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1年が1日の男と、1時間が1日の男『ノロノロ・チャカチャカ』/ノロノロ・チャカチャカ③

子供の頃、「月刊ムー」も大好きだったが、雑誌「ニュートン」も好きだった。あの頃は、科学も疑似科学もたいして区別が付かなかったのかも知れない。サイエンスもサイエンスフィクションも、僕の中では同じように興味をそそる内容であった。

「相対性理論」という言葉を知ったのは「ニュートン」の最新宇宙論の特集号を読んでのことだった。時間の流れは絶対的ではなく、相対的であるという衝撃的な理論で、つまりは立場によって周囲の時間の流れ方が異なってくるという考え方である。

光速は誰がどこから見ても一定である。そのため、光速度(に近い)で進む飛行船があったとして、その外側から船内を見るとは時間の流れが遅く見えるというわけである。

なんのこっちゃわからなかったが(ていうか今でもよくわからない)、時の流れは人それぞれという事実が科学的だということがわかり、そうした科学を取り入れた嘘(=フィクション)についても、大変な興味を持ったのである。


「ノロノロ・チャカチャカ」と題して、時間の流れ方が異なる人々の大騒ぎを描いた物語を紹介しているが、僕の中では子供の頃の「相対性理論」を知った感動が含まれた作品群である。

藤子先生もきっとアインシュタインを知って、衝撃を受けた一人なのではないかと、勝手に想像をめぐらすのである。


さて、少し前の記事で「ゾウの時間、ネズミの時間」について触れた。心拍数が少ない生物と多い生物では、同じ一分間を生きるにしても体感時間は異なるのではないか、という仮説である。

本稿で取り上げる「21エモン」の『ノロノロ・チャカチャカ』は、この考え方をズバリ取り入れた、ネズミ型宇宙人とゾウ型宇宙人が同時につづれ屋に宿泊することでの騒動を描くお話である。

両極端のキャラクターがどのように一緒に過ごして、どのように噛み合わないのかを、是非とも大笑いしながら読んで欲しい傑作である。


「21エモン」『ノロノロ・チャカチャカ』
「週刊少年サンデー」1968年30号/大全集1巻

いつも変わった客(宇宙人)しかこないつづれ屋は、贅沢が言えない経営状態なので、泊まりに来てくれるお客さんは全て受け入れていくしかない。

以前の記事で、つづれ屋の宿泊客名簿を作成したので、もし余裕があるようでしたら、読んでみて下さい。(本作の話題も出ています)


本作ではまず一人目の宇宙人が訪ねてくる。それがゾウ型宇宙人のスロモー星人である。つづれ屋の入り口ドアの前にずっと立っていて、中に通すと泊まろうかどうかを考えて始め、結局泊ることにすると決めるまで実に1ページ使っている。

オナベが部屋へと案内するが、半歩一コマのペースで歩き出すので、たまらずモンガーが部屋にテレポートさせる。そして風呂にするか食事にするかを尋ねると、5コマ使って考え、結局結論は先送り。決まったら教えてくださいと言い残して、オナベは退散する。


スロモー星人のことが事典に載っている。全て読むことができないが、一部抜粋すると、スロモー星は公転周期が365日の星で、この星の一日が地球の一年にあたるという。半年起きて働き、半年眠るのだそうだ。

21エモンは、

「時間の感覚が、まるで違うんだなあ」

と感心する。

父親の20エモンは、泊めたからにはお客様のテンポに合わせようと決める。せっかちなモンガーは、「むうずうかしいいい」とひとまずゆっくりしゃべってみるのだった。


さてスロモー星人が呼び出しのブザーを鳴らす。「ブ~ザ~」とだらけた音なのは押した人の性格によるものだろう?

ゆっくりと部屋に向かい、途中寝転がったりして時間を潰して部屋に入ると、「早かったなああ」と喜ばれる。そして懸案だったご飯かお風呂か問題で、ご飯にするという話を聞き終わるまでに、10コマ消費する。

途中から聞いててイライラしてきた21エモンは、たまらず

「この漫画は13ページしかないんだから、あまりコマを使わないでほしいや」

と思いっきりメタな発言で、苛立ちを表現する。


さて、ここでもう一人のゲストが登場する。シュシュシュと目にも止まらぬ動きでつづれ屋に入り込み、突如姿を現わして「泊るぞ。部屋はどこだ。すぐメシに入って、フロを食う」とまくし立てる。見た目はネズミ型の宇宙人である。慌て過ぎて、言葉の使い方も間違えている。

何も反応しないうちに、「こっちか」と二階に駆け上がっていく。そして「ブザブザブザブ・・」と呼びベルを連呼。21エモンが向かおうとすると、「呼んでるのになぜ来ない」と言って、お客自らビューと走ってくる。

そしてこのホテルは部屋に壁も天井もないとクレームを入れてくる。そんなバカなと付いていくと、そこは屋上。この宇宙人はせっかちというか、単なる物知らずなのだろうか? そして屋上にいて、どのようにベルを鳴らしたのだろうか。


ここでようやくネズミ型宇宙人のことが事典で見つかる。「チョコマカ星」という、この星の一日は地球の1時間にあたる、高速移動している星である。30分ごとに昼と夜が入れ替わり、挨拶は「オハヨウナラ」だという。。


スロモー星人とチョコマカ星人。全く別のスピードで生活している二人が邂逅した時に、どのような事態が起きてしまうのだろうか。

まずは2人の時間の感覚について頭の体操をしてみよう。スロモー星では一年が地球の一日なので、地球人の1/365のスピード感だ。一方、チョコマカ星では地球の1時間が24時間にあたる。つまり地球人の24倍のスピードを持つ。

スロモー星人からすると、チョコマカ星人は24×365=8760倍のスピードで動いているように見えるのだ。


ブザブザブザとベルと同時にチョコマカ星人が飛んでくる。部屋の中に立っている銅像が邪魔なのでどけてくれというクレームである。

そこでモンガーのテレポートを使って部屋へとジャンプ。せっかちなチョコマカ人にはテレポート(瞬間移動)は抜群で、「このサービスは気に入った」と喜ばれる。

で、銅像というのはスロモー星人のことである。チョコマカ星人は、慌ててスロモー星人の部屋に飛び込んでいたのだ。そして今さら部屋の移動は面倒くさいということで二人はそのまま同じ部屋に宿泊することに。


チョコマカ星人が相部屋で良いかとスロモー星人に聞くと、「わしわ~べつにぃかまわ~ないぃ」と4コマかけて返事をするので、この間にチョコマカ星人はじれった過ぎてひきつけを起こしてしまう。

チョコマカ星人はフロに入ると言い出すが、お湯が溜まるのを待てずに空のお風呂に身を沈める。風呂の次はすぐメシだと言うが、まずは先に注文していたスロモー星人の食事が出される。


チョコマカ星人は他の人がのんびりしているのを見るのは許せない。自分より8760分の1の遅さで動くスロモー星人と面と向かうのは、まるで地獄のよう。

ゆっくり食事している様子にイライラが爆発。ブザーと一緒に一階に降りていき、モンガーを連れて戻り、スロモー星人の食事を胃袋にテレポートさせてしまう。チョコマカ星人は留飲を下げるが、一年に3回しかない食事を堪能しているスロモー星人にとっては、迷惑千万である。


チョコマカ星人は自分の食事はまだかと厨房をウロチョロしていたが、完成して部屋には運び入れた時には、すでにご就寝。スロモー星人も4コマかけて、自分も寝ると寝室に入っていくと、入れ替わりでチョコマカ星人が飛び出してくる。

「寝すぎた寝すぎた」と慌てており、急ぎ会計を済ますとビュウとホテルを飛び出して行く。結局滞在時間は1時間であった。1時間で一泊分のお代を頂けたわけだが、ではスロモー星人はどうなるのか?

スロモー星人はたった今、半年間の眠りについたばかり。それで宿泊費は1泊分。こちらは完全に割りが合わないようである。


時間の感じ方が両極端の二人が顔を合わせるとロクなことにならない。特に同居関係にある場合、食事のペース一つで喧嘩に発展してしまうので要注意。そんなメッセージを受け取れる作品であった。


「21エモン」の記事も書いています。


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