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初めてジャイアンが歌った日『ショージキデンパ』他/藤子Fの嘘つき物語⑥

一体何があったのだろうか?

不朽の名作『うそつきかがみ』が発表されたのが1971年5月のこと。本作が好評だったのか、ウソというテーマが深掘りに値すると考えたのか、この年は「ウソ」を扱った作品が立て続けに3本描かれた。

『うそつきかがみ』についての記事は以下。


一口にウソのお話と言っても、様々なバリエーションが用意されているので、ワンパターンの印象は全くない。藤子先生は、元来、同一テーマを繰り返し使う作家だが、その内容はとても幅広いのだ。

本稿では、1971年の3作品を一挙に紹介するが、是非とも「ウソ」というテーマを様々な切り口で膨ませた、豊かなバリエーションを堪能していただきたい。


『ソノウソホント』
「小学二年生」1971年7月号/大全集3巻

ドラえもん史上最強とも言われているひみつ道具「ソノウソホント」。鳥のくちばしのようなデザインで、これを口に取り付けて嘘を言うと本当の事になるという代物である。

色々とツッコミどころのある道具で、話したことが本当になるという意味では、全てに応用が利くので、かなりの万能感がある。

なお、ほぼ同じ形状で似たような効果のある「うそつ機」という道具もある。ややこしいが、こちらはしゃべったことを「本当の事のように思わせる」効果を発揮する。こちらは既に記事になっているので是非。


ことの発端は、みんなのパパ自慢。スネ夫は社長で偉い、もう一人の少年は学者で頭が良い、そしてジャイアンは力が強いと胸を張る。ジャイアンの父ちゃんは、板を片手で割っちゃうと自慢されて、のび太はつい、自分のパパなら石(見た目は岩)をげんこつで割ってしまうと嘘をつく。

そういうことがあって、「ソノウソホント」を使って、パパを力持ちに変貌させて岩を割らせる。それを見たジャイアンが悔しがって、父ちゃんに声をかけ、のび太のパパと相撲対決になるが、あっさりと投げ飛ばしてしまう。

調子に乗ったのび太は、「パパは本当はスーパーマンだ」と嘘をついて、空を飛ばす。さらに、「父さんは自転車と望遠鏡を買ってくる」と嘘をつき、本当に買ってきてもらう。

その気になれば、何でも叶ってしまう恐ろしい道具なのである。


『いんちき薬』
「小学二年生」1971年9月号/大全集3巻

子供って嘘をつく。特にありがちなのが、ウソ泣きと仮病である。

のび太は夏休みの宿題が終わらず、あと一日あれば何とかできるということで仮病を使って学校を休もうとするのだが、ママには簡単に見破られる。・・・たいていの子供の嘘は大人は見抜いてしまうものだ。

のび太はドラえもんに泣きつくが、最初は拒否。けれど「今度だけ助けてくれたらこの次から真面目になるつもりだった」と深く落ち込む様子を見せるので、優しい(甘い)ドラえもんは助け舟を出すことに。

名前はないが、病気ごっこに使う薬を出してくれる。のび太は「薬を飲んで病気になるのは変だ」とか言いながら服用すると、見た目だけカーッと高熱が出たようになる。

のび太のママは「まあーっ」と驚いて、大わらわ。のび太が宿題に取り掛かると、ママが「病院にタクシーで連れていく」と言って氷のうを持ってきてのび太のおでこに乗せるが、一気に沸騰しかねない様子を見てさらにパニックに。

救急車を呼ぶと言うので、今度は体が膨張する薬を飲ませて、車に乗せられないようにすると、のび太の変わり果てた姿に、ママは「キャー」と悲鳴を上げる。

仕方なく往診の医者を何とか手配して連れてくるママ。医者は一目「こんな病気は見たことない」と絶句し、ありったけの注射を打とうと言い出す。フワフワと飛んで逃げ出すのび太。

そこでドラえもんが「葬式ごっこの薬」をのび太に飲ませると、いきなり仮死状態になり、それを診た医者は、

「冷たくなって心臓も止まっている。こりゃもう駄目ですな」

と死亡宣言。

ドタと、逆に死んだように倒れ込むママ。我が子のことは、心から心配なのである。

嘘だったとママに告げ、結局ずる休みも撤回することに。ここまでウソばっかりだったが、先生にも怒られるのを観念したのび太は、

「怠けたのが悪かったんだ。悪いことした時には、叱られた方があとさっぱりする」

と最後は男らしくなるのであった。


さて、ウソの親自慢・ずる休みに続いて、次なる「ウソ」話は、ガラッと変わって人を正直にさせてしまうひみつ道具のお話。


『ショージキデンパ』
「小学二年生」1971年10月号/大全集3巻

「うそつきかがみ」から始まった1971年のウソ話は、本作で4作目。これまでと違って、ウソをつけなくなるという要素がユニークだ。さらに、本作において、ジャイアンが初めて歌を皆の前で披露する、記念すべき回でもある。


冒頭、本山君という初登場人物が、のび太に文句を言っている。曰く、スネ夫の双眼鏡をのび太からまた借りしたが、のび太のカバンの中に返したという。

しかしのび太のカバンの中には双眼鏡はない。スネ夫は本山の言う事を信じ、のび太に対して、あの双眼鏡はスイス製で何万円もする高級品だと脅す。


本山・スネ夫に責め立てられ、弱り切って帰宅するのび太。本山には絶対に返して貰ってないとドラえもんに泣きつくが、「思い違いってこともある」とのび太を疑うセリフ。のび太は君まで僕を疑うのかと、さらに大泣きする。

そこでドラえもんは、どんな嘘つきも本当の事をしゃべらせる「ショージキデンパ」の発信機を出す。試しにのび太がボタンを押してみると、電波がドラえもんにあたり・・

「いや、本当はのび太君の勘違いだよ。君はおっちょこちょいで、忘れん坊だから。でも可哀想だから、一応調べよう」

と本音をベラベラとしゃべり出す。・・・恐ろしい道具である。(本日二度目)

のび太はドラえもんの告白に対して怒りに震えるが、「よく正直に話してくれた」とグッと堪える。これで本山のヤツに白状させようと出掛けていく。


ところが本山はのび太の訪問に居留守を使う。何かやましいことがありそうな雰囲気。そこで仕方なく、のび太たちは本山を探しにいく。すると、空き地でジャイアンが、ミニリサイタルを開いている

空き地で箱の上で歌い上げているジャイアン。6人くらいの男の子が聞いているが、後年のように「ホゲェ~」と言った文字で見てもオエッとくるような酷さは、まだ感じられない。


のび太は歌っているジャイアンに本山を見なかったか聞くと、歌を止められて怒るジャイアン。

「うるさいっ。みんな俺のいい声に聞きほれてんだ」

と、自分のことを美声だと思っている様子。

みんなに「是非聞かせてくれとせがまれた」と語るジャイアン。聴衆の少年たちも「ほんとに素敵な声だ」「歌手になればいい」と賛辞を送る。ジャイアンは「俺、歌だけは自信あるんだ」と誇らしげ。

自称天才歌手、ジャイアンの誕生の瞬間である。


本山を捜し歩いていると、スネ夫が合流してきて「スイス製だ」「高いんだ」と催促してくる。しずちゃんが歩いてくるので、「本山を知らないか」と尋ねると、家にいると答える。しずちゃんは、この間ずっと本山の家で遊んでいたのだという。

意外な交友関係に驚くが、のび太たちはそこには触れずに、スネ夫を連れて3人で本山の家へと向かう。家の前では、スネ夫と本山のママが、井戸端会議で互いの子供を褒めちぎっている。


ショージキデンパを使って本山のママに居留守だったことを吐かせると、本山の家へと入っていくのび太たち。本山は「確かに君に返した」と譲らないので、ショージキデンパを当てる。

「じ、実は」と口を割りそうになるが、堪える本山。デンパをさらに強めるのび太。・・・そしてついに、本山は白状する。

「双眼鏡は僕が壊した。弁償させられるのが嫌で、ウソついたんだよ」

これでのび太の冤罪が晴れるのだった。


・・・が、話はここで終わらない。デンパを浴びてしまったスネ夫が、ここで意外な告白をする。

「スイス製の高級品というのは嘘。お祭りの屋台の売れ残りのおもちゃ」

・・・。なぜ、そこで見栄を張るのか、スネ夫よ。

さらに、ショージキデンパを強く発信してしまったばかりに、外部へ漏れてしまったようで、本山の家の外では、スネ夫と本山のママが、先ほどの褒め合いから一転、互いの息子を罵倒しあっている

「何よっ、バカで嘘つきのくせに」
「いつも学校で怒られているの知ってんだから」

ママさんたち、本音がエグすぎる


さらに空き地では、ジャイアンの歌を黙って聞いていた少年たちが、本音を爆発。

「ジャイアンの歌なんて胸が悪くなるよ」
「音痴」
「怖いから仕方なしに聞いてやってんだ」
「下手くそ」

と散々な言い草。ジャイアンは泣きべそをかきながら、少年たちをボコボコに暴れ出すのであった。


嘘も方便とはよく言ったもので・・。



さて、長きに渡ったウソ特集は次回でひとまずの最終回。お楽しみに。。


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