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ジャイアンとQちゃんの原点を見つけた!『別荘のオバケそうどう』/しかしユーレイはいない⑧

藤子作品では幽霊・ゆうれい船・化け猫などを扱った物語が多数描かれているが、大体においてそれらは存在しなかった、という終わり方となるのが通例である。

その一方で、ネッシーや雪男やツチノコなどのUMA系は存在することが多く、ユーレイとUMAは藤子先生の中できっちりとした区分されていることがわかる。

ともかくも、幽霊的なものは、もしかして存在するかも・・・と思わせておいて、実は人の手で作られたニセモノだったり、何か自然現象の偶然だったりと、拍子抜けするオチばかりなのである。


僕はこの手の作品を「しかしユーレイはいない」と呼んでおり、これまで7本の幽霊もの、3本の幽霊船ものの記事を書いてきた。

本稿で紹介する「しかしユーレイはいなかった」作品は、これまでとはパターンが異なり、ニセモノのユーレイを作って人を脅かそうという展開となる。いつもは脅かされる方だが、脅かす方に回る点がユニークである。


「てぶくろてっちゃん」『別荘のオバケそうどう』
「たのしい三年生」1962年8月号/大全集2巻

まず「てぶくろてっちゃん」をご存じない方多数かと思うので、まずは簡単に設定をご説明。

ひと言で言えば、何でもつくれるてぶくろを使って、てっちゃんが色々な物を発明し、友だちのようこちゃんと共に、ひと騒動するお話。毎回便利な道具が登場する構成で、「ドラえもん」や「キテレツ大百科」の原点と言われたりもする。

また、使われているネタやテーマが、その後の藤子作品で何度も使われるものだったりするので、藤子ファンとしては特に注目せねばならない作品なのである。

これまで書いた「てぶくろてっちゃん」の記事を多数あげておく。


まず冒頭、田舎のおじさんから郵便が届き、なんと別荘がいらなくなったからあげると書かれている。今すぐ行きたいてっちゃんだが、パパは今は忙しいので10日ほどしたら行こうと提案され、待てないので、自分だけ先に行くことにする。

仲良しのようこちゃんも誘い、汽車とバスで乗り継いで何とか山奥の別荘まで辿りつく。別荘と言う響きからは想像できないほどボロボロの家屋で、てっちゃんは「オバケが出そうだね」と感想を言い、ようこは「いやーん」と反応する。

この後のオバケの話題が出てくる前振りである。


埃だらけの部屋を掃除していると、大きなリュックを背負った短髪の男性が現れて、「君の家か」と聞いてくる。てっちゃんは得意げに「そうです」と答えたものだから、子供だけと言うことに気付かれて、一方的にここに泊まろうと言い出す。

てっちゃんは「宿屋じゃない」と諭すが、この男性、「世の中はお互い様だぜ」などと言い出す。そして、例のあのセリフが飛び出すのである!

「きみのものはぼくのもの、ぼくのものもぼくのもの」

そう、我らがジャイアンの強欲ぶりが発揮される、かの名ゼリフである。こういう「原点」がそこかしこに出てくるので、「てぶくろてっちゃん」は目が離せないのである。


さてこの男性、何者かはわからないが、とにかく自分勝手な行動をとりまくる。

てっちゃんが苦労して沸かしたお風呂に、一番で入って垢をこすり、お湯をあっと言う間に汚してしまうし、ようこちゃんが作ったご飯も勝手に一人で食べ始めて、そのまま食い尽くしてしまう。

堪忍袋の緒が切れたてっちゃんが、「君は厚かましすぎる」と注意すると、急に怖い顔で睨みつけてきて、言葉を封じてしまう。てっちゃんは、「あれならオバケの方がましだ」と意気消沈。


・・・ここで、てっちゃんに名案が閃く。僕らでオバケを作って脅かそうというのである。ここでようやくてぶくろの出番がやってくる。

まず手始めに大根を小型の幽霊に変身させる。見るからにカワイイオバケで、少々頼りなさそうに見えるが・・・。案の定、ベッドで晩酌をしている男の前に「うらめしい」と姿を見せるも、「飲み過ぎたのかな」とあまり相手にされないまま、男は寝てしまう、

あれじゃダメだということで、様々なヴァリエーションのオバケを6匹ほど用意して、オバケ部隊を編成し、束で男の部屋へ押しかける。

騒々しいのでさすがに男は目を覚ますのだが、眼鏡を外して寝ていたので、裸眼ではオバケかどうかわからない様子。てっちゃんが眼鏡を拾って男にかけさせるのだが、その瞬間に停電となり、真っ暗で見ることができなくなってしまう。


結局今晩男を追い出すのは諦めて、てっちゃんたちも眠りにつこうとするのだが、オバケたちのいびきと歯軋りがうるさくて眠れない。そうこうしているうちに、最初に作ったかわいいユーレイが、暗くて怖いから一人でトイレに行けないと言い出す。

オバケのくせに頼りないこの感じは、後の「オバケのQ太郎」に引き継がれているように思われる。


さて朝になり、改めて男を追い出しにかかる。ドカドカと男の部屋に押し入っていくのだが、誤って男のメガネを踏んづけて粉砕してしまい、またまた近眼の男はオバケたちの姿を見ることができない。

男は「何も見えない」と怒り出し、てっちゃんにどうしてくれるんだと迫る。仕方なく町まで買いに行くことにする。山奥の家なので、町まで降りるのが面倒ということで、針金を見つけてこれで眼鏡を作ってしまう。

男は目が見えないのを良いことに、オバケをこき使って肩を揉ませたり、足をマッサージさせたりしていたのだが、てっちゃんが作った眼鏡を掛けさせると、そこでようやく状況を把握。

自分を取り囲んでいたのはオバケ部隊だったことを知り、「キャー」とけたたましい悲鳴を上げる。想像以上の大きな声だったため、オバケたちもビックリ仰天。

男とオバケたちは、別荘から飛び出して、それぞれ別方向へと逃げ出してしまうのであった。


本作はジャイアンを代表する有名セリフが登場したり、Qちゃんを彷彿とさせる頼りないオバケが出てきたりと、なかなか興味深い一本となっていると思う。

「しかしユーレイはいない」シリーズとしては異色作品ではあるが、藤子先生の可愛らしいオバケ好きが発揮されているかと思い取り上げた次第である。

なお、別荘と幽霊はワンセットのようで、以下のような作品もあるので、気になる方は読んでみて欲しい。


他の作品はどうぞ目次から~。

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