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のび太恐怖の一日 エイプリルフールをめぐる4年間の攻防!/考察ドラえもん㉘

突然だが「しょうとんどの鬼退治」という昔話をご存じだろうか。

しょうとんどとは、ホオジロのこと。ホオジロがヒナ5匹を人のいいお地蔵さんに預けて食料調達に行っている間、鬼たちがお地蔵さんを騙して、ヒナが一匹ずつ食べられてしまう、という衝撃的なお話である。

ホオジロは、5度も騙されたお地蔵さんを非難することなく、鬼が悪いのだということで、鬼退治に向かう。鬼退治のさまは、「桃太郎」と「さるかに合戦」を合わせたような趣がある。

この話を始めて読んだとき、しょうとんどの考えと違って、人の好過ぎるお地蔵さんを責めたい気持ちになった。何度も騙されているんじゃないよ、同じ手口に引っ掛かっているんじゃないよ、と。


「ドラえもん」におけるのび太は、そんな人のいいお地蔵さんのように見える。何度も簡単に騙される。特に4月1日は、嘘をついても許される、とされる日だ。大手を振って、皆がのび太を騙そうとする。だから、のび太にとって、エイプリルフールは、一年でも有数の嫌な日である。恐怖と言っても差し支えない。

そんなわけで、本日4月1日は、「ドラえもん」のエイプリルフールに関するお話を見ていくことにしたい。

『うそつ機』「小学四年生」1973年4月号/大全集3巻

冒頭、意外にものび太がジャイアンに嘘をつくシーンから始まる。「しずちゃんがジャイアンを素敵だと褒めていた」と嘘をつき、ジャイアンはまんまと騙される。

騙されて頭にきたジャイアンに対し、エイプリルフールだとネタを明かすと、ジャイアンは「4月1日?お前は勘違いしているのではないか」と言い返してくる。

のび太は今日は4月2日だったと慌て、ジャイアンは「殴られても文句言えないな」ということでのび太をボコボコにする。ところが、今日はやはり4月1日。ジャイアンの嘘の返し技に一本食らわされるのび太であった。

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この4月1日と2日を勘違いするドラマは、初期作品の「ゆりかちゃん」や「パーマン」の『四月バカ』などでも登場するF先生の常とう手段。

セリフで処理されているが、この後スネ夫としずちゃんにも騙されたというのび太。何とかしてお返しがしたいとドラえもんに相談する。

ドラえもんが出した道具が「うそつ機」という鳥のくちばしに似たひみつ道具。これを口に被せて嘘を吐くと、どんなデタラメでも本気にさせるという。

さっそく嘘をつきに出掛けることにする。

まずは勉強しろと言いたげなママに対して、「ママは私で、あなたがのびちゃんだ」と嘘をつく。するとママは嘘を本気にして「そうだったのか」と勉強机に向かう。

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外へ出ると、スネ夫がもう一回のび太を騙してやろうと現われ、「のび太の家が火事だ」と嘘を吐く。するとのび太は、「その火が延焼して今はスネ夫の家が火事だ」と嘘を返すと、スネ夫は慌てて家に戻って、荷物を外へと放り出すのであった。

さらにジャイアンが散歩している犬にお前が人間だと声を掛けると、犬は立ち上がってジャイアンをズルズルと引っ張っていく。このうそつ機は犬にも効果があるらしい。

調子に乗ったのび太は、町中に「火星人が攻めてきたぞ」と声を張り上げ、大パニックを引き起こす。さすがにやり過ぎたと止めるドラえもん。ちなみにこのシーンは、アメリカのラジオドラマの「宇宙戦争」を聞いた市民が本当だと勘違いしてパニックを起こしたという都市伝説から着想しているものと思われる。

こんなにあっさり騙せては面白くない、ということで家に戻るのび太だったが、のび太になっていたママは相変わらず勉強机から離れずご飯を作ってくれないのであった。

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さて、仕返しをしたにせよ、仲間全員に騙されていたのび太。その翌年もひどい目に遭う

『帰ってきたドラえもん』「小学四年生」1974年4月号/大全集4巻

本作は有名なので詳しくは解説しないが、ドラえもんが未来に帰ってしまった後のお話である。一人になって落ち込んでいるのび太に、スネ夫とジャイアンが嘘とつき、まんまとこの年のエイプリルフールも騙されてしまう

悔しくて仕方がないのび太だったが、ドラえもんが残した道具「ウソ800」を使って仕返しに成功し、さらにその薬の力によってドラえもんが再び未来からやってくる。ドラえもん史上屈指の感動的なエピソードとなっている。

『ハリ千本ノマス』「小学四年生」1975年4月号/大全集5巻

前作から一年後・・・。2年連続でこっ酷く騙されていたのび太は、本作では、エイプリルフールを意識しすぎて、全てのことが嘘のように思える極度の疑心暗鬼状態

のび太にドラえもんが「君に電話」だと話しかけるのだが、そこから「そんなデタラメに引っ掛かるもんか」と疑って見せる。ママにも電話だと催促されてようやく電話にでる始末。

電話はスネ夫からで、切手のコレクションを止めるので今まで集めた切手をやるから取りに来い、というもの。昨年までののび太だったらホイホイいくようなところ、

「そりゃどうもありがとよ! 誰が騙されるもんか」

と全く相手にしない。と、そこにジャイアンがやってくる。ケーキを山ほど貰って食べきれず分けてやるからすぐ取りに来い、という。もちろんのび太は全く信じない。

ドラえもんはそんなのび太の様子を見て、今日がエイプリルフールであること、毎年笑い者にされているので、今年は騙されまいと誰も信じられなくなっていることに気が付く。

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その頃、空き地のジャイアンとスネ夫は、のび太が騙されてくるのを、まだかと待っている。そこにしずちゃんが現われて、

「いくら四月バカでも喜ばせておいてがっかりさせるのは可哀そうよ。それより、ビックリさせといて後でホッとさせる方が親切だわ。あたし親切な嘘をついてあげよう

と、結局のところ、嘘つき宣言をして行ってしまう。「やはり騙すんじゃないか」とジャイアンたち。確かに・・。

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のび太は話しかけられただけで、嘘だ嘘だ、と疑り深くなっているのだが、ドラえもんは独り言という形で「ハリ千本ノマス」というハリセンボン型の小さなバッジを置いていく。これを付けて誰かに嘘をつかれると、相手はその嘘を本当のことにしなくちゃならなくなる、という説明も添えて。

それでも疑っているのび太だが、試しにバッジを付けてママに、「何でもいいから嘘をついて」と頼んでみる。ママは「今月のお小遣いを1000円余計にあげる」と言うと、バッジが「ノマスー」と鳴り、ママは意に反して財布から1000円を取り出してのび太に上げてしまう。

これで自信をつけたのび太は、堂々と騙されに空き地へと向かう。

空き地で待っていたジャイアンとスネ夫は、のび太を見かけると「来た!底抜けのバカだ」と喜ぶ。ところが、のび太に再度「ケーキを分ける」「切手をやる」と嘘を復唱してしまい、バッジが「ノマスー」と反応。

すると体が勝手に動くように、ジャイアンはケーキを買い、スネ夫は家から集めた切手を出して、のび太へと嫌々届けてしまう。積年の恨みも解消されてご満悦ののび太。

むしろ嘘をつかれるのを待っている状態となったのび太に、しずちゃんが話しかけてくる。先ほど親切な嘘をつくとか言っていたが・・・。

「あっ、のび太さんここにいたの! 大変よ。あんたの家が火事よ

大胆な嘘を言うしずちゃんの、妙に座った目が印象的な一コマであるが、この嘘にバッジが反応し…、しずちゃんは自分のついた嘘を実行しようと、マッチに火を付けてのび太の家に向かうのであった。

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嘘には2種類の嘘があることを示した一本だが、しずちゃんの言う「親切なうそ」は「ハリ千本ノマス」にとっては害悪となってしまう、というお話であった。

『化石大発見!』「小学六年生」1976年4月号/大全集4巻

さて三年連続でエイプリルフールの悲喜こもごもを経験してきたのび太。もう騙されることはないかと思いきや・・・。冒頭、スネ夫たちに渡されたいかにも怪しい宝地図を手掛かりに、既に子供では掘れないような大穴を開けてしまっている。「だから言ったら、そんなものインチキに決まってるって」とドラえもんが愚痴るが、時すでに遅し。

というか、こんなあからさまな嘘に騙されるなよ! と。

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本作は、その後のび太たちの近くで化石の発掘をしているおじいさんと出会い、感動的なドラマが生み出されていく。展開としては、「エスパー魔美」の『ドキドキ土器』とそっくり。ということで、これは別の記事で紹介したいと考えている。

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「ドラえもん」は嘘に関する話が非常に多い。「ソノウソホント」「うそつきかがみ」「世の中うそだらけ」など、枚挙に暇がない。のび太は、エイプリルフールに限らず、一年中嘘をつかれて落ち込んだり怒ったりしているのだ。

のび太は人の好いお地蔵さん。彼が悪いんじゃない、騙す方が悪いのである


「ドラえもん」の考察含め、色々な記事を書いていますので、気になった方は目次から飛んでみて下さい!


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