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ミクロなキッズの探検隊/のび太、ミクロの決死圏③

『のび太救出決死探検隊』(初掲載『あこがれの大冒険』)
「小学五年生」1980年12月号/大長編9巻

突然だが、「ドラえもん」の主人公はドラえもんだろうか? のび太だろうか? 

答えとしては、「二人とも」というのが正しいかと思うが、藤子先生はのび太に自分自身を重ね合わせるという発言をされているので、僕はどちらかと言えばのび太が主人公なのだと思っている。

また、ドラえもんがいなくても、極端な話ドラミちゃんがいれば物語が成立する。しかしのび太がいないと、話は成り立たない。その意味からも、のび太が「ドラえもん」に欠かせない主人公であると言える。

注)正確に言えば、「ドラミちゃん」に登場しているび太の親戚のび太郎が主人公の話はあるが・・。この辺の事情を知りたい方は下記の記事を参照ください。


そんな「ドラえもん」において、のび太がほぼ不在の物語が一本だけ存在する。それが、今回記事にする『のび太救出決死探検隊』である。

本作は扉を除いて14ページの作品だが、のび太は7コマしか登場しない。タイトルからわかるように、裏山で遭難したのび太を救出に行く話なので、メインの探検隊はドラえもんやジャイアンたちとなる。例えるならばのび太は本作では、「プライベート・ライアン」のライアンのようなものである。

なので、かなり珍しい構成となっている点に注目して、物語を追っていきたい。

冒頭、スモールライトで小さくなってラジコンに乗っていたのび太が、エンジン不調で学校の裏山に落ちてしまう。ドラえもんはヤレヤレといった感じで裏山へと向かう。

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一方、スネ夫とジャイアンが、熱心に会話をしている。「昔はジャングル・高山・南極・北極と世界中に魔境があった。けれど今は隅々まで探検しつくされて、冒険する場所が残されていない、つまらない世の中になった」と憤っている。

ちなみにこの不満、本作の翌年に連載が始まった大長編の「のび太の大魔境」でも全く同じことが言われており、その意味で本作は「大魔境」のパイロット版として楽しむことが可能だ。

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ドラえもんからのび太の話を聞いたジャイアン・スネ夫は、そこに大冒険のチャンスを感じる。しずちゃんも誘ってドラえもんに合流して、「俺たちものび太救出決死隊に加わる」と言い出す。

「そんな大げさな話ではない」とドラえもんは否定するが、スネ夫たちは自分たちも小さくなって、のび太を助けに行こうと提案する。要は、自ら大冒険を作り出そうというわけだ。のび太救出は単なるきっかけにすぎないのである。

ジャイアンに脅され、結局ドラえもんは「ガリバートンネル」を出して、小さくなり、ジャングルと化した草原に向かって、「探検隊・前進!」となる。本作はスモールライトとガリバートンネルの両方が使われる珍しい作品となっている。

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意気揚々と歩き始める一行だか、この高まった冒険気分が次々と壊されていくエピソードが積み重ねられる。太鼓の音が聞こえてくると、ジャイアンたちは「人喰い人種の太鼓」だと盛り上げるが、「あれは学校のドラムの練習だ」としずちゃんが盛り下げる。野原はゴミだらけで、興ざめ。

崖が行く手を遮るが、ドラえもんの道具を使うと白けるということで、ビックライト、タケコプターなどの便利グッズは置いていくことにする。冒険気分台無しからの、ドラえもんのひみつ道具を手放すという流れは、完全に「のび太の大魔境」へと継承されている。


便利な移動アイテムを手放したので、ここからが本格的な冒険の始まりだ。まず、崖をよじ登っていくが、しずちゃんは「洋服が汚れる」と文句を言って、「洋服の心配をする探検隊なんてあるか」と呆れられる。

続けて、大蛇(ミミズ)や恐竜(トカゲ)に襲われ、空気砲で追い払う。大きな湖(池)に辿り着き、回り道は大変だということで、転がっていた靴をいかだの代わりにして渡ることにする。ところが、靴には穴が開いていて水が入り込み、沈みそうになるところを必死に漕いで向こう岸までたどり着く。

いつの間にか本格的な探検隊の気分になっている。

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間一髪助かると、今度は雨が降ってきて、「キャンピングカプセル」で雨宿りをすることに。こちらの道具は「のび太の恐竜」でお馴染み。びしょ濡れとなってしまったので、しずちゃんから順番にシャワーを浴びることに。

しずちゃんは、雨が止んだら帰ろうと言い出し、ジャイアンは「冒険しようなんて言い出したの誰だ!」とスネ夫をにらむ。この辺りのシーンも「のび太の大魔境」に転用されている。

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すると、カプセルから窓の外を見ると、狼煙が上がっている。のび太が助けを求めている、と途端に元気を取り戻して、煙の地点まで向かうことにするドラえもんたち。雨はいつの間にか止んでいる。

と、そこに、草むらから現れたのは、なんとドブネズミ! 空気砲を構えていたドラえもんは、速攻で気絶してしまう。襲い掛かるネズミ。ジャイアンはドラえもんの手を借りて、空気砲をぶつけて怯ませた後、すかさず逃げ出す。

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ネズミはしつこく迫ってくる。空気砲を撃とうにも、エネルギーが無くなって使えない。崖に追い詰められるジャイアンたち。そして、崖から落ちてしまう。・・・と、そこには故障した飛行機に座るのび太の姿

「なにやってんだ」と怒るが、それどころではない。タイムふろしきでラジコン飛行機のエンジンを故障する前の状態に戻すことに。崖を下ってドブネズミが襲い掛かろうとするが、間一髪ラジコンに乗り込んで飛び立つことに成功する。

ほんとに大冒険だったね、とラストの余韻なく冒険は終了となる。

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本作は小さくなっての冒険と、ジャングルでの冒険、という二つの側面を持った作品となっている。小さくなっての部分は大長編6作目「のび太の宇宙小戦争」に引き継がれ、ジャングルの冒険は大長編3作目「のび太の大魔境」へと継承される。二つの大長編の要素が入った、とても贅沢な作品であるように思う。

また、のび太を救出する物語、つまり、のび太不在の物語である点が、本作のユニークさを引き立てている。ドラえもんが不在のケースは、ドラえもんの故障話や「帰ってきたドラえもん」など複数存在する。のび太が活躍しない話は、本作しか思い浮かばない。


さて、3回に渡ってのび太たちが小さくなる冒険ものを紹介・考察してきた。他にも小さくなる話はかなりの数があるので、どこかでリスト化させたい。その他、ドラえもんの考察、たくさんやってますので、下記のINDEXから読んでみて下さい。


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