大原家が一念発起して土地購入に乗り出して、まんまと頓挫するお話を紹介した。

本稿では、「新オバケのQ太郎」から、Qちゃんがひょんなことから豪邸を借りることになって、U子さんと疑似結婚生活を送るというお話を取り上げる。

過去記事はこちら。


「新オバケのQ太郎」『大きなうちにすみたいな』
「小学四年生」1972年2月号/大全集2巻

Qちゃんと弟のO次郎は、ボーリング遊びをしようとピンとボールを用意するのだが、居間は伸一が勉強をしていて気が散ると言われ、客間ではママが友人たちを呼んで女子会(?)をしていて、正ちゃんの部屋は押し入れの整理中、寝室はパパがたまの休みで昼寝をしている。

よって、それほど大きくない大原家(借家)では、Qちゃんたちが十分に遊べるスペースはないのである。

「狭い家は困る」「コマラッタ」とQちゃんとO次郎は愚痴って、仕方なく外へと遊びに出る。「大きくなったら僕らの家を建てよう」と二人は夢を語りながら飛んでいると、都心に建っているとは思えない豪邸が目に入る。広い庭には池まである。


庭に降りて、改めて広さに感動するQちゃんとO次郎。池には大きな鯉が泳いでいる。すると池の傍で座っていた学生服の男が、「錦鯉ってんだ。一匹100万近くする」と二人に声をかけてくる。

パッとしない風情の学生だが、聞けばこの広い家に一人で住んでおり、退屈しているという。この広い豪邸は、学生の持ち家で、何かの事情で家族も誰も住んでいないようなのである。

部屋に通された二人は、3000万円の絵、3000万円のお皿、5000万の壺を見せられ、目を回すQ太郎。O次郎も「マワラッター」と一言。Qちゃんは「一日でもいいから住んでみたいよ」と感想を言うと、O次郎も「イチラッタ!」と続く。今日はやけに饒舌なO次郎なのである。

男は「じゃ一日貸してやる、自分の家のつもりで使ってくれ」と大盤振る舞いだが、その代わり夜まで絶対に家を空けない、掃除をしておいてくれという条件付き。そんなことはお安い御用ということで、Qちゃんたちはこの広い豪邸で一日過ごすことになる。


豪邸住まいの一日体験開始。まずは約束の掃除をしてしまうことに。ところが、廊下は長いし、部屋数は多いし、ガラス窓は大きい。二人でアクセク働いても、まだ半分も終わらない。ひとまず、お腹が空いたので先にお昼を済ませることにする。

大きい家は見た目にはいいけど、実務的(掃除や移動など)なことは大変。これは「ドラえもん」の『ゆうれい城へ引っこし』などでも描かれている。


台所を見てみると、魚や野菜などの食材は豊富だが、調理せずに食べられるものはない。料理はからっきしだし、家を空けるなと言われているので、大原家に戻ることもできない。いきなり飢え死にのピンチなのである。

そこでO次郎が名案を思い付く。女の子の友だちであるU子さんを呼んで、料理と掃除をしてもらおうというのだ。溺れる者は藁をもつかむというが、全く女の子らしさを見せないU子で大丈夫なのだろうか?

なお、本作同様、女の子に家事をさせようとするお話に、「パーマン」の『やさしいやさしい女の子』がある。これらの作品は、描かれた時代の価値観、すなわち女の子=家事をする人という役割が当たり前とされた空気を反映した内容となっている。

ただし、我らが藤子作品では、凝り固まった価値観は壊されるものと決まっている。専ら、女の子はこうあるべきだという今でいう偏見を、見事にひっくり返してギャグにしたりするのである。


呼ばれてきたU子は「すごい家じゃんか!」と言って登場。Qちゃんは「ワーイ、ご飯が来た」と大喜びだが、U子は昼を済ませており、大きな部屋を利用してプロレスごっこをしようと言い出す。

そこでO次郎が二つ目の名案を思い付く。それはU子さんにお嫁さんの疑似体験をしてもらうように誘導して、ご飯を作ってもらおうというのである。こうして考えてみると、O次郎の方が人を利用する術を身に付けているようだ。

U子にお嫁さんごっこを提案すると、自分がお嫁さんだと、O次郎が子供で、Qちゃんは居候だと言い出す。Q太郎が自分が旦那様の役だと立候補すると、「想像もつかなかったわ」と冷たい一言を放ちつつ、「我慢して間に合わせときましょ」と納得したようである。


お嫁さんごっこの始まりだが、Qちゃんが「オイ」と声を掛けたので、「ちゃんと名前を呼びなさい」とキレる。「じゃ、U子」と言うと、今度は「呼び捨てにするとは失礼な」と激怒する。なかなか気難しい年ごろのようだ。

U子はQちゃんたちにご飯を作らせようとするが、「お嫁さんが作るものだ」と強めに主張すると、「やってみるわ」とU子が台所へ向かう。

これでやっとご飯にありつけるかと思いきや、U子は庭の池でおかずとして鯉を釣ろうとしており、Qちゃんは「キャア、百万円の錦鯉!!」と止めに入る。

その後も3000万の皿にとても食べられそうもない物体を盛り付け、全く食べられたものではないので残してしまうと、残飯を5000万の壺に入れたりする。


その後もU子が掃除をしてくれるかと思いきや、「珍しいものばかり」と、部屋中を物色して逆に散らかしてしまう。Qちゃんが猛抗議すると、「Qちゃんが借りている家なので構わないでしょ」と大反論。

二人が口論しているうちに、この家の主人と奥さんという二人が現れる。二人によれば、アルバイトに5000円払って掃除と留守番を頼んであったという・・。

ここで情報整理をすると、豪邸に一人で住んでいると言っていた学生服の男は留守番のアルバイトで、対価として5000円を貰っていたにも関わらず、仕事をQちゃんに押し付けて消えたということなのだ。

Qちゃんは「代わりの者なら掃除して帰れ」と豪邸の持ち主に捕まってしまい、U子は「私離婚する」と言って逃げ去ってしまう。これにて疑似夫婦生活も破綻し、QちゃんとO次郎はロクにご飯も食べられぬまま、掃除をして回ることになるのであった。


掃除を終え、「狭い家はいいなあ」とQちゃんとO次郎はフラフラになりながら大原家へと戻る。部屋にはパパがいて、ママがいて、伸ちゃんと正ちゃんがいる。手狭でも、どこか楽しそうな雰囲気に満ちている。

そう、「狭いながらも楽しい我が家」とはよく言ったものなのである。




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