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中世後期のドイツへ『ゆうれい城へ引っこし』/「大長編ドラえもん」になりそうな話①

『ゆうれい城へ引っこし』
「週刊少年サンデー」1976年6月増刊号
初出『古城のゆうれい』/大全集20巻

以前【F先生亡き後の「大長編ドラえもん」まとめ】という記事で、自分も新しい大長編のネタを考えてみようかな、と書いた。全く新しいテーマを見つけ出すのは至難の業であるから、原作から要素を抜き出してみるのがよいかも、というようなことも書いた。

そうした観点で原作全体をざっと読んだときに、大長編にするのに有力だろうと思われる作品が何作かあるので、それらをピックアップして検討してみたい。

今回は、その第一回目として、「ドラえもん」の中でも有数の大ボリューム作であり、日常から離れた舞台設定と、中世後期までの時代的なスケールをもつ『ゆうれい城へ引っこし』を検証していく。


舞台は、日本からはるか離れたドイツの古城。この城の持ち主はロッテ・ミュンヒハウゼンというハンサムな女性。500年前にエーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼンという男爵が建てた古城である。

ミュンヒハウゼン男爵には元ネタがあって、「ほらふき男爵の冒険」という奇想天外な冒険物語であるが、この男爵の名前がミュンヒハウゼンであった。「ドラえもん」では男爵は、ほら吹きではなく賢い人物として描かれるが、幽霊が現れるというホラ話に引っ掛けているのかもしれない。

ドイツの古城といえばメルヘン街道を想起させるが、メルヘン街道と言えばグリム童話の「ブレーメンの音楽隊」の舞台でもある。グリム童話の世界と、古城という立地、500年前の中世ヨーロッパという時代設定を組み合わせれば、大長編に相応しい物語が構築できそうな気がしてくる。


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さて、本作は借家暮らしののび太のパパが、新築の物件探しから帰ってくるところから始まる。野比家が用意できるのは1000万円だが、それでは良い条件が見つからないらしい。その話を聞いていたのび太が、ドラえもんに「ユメのある話はないか」と尋ねると、週刊誌の情報でドイツの古城が1000万円で売られているので買いに行こう、という夢たっぷりの話をしてくる。

のび太たちは「どこでもドア」でミュンヒハウゼン城へと行ってみることにする。時差の関係で現地は夜。真っ暗な城に入り、城を買いに来たと大声を出しながら、奥へと進む。のび太は冗談で、「漫画だとこういう城にはゆうれいが出てくる」、と言うと、珍しく震えあがるドラえもん。と、そこに灯りを持った女性がヌッと現れる。幽霊かと慌てる二人だが、彼女はこの城の持ち主ロッテだった。

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ロッテは、ドラえもんには珍しい美人の女性キャラクターで、それこそ大長編のヒロインとして登場してもおかしくない美貌と存在感がある。彼女はドイツ人であるため、ここで、大長編の大定番となる「ほんやくコンニャク」が登場、これで会話が成立する。なお、「ほんやくコンニャク」は本作が初出だが、サイズはそれほど大きくなく、食べやすそうだ。

ロッテが言うには、この城には愛着があるが、場所も市街地から遠く離れているし、税金もバカにならないので手放すことにしたという。夢を求めてやってきたのに、そこでも夢の無い話を聞かされることに。

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そこにロッテのおじのヨーゼフが現れる。「弁護士で、この城の財産を狙っている」とロッテに紹介されると、「狙われる財産もない癖に」と軽くいなす。そして、この城を買うのはいいが、ゆうれいが出るのだという。城内には、この城を立てたご先祖・エーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼンの肖像画が飾られている。「彼が幽霊なら会ってみたい」とロッテ。

ロッテは、「何日でも住んでみて、気に入ったら買ってちょうだい」と太っ腹なことを言って、バイクに跨り走り去ってしまう。叔父はその後を車で追っていく。

せっかくなので、のび太たちはパパとママも呼んでくることに。「その城の近くには安いスーパーはあるのかしら」とユメのないママだが、物は試しとばかりに、身の回りのものだけ持って出かけてみることにする。

広い城内に入ると、パパもママも表情を緩ませる。しかし、ママは埃っぽい部屋を気にして掃除を始めるが、思っていた以上に埃が舞い、部屋も物凄く広大なので、だんだんと掃除が嫌になっていく。パパも落ち着かないのであちこちの部屋を動き回るが、日本の家から電話やら来客やらで呼び出され、その度に遠くから走っていかねばならず、こちらも嫌気がさしていく

結局、ママとパパは「とてもじゃないが住めない」と、家に戻ってしまう。「根性がないんだよな、近ごろの親は!」と呆れるのび太。


のび太とドラえもんは、広いベッドでどら焼きを食べたりして、城生活を満喫していたが、のび太がドラえもんに時間を聞くと・・

「午後六時・・・。ドイツ時間だと午前二時。草木も眠る丑三つ刻(うしみつどき)」

「なんでそんな怖い言い方するんだよ」とのび太が抗議すると、静かな城内からガチャ、ガチャ、と怪しい男が聞こえてくる。恐る恐る見に行くと、動く鎧が目の前に歩いてくる。幽霊が本当に出た!と、のび太とドラえもんは走って逃げ帰ってしまう。

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日本に戻ったその夜。のび太が鋭いことを言い出す。

「マンガなんかだとさ、たいていニセ物なんだよ。城とか家とかに秘密があってさ、悪い奴は幽霊に化けて、人を寄せ付けないよう脅かすんだ」

「もしそうだとしても怖いから、もう城のことは忘れよう」と二人は寝てしまう。

ここまでのび太は、ベタなマンガの例を引き合いに、ゆうれい城の展開を予測した発言を繰り返しているが、これは逆に本作がよくあるストーリーだということを、先に宣言していることに他ならない。このよくある話を踏まえて、ドラえもんらしさをここから足していく。

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のび太たちが逃げ帰った後のミュンヒハウゼン城では、ロッテが鎧のゆうれいに対して、「中身がおじさんだとわかっているのよ、狙いは何?」と、問い詰めている。鎧を着た何者かは走って逃げ出す。追うロッテだが、突き当りの部屋で見失ってしまう。と、そこに隠し扉が見つかり、そこをくぐると地下への階段がある。どうやら伝説の秘密の抜け穴であるようだ。奥に進むと、そこは昔の地下牢。と、そこで扉が閉まり、ロッテは地下牢に閉じ込められてしまう…。

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数日後、のび太は、ミュンヒハウゼン城の持ち主のロッテが、城の中で姿を消してしまったというニュースを聞く。のび太はここでも「くさいよ、犯罪の匂いがするよ!」と勘を働かせる。のび太は普段はどうしようもない言動を繰り返すタイプだが、大長編となると勇気も出るし、勘も働く。本作もその傾向が出ているようだ。

ロッテを助けに行きたいが、幽霊は怖い。そこでドラえもんは思いつく。「こっちも幽霊を出すんだ、しかも本物を!」


城の庭ではおじのヨーゼフが、深い穴を掘っている。先祖が埋めたという財宝を探しているのだった。ヨーゼフは財宝を探すため、城を買いに来た者を幽霊の姿で脅して、追い返していたのである。

すっかり穴を掘るのが嫌になったヨーゼフに、鎧姿の男が近づいてくる。それは、ご先祖・エーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼンであった。ヨーゼフは男に立ち向かうが、一蹴されてしまい逃げ出す。そして逃げた先にはのび太とドラえもんが待ち受けていた。

閉じ込められていたロッテを救うのび太たち。そこで、ロッテとご先祖様の初対面となる。「年月を経ても妻の面影がある」と相好を崩すエーリッヒ。気丈な態度のロッテに対し、「弱音をはかんとこが気に入った」と、おもむろに大石をどけると、そこには金銀の財宝が隠されていた。

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翌朝、日本ではまだ夜中。朝日に向かって、エーリッヒとロッテは語り合う。

「ミュンヒハウゼン家を盛り立てるのじゃ。昔日の栄光を取り戻すのじゃ!!」「はいっしっかりやります」

「城を買う夢は夢のままで終わったね」と、にこやかに二人を見守るのび太とドラえもんなのであった。

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大長編になりそうなポイント。
ドイツのゆうれい城という舞台設定。500年前の先祖の話も組み込むと、壮大なスケール感が出せる。ここにグリム童話の要素を入れたりして、さらに広がりを持たせることも可能。(←ここ深堀できませんでした…
ロッテというヒロイン、ヨーゼフやエーリッヒなどのキャラクターも魅力的。

是非これを読まれた藤子プロの方はご検討下さい。。

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