見出し画像

月には人間がいる! ウメ星デンカの『月面着陸』/目指せ月のお話④

アポロ11号の月面着陸前後の宇宙開発競争に影響を受けた藤子キャラ(つまり藤子F先生)について見ていく「目指せ月の話」特集も、本稿で4本目。今回は初めての月面着陸の裏側で進行していた、とある重大な事態についてご紹介する!

その前に、これまで書いた記事はこちらです。


「ウメ星デンカ」『月面着陸』
「週刊少年サンデー」1969年34号/大全集3巻

まず「ウメ星デンカ」について、実は藤子Fノートではあまりご紹介できていない。どこかでじっくりと特集しないといけないと思いつつ、延び延びに・・。

概略だけ記しておくと、ウメ星が爆発してしまい、星の王様一家が地球へと逃げてくる。王室ということで、そもそも世間知らずの一家な上に、地球生活との文化ギャップもあって、二重三重にズレた人たちが揃ってくる。

「オバQ」に連なる、異世界の人物と人間の日常とのギャップで笑わせるタイプの日常系ギャグ作品である。

連載されていたのは、「パーマン」と「ドラえもん」の間の時期で、各学年学習誌や、一時期は「週刊少年サンデー」にも掲載していた。


ウメ星国王一家の宿願は、新しい自分たちの星(もしくは土地)を持つこと。宇宙中に散らばってしまったウメ星の人たちを集めてウメ星再興を夢見ている。かなりほんわかした作品基調ではあるのだが、彼らが置かれている状況は過酷なのだ。


登場人物は、ウメ星国王の息子であるデンカ。王様と王妃。そして一家の侍従ベニショーガ。そして途中から登場するお手伝いロボットのゴンスケや、デンカを好きになってしまう強烈キャラのナラ子など、個性的なウメ星の面々が揃っている。

デンカたちを迎え入れて居候させてあげるのが中村家で、そこの長男が太郎である。太郎の友人で、ジャイアンに比するキャラクターのフグ田や、しずちゃんに対応するみよちゃんがいる。


そんな概略を確認した上で、本作を見ていく。

時は1969年7月20日。NASAのアポロ11号が、人類初めての偉業となる月面着陸に成功する。月面に降り立ったのは船長のニール・アームストロングと操縦士のエドウィン・オルドリンだった。

作品に関わってくるので、月面着陸の経過を少しまとめておこう。

7月16日13時32分:ケネディ宇宙センターから打ち上げられる。
7月19日17時21分:月周回軌道に入る
7月20日17時44分:着陸船「イーグル」切り離し
7月20日20時17分:月面着陸
7月21日02時56分:アームストロング、月に降り立つ
7月21日17時54分:月から離陸
*時間は全て世界標準時で、日本時間はプラス9時間

アームストロングは月面を初めて踏み、「これは人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な跳躍だ」という有名な言葉を残す。


アポロ11号の打ち上げから月面着陸、そして船外活動まで、世界中の注目を一心に集めた。日本においても月面着陸の模様はNHKなどで放映され、視聴率は68%を記録したという。

当然、藤子キャラたちもこの偉業をTVで食い入るように観ていたわけだが、どうやらウメ星国王一家は違ったようで・・。


中村家では太郎とパパが月面着陸に向けて、イーグル号が降下していく模様に釘付け。パパはウイスキー片手に腰を落ち着けている。日本時間では深夜2時47分。いつもなら小学生が起きていてはいけない時間なので、太郎のママは早く寝なさいと叱る。

ママ「朝のニュースで見ればいいのに」
太郎「着陸の瞬間がみたいんだよ」
パパ「そうだ、人類の新しい歴史が始まる夜だ」
ママ「子供に夜更かしを勧めるんですか!!」
パパ「一晩の徹夜くらい命にかかわらん!」

おそらく当時、全国各地でこんな言い争いがあったに違いない。家族三人の口論を聞いたデンカたちが「うるさくて眠れない」と抗議しに部屋へとやってくる。


太郎が月面着陸のことを話すと、デンカたちは地球に来る前に月にも立ち寄ってきたらしく、月なんて何もないつまらんところだと言い捨てて戻っていく。

「地球人の気持ちは地球人にしかわからない。世界中の人がこの宇宙中継を見つめているんだ」と言って、3人でテレビを見る中村家。デンカたちが現れたので、口論してたことはウヤムヤとなったようだ。


世界中の注目が集まっていることを聞いたデンカたち。世界中の人が見ているということは、ウメ星のPRのまたとないチャンスなのではないか・・・と思い至る。宇宙中継でウメ星の悲劇を訴えて同情を買い、ウメ星再建に協力してくれる人を見つけようというのである。

そういうことで、さっそくウメ星の移動手段であるツボに乗りこんで、月へと向かう国王・王妃・デンカとベニショーガ。ゴンスケは月に行っても儲からないと言ってお留守番。


翌朝。いよいよ着陸態勢に入るアポロ11号を、眠い目をこすりながら注目する太郎。先ほど、アポロ11号の活動を時系列でまとめたが、日本時間で考えると、なかなか大変だったようだ。

深夜2時40分にイーグル号が切り離され、実際に着陸するのが朝9時17分。そして船外に降りてくるのが11時56分。そしてそこから船外活動となる。つまり、一部始終を見届けるためには、徹夜で昼過ぎまで起きていなくてはならない。日本人にとってはしんどいタイムスケジュールだったのである。


さて、アポロより先に月面にたどり着いたデンカたち。月ではお弁当を食べたと想い出話に花が咲く。そしてアポロの着陸船を見つけて、近づいていく。

着陸船の中では、船外活動の準備に時間がかかっているので、アームストロングらはなかなか降りてこない。(実際に3時間以上かかっている)

そこでデンカの側から、イーグル号の扉をノックする。船内ではノック音に思わず、「はいどうぞ」と答えてしまい、これが全世界に中継される。この時はまだ誰もが、冗談だと思っている。


そしてアームストロングがゆっくりとタラップを下って月面へと降り立つ。そして第一声に全世界の注目が集まる。

「この一歩は小さいが、人類にとっては・・・」

すると、アームストロングの前には、「祝月面到達之胃業」という誤字を含んだ看板を持ったデンカたちが出迎えている。「オーノー!!」とびっくり仰天の船長。


何が起こったのか、ヒューストンも中村家も含めた世界中の人々が注目する。そして船長はひと言、

「信じられないことだが・・・、月には人間がいる」

船長はカメラをデンカたちに向ける。すると画面に映し出されたのは、ウメ星国王一家の面々。そして国王は「わしはウメ星国王であるぞよ」とあいさつする。

「オー神よ!」

と、ヒューストンの職員たちは驚天動地の大騒ぎ。日本のテレビでもアナウンサーが「事実は科学空想小説よちも奇なりであります」と、たじろぐ。


非日常の藤子キャラが、このように大々的に世の中に知られるシーンはかなり珍しい。真実を知る人間である太郎は、デンカたちを見てまずいことになったと焦り出す。

信じられない現実を突きつけられたヒューストンは、この現実を受け入れない方向に舵を切り、緊急声明を出す。

「米国航空宇宙局より緊急声明。このような怪事件は事実とは受け入れがたい。我が国の壮挙を妬む某国の悪意あるイヤガラセと想像される。構わず月面活動を続けられたし」

地球では現実逃避の道を選んだが、現実を直視しているアームストロングたちは、夢見心地のまま活動を始める。そして、さらなる非現実的な現実を突きつけてくるデンカたち・・。この攻防がかなり笑えるところ。


・テレビを意識して「ウメ星良いとこ一度はおいで。チョイナチョイナ」と草津節ならぬウメ星節を歌い踊り上げる
・アメリカ国旗の掲揚に倣って、バカでかいウメ星王国の国旗を立てる
・岩石収拾している船員たちに漬物石ならこっちの方が良いと巨大な岩石を放り上げてロケットにぶつけて壊してしまう
・それに対して弁償するぞよと財布を取り出す国王・・

人類史をひっくり返す無茶苦茶ぶりを発揮するデンカたち。TVで見ている太郎は弱り果てる。


ロケットが壊れたので、デンカたちはアームストロングたちを中村家へと無事に連れて帰ってくる。そこで全世界の大騒ぎとなったことを知るデンカたち。

これまで月面着陸に向けて積み上げてきた努力を無為にすることだと太郎に説得され、ようやく反省する。もはや呆然と成すがままの船員二人・・。

そこで国王は「モイチド・マシン」を取り出し、時間を巻き戻すことに。「モイチド・マシン」は時間を逆戻りさせる道具だが、作中では二度目の登場となる。


・・・なんだか揉めていたような気がする太郎。TVでは月面着陸船が切り離されている。ウイスキー片手に画面に注目するパパ。もう夜の3時なので早く寝なさいと注意してくるママ。お話の最初まで時間が逆戻りしているようだ・・・。


アポロ11号着陸に着想を得て、あっという間に本作は描かれ、発表された。まさしくネタ取って出しの作品である。月面着陸は、子供も大人も大注目のイベントだった。月面着陸からマンガ化に至るスピード感から、アポロに対する藤子先生の熱が、しっかりと伝わってくる作品ではないかと思う。


藤子F作品、大量考察中です。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?