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世界初!徒歩で月を目指す男(のび太)『歩け歩け月までも』/目指せ月のお話③

1950年代後半から始まった米ソの宇宙開発競争。1969年には、人類の夢だった月面着陸をアポロ11号が成し遂げる。

藤子F先生も、藤子キャラたちもみんな月に憧れを抱き、自分たちも行ってみたいと考えるようになる。


そこで「目指せ月のお話」と題して、月を目指す藤子作品を一挙紹介していこうという企画。本稿はその第三弾となる。これまでの記事は以下。

一本目は「オバQ」から、日本人として月面を目指す正ちゃんたちのひと騒動を描いた『日本人 月に立つ』。こちらは、まだ月面着陸を成し遂げる前の、米ソが盛んにロケットを飛ばしていた時の作品である。
なんやかんや月を目指して飛び立つのだが、飛行中に宇宙船が解体し、月を舞台としたテレビドラマを放送中のスタジオに落下してしまう。

二本目は「キテレツ大百科」『江戸時代の月面図』で、キテレツが発明した土管型宇宙ロケットで単身月面を目指すが、発射後ロケットは解体して、月を舞台とした映画のオープンセットへと落ちてしまう。

つまり、ほとんどよく似た構成の作品なのであった。


本稿では、いよいよ「ドラえもん」から、のび太による目指せ月のお話をご紹介したい。


『歩け歩け月までも』(初出:月まで行ける?「道路光線」)
「小学五年生」1981年4月号/大全集10巻

満月の夜。のび太が寝ないで考え込んでいる。ドラえもんがどうしたのか尋ねると、「色々人生について考えていたら眠れなくなった」らしい・・。

のび太はこの世に生まれたからには、歴史に名を残したいのだという。目の前の小さなこともできないタイプが言いそうな妄言である。

ドラえもんは例えばどんなことがを聞くと、

・逆立ちで世界一周
・大仏さんの手で世界一のあやとりを作る

というのび太の答え。ドラえもんは、その答えにノーコメントを貫いて、押し入れへと戻ってしまう。

・・で、結局あれこれ考えていたため、翌朝寝坊してしまうのび太。ドラえもんは「くだらないことで夜更かしするからだ」と至極最もなことを言う。


優しいドラえもんは、今度だけは助けてやると言って「道路光線」という道具を出す。外見は大き目なスポットライトのようで、光で道路を作る機械らしい。

光なので一直線に道路が作られ、その中は四次元世界になっているので、何でも突き抜けてしまうという。とても便利な近道なのである。


のび太は光の道を突き進んで、学校へと向かう。途中、目的までの道すがら、家の中を光は貫くので、道路上の家庭のプライバシーはあったもんではない。

本作では小池さんがラーメンを食べている脇を通っていくが、これはオバQの『日本人 月に立つ』で、小池さんのクシャミをロケットの動力源にしたことのオマージュだろうか?

途中雨が降っても大丈夫。のび太は、おかげで滑り込みセーフで遅刻を免れたのであった。


帰宅後のび太は、この道路光線を使って、トンデモない野望を思いつく。なんと、月まで道路を通して、月面まで歩いて行こうというのである。のび太の思いがけない発想に、たまげるドラえもん。

と、ここで藤子F作品ならではの、お勉強タイム。月までの距離と、歩くとしたらどれくらいかかるのか、とても分かりやすく解説が入る。

・月までの距離=38万キロ
・一日毎晩3時間だけ歩く
・一時間5キロとして一日15キロ
・38万キロを15キロで割ると、25,333日
・つまり約70年かかる

のび太は70年という数字を聞いて、とても前向きな反応を見せる。

「みろ!長生きすれば何とか行けそうじゃないか。僕はやるぞ!世界で最初の徒歩月旅行者になってみせるぞ!!」

これを聞いたドラえもんは、「長生きするよ」と皮肉めいた感想を述べるが、「そう言ってもらえばありがたい」とのび太はこれまた前向きな励ましと受け取るのであった。


さてその夜。月が出たので、さっそく出発である。どこでもドアを入れた四次元ポケットを借りて、月に目がけた道路光線の中を歩き出す。途中でしずちゃんにも「行ってくる」と声を掛けて、意気揚々。

今晩は20キロ進みたいと言って、ズンズンと道路を進んでいく。少しずつ小さくなっていく町並み。飛行機が飛ぶ高度まで歩き進めるのび太。


ところが、すこしづつ異変が起こる。何だか、段々と歩きにくくなってきたのである。たまらず座り込んで一休みするのび太だったが、道路の勾配が徐々に急になっていき、ズルっと下方へと滑り出す。

のび太はそこでようやく気付く。月が高くなっていけば、道路は垂直になるということを・・! 時既に遅し、完全に垂直となった道路を、真っ逆さまに落下していくのび太。

そのまま、ドシンと道路光線の機械まで落っこちてしまう。庭にいたドラえもんはひと言、

「お帰り、早かったね」

そう。あっと言う間に徒歩月面旅行作戦は、失敗してしまったのである。


ちなみにこの話には、ちょっとした元ネタがある。

本作の約8カ月前。1980年8月号「小学三年生」の誌面にて、「どらえもん読者アイディア大発表」が行われた。その中で金賞作品の一つとして「道路光線」が採用され、2ページの短編が描かれている。

アイディアを出したのは、工藤敏男君8歳。敏男君は「道路光線銃」という、壁や家をすり抜ける光の道路を作り、その中を邪魔されず歩いて行けるというオリジナルの道具を思いついた。

藤子先生は「銃」ではなく、スポットライトのような大きさに変更させたが、アイディアはそのまま採用し、激賞の感想を残している。特に、光はまっすぐ進むので、光を道にすると一番近道となる、というアイディアが抜群だとしている。


この時の2ページ作品では、遅刻を免れるのび太→月まで歩こうと思いつく→出発するが光が垂直となって落ちてしまう、という作品の原形が完全にでき上がっている。


本作については、学校に一直線に行きたいという子供の思いつきが、光の道で月を目指そうという藤子先生のアイディアに繋がった、幸福なパターンであった。

本作のような公募による作品作りは、あまり例がないのだが、もっと定期的に実施しても良かったような気がする。ちなみに「ドラミちゃん」や「ミニドラえもん」も、一般公募から作られたキャラクターである。



「ドラえもん」の考察・解説やっています。


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