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体がバラバラになる話・序論/考察ドラえもん㉛前半

「ドラえもん」では、体の一部分が誰かと入れ替わったり、体がバラバラになってしまうという過激な話がいくつか存在する。

それらは、切断された体の描写や一部分が取り替わった様子が刺激的で、とても印象深い作品ばかり。そこで、そうした作品群をまとめて紹介して、その特異性を堪能していきたい

まず手始めとして、体のパーツが入れ替わったり取れたりする3作品を一気に見ていきたい。そして、それを踏まえて単行本未収録のスーパーカルト作『分解ドライバー』(1977年6月発表)をじっくりと検証する。そんな二部構成の記事となる。

『手足七本目が三つ』
「小学三年生」1971年1月号/大全集1巻
『人間切断機』
「小学二年生」1975年12月号/大全集7巻
『からだの部品とりかえっこ』
「小学五年生」1976年4月号/大全集5巻

まず一本目『手足七本目が三つ』
こちらはバラバラ描写もあるが、メインは体の一部分を取り替えるお話。

お年玉が少ないので10円でも拾いたいというのび太の願いから、ドラえもんが出した道具は「つけかえ手ぶくろ」。この手袋を嵌めると、体の一部分を取ったり付けたりできるようになるという、少々ヤバそうな道具。

のび太の目を取って、片方を足に、もう片方を背中に付けて歩くことにするのだが、肝心の目の前が見えていない状態。そこで先生と遭遇するのだが、足の目で先生の姿を確認し、お辞儀は背中を向けてしてしまう。ちなみにこのギャグは、初期短編『ぼくは…うしろにつけた』にも登場する。

やはり前に目は必要ということで、ドラえもんはなるべく使いたくないと言いながら、体の部品がたくさん詰まったカバンを取り出す。そこから「人造目玉」を見つけてのび太の足につけるのだが、のび太は「もっと寄こせ」と、つけかえ手ぶくろとカバンを取り上げてしまう。

遊びに使ってはダメというドラえもんに対し、のび太は手袋でドラえもんの両眼をカポと取ってしまう。そして目の見えなくなったドラえもんはドブの中へ・・・。

のび太はこれらを使って、一儲けを画策する。こういった悪知恵はよく働くのび太なのである。まず「ちょっと手を貸して」というママに、「一本でいいね」と手の部品を渡して気絶させる。これと全く同じギャグが『分解ドライバー』にも登場する。

そして、スネ夫を脅してジャイアンやしずちゃんたちを呼び寄せてもらう。皆が集まったところで、おなかに口を付けてスネ夫の家で出されたおやつをムシャムシャと食べて、「オバケ!!」と驚かせる。この流れで、体の部品を一日十円で貸すのだと宣伝をするのであった。

ちなみにドラえもんの道具を使ってのび太が商売を始める話は良く出てくるが、どれも10円単位のささやかな金額となっていることが多い。費用対効果がまるで合ってない…と思うのは大人の僕だけだろうか。

家に帰ると、両眼を失っても機嫌が悪いことが一目瞭然のドラえもんが戻っていた。そこにさっそく体の部品を借りに友だちが集まってくる。

まずしずちゃんが、少女マンガのようなパッチリとした素敵な目にしたいとやってくる。最初は猫目を渡して、「ニャーゴ、フギャー!」と引っかかれるが、キラキラした目を見つけて付けてあげる。「素晴らしい、まんがそっくり」とメタな褒め方などして。

次にスネ夫がすらりと長い足を求めて、いかにも女性用の足を付ける。

次にやってきたのはジャイアンで、出べそを取り換えたいという切なる願いであった。しかし貸しヘソなんてものはない。すると、「俺の秘密を聞いといてできないじゃ済まされない」と逆上。そこにしずちゃんが借りた目は涙目で、スネ夫は水虫の足だとクレームにやってくる。

皆にボコボコにされたところで、商売は終了。すると、先ほど目を取られたドラえもんは、大男の腕を取り付けて仕返しをしようとするのだった。

続けて『人間切断機』。こちらはズバリ、のび太の体が上半身と下半身に切断されてしまうお話である。

事の発端は、楽しくテレビを見ているのび太が、ママから電球を買ってきてと頼まれたこと。テレビを見ながらお使いにいけないか、ということで、ドラえもんが出した道具が「人間切断機」である。ちなみにこの道具名は、タイトルにはなっているが、作中には登場しない。

のび太をベッドのような台に括り付け、巨大な電気カッターで体を二つに切ってしまうという見た目も物騒なひみつ道具である。のび太は最初手品だろ、などと言っていたが、実際に本当に切断されてしまい、

「ほんとに切るやつがあるか」

と名言を吐く。そんなのび太にドラえもんは、

「心配するな。簡単にくっつくのりがあるから」

と悪びれない。

足に電子頭脳を付けて、バラバラの行動開始。下半身が電球を買いに行くのだが、足だけで迷わず動けたり、会話ができたりという仕組みはいまいちわからない。

その後、下半身がジャイアンたちとサッカー、上半身がしずちゃんとトランプとで分かれて遊ぶことに。

サッカーをしていた下半身は、身軽に動き回って、ジャイアンを蹴飛ばすのだが、素早く動くので捕まらない。そこで、足は考える。

「さっきから気分が良いと思ったら、上に余計なものがのっていないからだ。これまで僕はいつも損してた。テレビ見たり、おいしいもの食べるのは、いつも上の方で…。僕は重い体をのせて、歩かされてばっかり」

下半身による反逆の目覚めである。

一方の上半身だが、楽しくトランプをしていたが、外から「公園でももぐちやまえのロケーションをやっている」という声が聞こえ、のび太を放ってしずちゃんとドラえもんは公園へと出ていってしまう。

ずるずると這い出して後を追うのび太。この辺りの描写がエグくて非常に印象的。そこに下半身が通りかかるのだが、「もう君をのせるのは嫌だ。僕は自由に暮らすんだ」と反旗を翻される。さらに、下半身に裏切られたのび太は、ジャイアンたちに先ほどの仕返しだとボコボコにされてしまう。上半身だけの無抵抗な人間をボコボコにするのは倫理的にどうなのだろうか・・・。

結局、水をうんと飲んで、一人でおしっこのできない下半身が音を上げてお終いとなる。

ちなみに本作で体をくっつけるのりが登場していたが、『合体ノリ』というお話で、似たような道具が出てくる。これはのりを指先に付けて合体したい相手に触ると、相手の力が自分のものになるという道具。へびとドラえもんの合体した姿がインパクト大のお話である。

続けて『からだの部品とりかえっこ』。こちらは体の一部分を友だち同士で入れかえる話。体全体を入れかえた「入れかえロープ」とよく似た展開となり、最後のオチも同じような大混乱で終わる。

「人体とりかえ機」という部屋にも入らないような大型な機械で、体を入れかえる。まず最初はのび太としずちゃんが頭を入れかえるというのだが、案の定しずちゃんは嫌がる。そこでしずちゃんに頼み込むのだが、その理由が泣ける。

「一生に一度でも、冴えた頭を持ってみたいという、いじらしい願いを叶えてやって下さるまいか」

渋々交換に了承してくれたしずちゃん。ところが、頭が取り替わることは、人間そのものを入れ替えることに他ならない。なので、頭が入れ替わっても、それは体が入れ替わっただけと変わらないのであった。しずちゃんはのび太の体になって、家に帰っていってしまう。

そして混乱はここから始まる。

しずちゃんの足をうっとりと眺めるドラえもん。脚フェチ?とか思っていると、ドラえもんは「自分の短足としずちゃんの長い足を取り換えたい」と申し出る。「体のまた貸しはまずいのでは」というのび太に対する、ドラえもんの願望がまた泣ける。

「すぐ返すよ。そのへんを駆け回って、長い足のスピード感を楽しんで、それからまた、とりかえればいい」

そして長い足を得たドラえもんは、「おおこの感激!このかっこいい姿を、記念写真に写してこよう」と、大喜びで走り去っていく。残される短足ののび太。

その様子を見ていたスネ夫。「人体とりかえ機」の存在を知って、

「そんなら僕にも前からの夢がある。いっぺんでいいから、スラリと長い腕と、細い指が欲しかった。この腕を僕のものにしてみたいな」

と今度は腕を持って行ってしまう。以前の『手足七本目が三つ』ではスラリと長い脚が欲しいと言っていたのだが、長い腕も求めていたらしい。

うっとりと腕を眺めるスネ夫から、今度はジャイアンが話を聞きつけてやってくる。ジャイアンは「一度でいいからスマートに痩せてみたい」という願い。嫌がるのび太を脅して、体を入れ替えて、「素晴らしい、この身軽さ、小鳥になったみたい」と羽ばたきながら走り去っていく。

そこにしずちゃんが戻ってくるのだが、変わり果てた姿ののび太を見てビックリ。しかし、複雑に入れ替わってしまった体を元に戻すのは、簡単ではない。オチとなるラストの混乱した様子は、「入れかわりロープ」の時とほぼ一緒の構図となっている。

本作では、のび太たちは自分の体のどこかに不満を感じていて、無い物ねだりをしているのだが、結局のところ、皆しずかちゃんの体を求めているということになっている。まとめてみると、

のび太 → しずかの頭(頭脳)が欲しい
ドラえもん → しずかの脚が欲しい
スネ夫 → しずかの手が欲しい
ジャイアン → しずかの体が欲しい

となる。そう考えると、しずちゃんは、理想的な身体を持っているキャラクターということになる。そんなしずちゃんも、少年マンガではなく、少女マンガの「目」が欲しいようなので、やはり誰もが隣の芝は青いのだな、と一人納得してしまうのだった。

では、こうした作品群を踏まえて、続けて大本命の『分解ドライバー』を見ていきたい。が、こちらは次回に続く!


「ドラえもん」の考察、たくさんやっています。分かりやすく目次にしているので、こちらから記事を探してみて下さい。


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