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あやとりとは芸術である。『家元かんばん』/のび太の3大特技がスゴイ!あやとり編③

勉強も運動も苦手なのび太だが、特技と呼べるものが少なくとも3つある。それが「射撃」「昼寝」「あやとり」である。しかもただの得意というレベルではなく、世界的な実力の持ち主。

今回は「のび太の3大特技がスゴイ!あやとり編」と題して、のび太の特技の一つ「あやとり」に関するお話を一挙紹介してきた。これまでの記事はこちら。


記事を読んでもらえばわかるが、のび太のあやとりにかける情熱は凄まじく、寝ないで新技を開発したり、長い間工夫を凝らしたり、勉強そっちのけで長時間研究していたりする。

しかしあやとりという派手さのない、どちらかと言えば不要不急な競技(?)であるため、のび太の作品やそれを生み出す努力は全く認めてもらえない。

本稿では、そんなのび太の日頃の不満が解消されるお話を見ていきたい。


『家元かんばん』「小学五年生」1982年6月号/大全集11巻

さて、本作も冒頭はのび太の新作発表→無視という流れで始まる。今回は三か月も苦心して工夫を続けた新作あやとりの「ギャラクシー」を完成させる。興奮したまま空き地のみんなのところへ自慢しにいく。

「教えて欲しい者、この指と~まれ」

と声を掛けるが、その瞬間に誰もいなくなってしまう。マル無視である。

のび太にとってあやとりは「芸術」。なぜ皆が興味を持たないか疑問だし、あやとりをみんなに教えたくて仕方がないのである。


あやとりの雑な扱いの愚痴をこぼしていると、ママが下の階で嬉しそうに電話の応対をしている。聞けば、お花の先生からで、ママがデパートの生け花展出品した作品が、家元の目に留まって褒められたのだと教えてくれたのだという。

ママに生け花の才能があったとは驚きだが、のび太の興味はそこではなく、家元は先生よりも偉い存在なのかと言うことであった。

ママの説明では、家元とはお花、お茶、舞踏などの一つの流派の中で一番偉いのだという。のび太は「つまりは組織の大親分か」と理解する。


のび太にとって、あやとりはまさしく華道や茶道と横並びの芸術で、もしあやとりが人気なら、自分は野比流家元になれるはずだ・・と夢想する。それを聞いたドラえもんは、「なれないこともない」と言って取り出したのが「家元かんばん」である。

この板に書き込めば、何の家元にもなれるという、即席家元製造機である。のび太はパッと見「汚い板だなあ」と感想を漏らすが、これは長い歴史と伝統の証。・・・これはラストの伏線にもなっている。


さっそく「野比流あやとり」と書き込んで、家の玄関に貼り出す。そしてドラえもんはのび太に対して、

「僕がコーチして、一流の家元にしてやる。他に何のとりえもない君には、これしか生きる道はない!」

と、エール(?)を送る。ドラえもんは、『あやとり世界』と言う作品では「自分の手がゴムマリみたいなのであやとりができない」と半ば発狂してのび太の邪魔をしていたが、今回はのび太に協力的なのであった。


入門者を待つ間、初心者用に白ひも、初段以上に黒ひもを用意する。柔道の白帯や黒帯を参考にしたグッドアイディアである。

しばらくすると、第一号の入門者が現れる。しずちゃんである。嬉しさのあまりのび太は思わず「いらっしゃ~い」と駆け寄るのだが、ドラえもんは「家元はもっと重々しく振舞わなきゃいけない」とアドバイス。


そこで急に態度を変えて「入門を許しましょう」と厳かな対応を取る。うやうやしくひもを授けて、まずは「さかずき」の指導から。多少の心得のあるしずちゃんは「それくらい知っているわ」と返してくるが、そこでのび太は

「基礎を疎かにしては、真の芸術は生まれません!」

と、いかにも家元らしい訓示を述べるのであった。


しずちゃんへの指導を続けていると、「家元かんばん」の影響で、ジャイアンとスネ夫も入門を申し込んでくる。入門してやってもいい、というような態度できたので、家元のび太は、

「あやとりは「心」だ!! そんな態度では入門の資格はない!」

と追い出してしまう。

怒って出ていく二人だったが、看板の権威には逆らえず、「入門させてくれるまでは動きません」と、玄関の前で座り込んでしまう。内心では「なんでこんなこと・・・」と思っているので、「家元かんばん」は思わず体が動いてしまうような仕掛けになっているようだ。


すっかり家元気分ののび太だったが、ママからお使いを頼まれ、思わず「え~っ、家元にお使いを?」と不満たらたら。ところが、入門希望者のジャイアンが引き受けてくれたので、晴れて入門を許すことに。

一人取り残されたスネ夫は、何とかして家元のび太の気を引きたい。得意のごますりを活かして「宿題をやってあげる」と声を掛けるが、ジャイアンが「出木杉にやらせてくる」と言って、手柄を横取りされてしまう。


その後は弟子入り希望者が殺到。支部を作らないと・・ということで、しずちゃんとジャイアンに先生の免状を出すことに。ジャイアンは、「野比流発展のために尽くします」と泣きながら免状を受け取る。

のび太は、あやとり会館を建てて、海外支部を増やし・・・と野望を語るが、そこへ思わぬ伏兵が現れる。それは、何とかして家元にゴマをすりたいスネ夫。「汚い」家元かんばんに着目して、勝手に立派な看板に掛け替えてしまい、看板の効力が失われてしまう。

これにて、弟子たちは全員「バカバカしい!!」と言って、野比家から去っていく。その中には「怪物くん」のフランケンシュタインのような姿も・・・。

のび太の家元の夢は、あっさりと潰えてしまったのである。


さて、3回に渡って「あやとり」のエピソードを追ってきたが、後2本ほどおまけのお話を紹介しておきたい。

まずは『人間うつしはおそろしい』(75年3月)での一コマ。冒頭で先生に呼び出しを受けたママが、先生からの伝言として「あやとりばかりやってないで、スポーツもしなくては」と注意されたとのこと。のび太はいつも先生に言われているらしい。

その後「人間うつし」というばい菌を使って町中の人間を「のび太化」してしまうのだが、その結果ジャイアンがあやとりを始めてしまう。

続けて『「真実の旗印」はつねに正しい』(81年1月)では、冒頭でのび太が「手を挫いて宿題をできなかった」と言い訳して、先生が「さっき女の子とあやとりをしていたのは、足の指でも使ったのか!?」とウソだと見抜く。

のび太は日常的に学校でも女の子たちとあやとりに興じているようである。

以上、あやとりオマケ情報でした。。



「ドラえもん」の作品紹介しています。


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